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中学時代② 嵐の前の日常

☆★☆ ☆★☆



「ねえ、小次郎くんって少林寺、辞めちゃったの?」


 勉強中に舞奈ちゃんが尋ねて来た。


「うん。アイツらを殴っちゃってから割とすぐに辞めたよ」


「そうなんだ…… あんなに楽しそうに通っていたのにね」


「……いや、少林寺はそんなに楽しいと思ったこと無かったよ?」


「え? 4年生から5年生にかけて一緒に帰ってた頃は凄く楽しそうに見えてたよ?」


「ああ…… それは、その…… 帰りに舞奈ちゃんと並んで歩けることが楽しかったんだよ」


「えッ? それって」


「一緒にお話ししながら帰るのが、週2回の僕の楽しみだったんだ」


「そっか…… ってじゃあ、少林寺は? 楽しくなかったの?」


「うん。最初から僕は、人を殴ったり蹴ったりする格闘技ってやつは性に合わなかった、と思う」


「そうだったんだ……」


「それに、アイツ等を殴った時の事は後悔してないけど、あれからずっと心が重くて、なんだか僕が僕じゃなくなったみたいな嫌な気持ちになることが何度もあるんだ」


「嫌な気持ち……」


「うん。例えば、校長先生が僕たちに学校に来るよう言ってきた時とか、あの時に似た怒りの感情が溢れ出して、抑えるのが大変って感じ……」


「そういえば、右手の骨折は治ったの?」


「え? あ、あはは…… わかんない」


「ええ!? わかんないって?」


「実は、あの日舞奈ちゃんに連れられて病院には行ったけど…… あの後は一回も病院に行ってないんだ」


「ええ~~!? だめじゃん?」


「しばらくは痛かったけど、薬指の骨折って、案外特に不便もなかったしね」


「そうなの?」


「僕はそうだったよ?」


「……」


「……」



☆★☆ ☆★☆



「もうすぐ中間テストってやつだね」


「そうだね。でも、どんな感じなんだろ? 小学校のテストとは違うってお母さんから聞いたけど」


「あ、通信教育の右下の方に『中間テスト対策』っていうバナーがあるよ?」


「ホントだ」


 二人ともクリック。


「へー…… 中間テストの傾向と対策(1年生一学期)だって」


「そういえば校長先生が、来月(6月)って言ってたよね?」


「言ってたね」


「でも、この年間予定表だと5月25日~26日になってるんだけど……?」


「う~ん。良く分からないけど、不登校生徒だから少し遅れるのかもね?」


「テスト期間中は先生たちも忙しいのかな?」


「たぶんね」


「その分時間に余裕があるからしっかりやってみよ?」


「おう。本気出すぜ~?」


「負けないからね~」


「あはははは」


「えへへへへ」



☆★☆ ☆★☆



「本棚の本も読みつくしたし、これから4時までどうする?」


「DVDでも観てみようか?」


「でもこれ、何回も観た事ある、超有名な映画ばっかりだよ? ジブリとかディズニーとか……」


「う~ん…… お父さんが昔録画したロードショウばっかりだもんね」


「いっそのこと、レンタルショップにでも行ってみる? 僕は行ったこと無いんだけど」


「私も行った事無いけど…… 子供でもレンタルって出来るのかな?」


「あ、そういえばそうだよね? どうやって借りるのかもわかんないや」


「後でお父さんかお母さんに聞いてみるね」


「うん。なんだか、ワクワクしてきた」


 この当時の僕たちは、ネットで映画を見る方法があると言う事など全く知らず、想像すらもしていなかった…… 僕らの両親も含めて。



☆★☆ ☆★☆



 舞奈ちゃんのお母さんに連れられて『TATSUYA』にやってきた。


 僕たちは去年映画館でやっていた映画のDVDを1本ずつ選んで、舞奈ちゃんのお母さんの会員証で借りることにした。


 レジで舞奈ちゃんのお母さんが「私の子供たちですが、中学生でもレンタル会員になれますか?」


 と、わざわざ聞いてくれた。


「保護者の身分証明書でお子様の会員証をお作りすることが出来ますよ」との回答を得て、二人とも会員証を作ってもらった。


「あれ? こちらのお子様は名字が違うようですが?」と、レジのお姉さんに困った顔をされたが、舞奈ちゃんのお母さんは「深い事情があって名字は違いますが、どちらも私の子供です。間違いありません」と断言してゴリ押ししてしまった。


 結局二人とも無事会員になることが出来たが「同じ年齢なのに誕生日が違う……」というお姉さんの呟きに舞奈ちゃんのお母さんが反応することは無かった。


 谷山家に戻ったら


「もう使わなくなった二人掛けのソファー。これあげるから、良かったら使って」


 と、小さなソファーを譲り受けてテレビの前に設置した。


 確かに二人掛けっぽいけれど…… これってめちゃめちゃ狭い。並んで座ったら絶対に体が密着するんじゃない?


 だが、僕は敢えてそこには触れずに「ありがとうございます!」とお礼だけを言って胸の高鳴りを抑えたというか、隠した。


 多分舞奈ちゃんも気付いていて何も言わなかったんだと思うけれど…… 案外気付いていなかったりして。



☆★☆ ☆★☆



 4時からのお店のお手伝いがだんだん忙しくなってきた。


 以前、武道館近くの商店街で商売していた時のお客さんが戻ってきたうえ、新たな場所による新規のお客さん達のリピートが定着してきたそうだ。


 建物自体もかなり大きくなったし(中古物件なのだが)立地場所もなかなかの好位置なんだそうだ。


 1日500円相当のお惣菜が60食ほど売れれば充分にお店を回して質素な生活ができる計算なのだそうだが、最近は1日平均350食~400食程安定して売れていると言う。


 どれだけ儲けているのかは怖くて聞けないが、「忙し過ぎて毎日が楽しい」と言っている舞奈ちゃんのお父さんに喜んでもらいたくて、僕たちは自主的に3時半からお手伝いをし始め、5時半まで居残りするようになった。


 僕が自宅に帰る際「夕食の足しにしてくれ」と、売れ残りではなく、わざわざ守山家専用に作られた美味しいおかずを毎日お土産にもらうようになった。

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