過去編「小学生時代」④ 復学
☆★☆ 小学6年生 ☆★☆
予定通りに復帰した谷山舞奈は、顔の左側に白いマスクを装着していた。
SFロボットアニメの登場人物のようで、何となく『カッコイイ』と思ってしまったのは内緒だ。
久しぶりに会ったクラスメイトは好奇心いっぱいと言った様子で、質問攻めを行った。
この程度なら想定内。僕は慌てずにその様子をじっと見守る。
だが、2~3日も過ぎると、質問の内容が過激になってきた。
「顔の火傷痕って一生残るんでしょ? 将来結婚できないんじゃない?」
「好きな人とかできても絶対に振られるよね~」
「右側の肌は綺麗だけど、左側は酷いんでしょ? 見てみたいけどダメ?」
ここまでデリカシーのない発言は流石に看過できない。僕は谷山さんに近付き
「それって悪口じゃね? もうちょっと言葉選べよ」
などと言って女子たちから睨まれるようになった。
谷山さんは、病院から退院したと言っても、週に1回の検査受診が欠かせない。
それを知っているくせに「毎週1回学校休めるなんてズルいよね?」などとチクチク嫌味を浴びせるようにもなった。
隣の席の僕はそんな女子達の声が聞こえるたびに
「ズルくないから。必要な事なんだから気にしちゃだめだよ」
などと、女子達がいなくなってから小声で話かける日々が続いた。
女子達の悪口が一段落すると、今度は男子がちょっかいを掛けてきた。
「その仮面カッコいいよな? どこで売ってるの?」
この位ならば全然平気。僕だって気になる
だが「その仮面取って見せてよ。お化けみたいな顔になってるんでしょ?」
このセリフには流石の僕でもキレた。
「おい! 言っていい事と悪い事ってあるだろ!? お前そんなこともわかんねえのかよ?」
僕の剣幕に一度は引いたが、そいつからは会うたびに睨まれるようになった。
だが僕は気にしない。
僕なら何を言われてもいい。
谷山さんが言われるのでなければ。
だって僕は、僕に対する悪口よりも、谷山さんに対する悪口の方が聞きたくないんだから。
やがて僕はクラスから孤立していった。
だが、同時に谷山さんも一緒に孤立していっていた。
僕はその事に気が付いていながらも何もできなかった。
どうすれば良いのか、まるでわからなかった。
☆★☆ 感謝の電話 ☆★☆
一学期も終わりに近づいたある日の夜。
我が『守山家』に一本の電話が来た。
谷山さんのお母さんからだった。
以前、谷山さんが入院していた時と同様に、まずは母親が挨拶や状況の話をしてから僕に替わった。
「舞奈から話は聞いたわ。クラスメイトに意地悪されている舞奈をいつも守ってくれていてありがとうね。感謝しているわ」
「あ…りがとうございます」
ありがとうと言われているのにありがとうと返したのは不自然だったけれど、この時の僕は何の疑問もなくそう答えた。
「これからもよろしくね」
でも、『これからもよろしくね』と言われた事に対しては違和感を感じた。
「あ、あの! この前、今までありがとうって言われた時、もう関わってはいけないように、僕には思えたんですが」
だから、その事を問い質さずにはいられなかった。
「あ、ええ…… あの時はごめんなさいね、小次郎くん。実はあの時、舞奈が…『ちょっとお母さん! その話はしちゃダメッ!!』」
電話口の近くにいたのだろうか、谷山さんの声が聞こえ、お母さんの話が中断された。
「あ、あの?」
電話口の向こうで何か揉めているような声が聞こえるが、今は聞き取ることが出来ない。
おとなしく収まるのを待つことにした。
やがて話がまとまったのか話かけてきたのは母親ではなく谷山さん本人だった。
「その話はいつか私からするからね? それよりも『いつも守ってくれてありがとう』私からも直接言いたかった。入院中はお母さんに内緒で会ったけど、これからは堂々と会っていい事になったからね? 今度会おうね?」
「おお。って、あ! それじゃあさ、明日から帰り道一緒に帰らない?」
「うん。でも、今住んでるとこ、守山くん家と方向違うよ?」
「遠回りでもいいんだ。谷山さんを送ったら僕もちゃんと帰るから」
「いいの?」
「いい」
「じゃあ、明日から一緒に帰ろ」
「うん。ありがとう」
「ありがとうは私のほう。だから『ありがとう』」
「へへッ」
嬉し過ぎて、変な笑い声になった。
「あ、お母さんに替わるね」
「もしもし? 舞奈とホントに仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ。これからもよろしくね小次郎くん」
「ハイッ」
「それじゃあまたね」
「ありがとうございました!」
谷山さんって、電話だと割と結構堂々と話すんだな……
などと思っていたら
「アンタって、本当に舞奈さんの事が好きなのね~」
と、母親にあきれられていた。
☆★☆ 夏休み ☆★☆
火事で家を失った谷山家が、うちの近所の中古住宅を買い取り、引っ越してきた。
なんでも、守山家と家族ぐるみのお付き合いをしたいとのことで、敢えてうちの近くで探し、またお総菜屋を開きたいからと、なるべく大きめの家を狙っていたんだそうだ。
そして先日リフォームを済ませ、無事引っ越しが完了したため、引っ越し祝いをすると言う事で、新・谷山邸に僕もお呼ばれした。
午後4時と、夕食には早すぎる時間だが、みんなで集まり和気あいあいと会話して過ごしたいから、この時間からなんだそうだ。
谷山舞奈には2歳年下の『詩歌ちゃん』という妹がいて、とても人見知りな子だったが、僕と舞奈ちゃんを交互に目配せすると
「お姉ちゃん。良かったね」
と、はにかんで言った時の笑顔が、とても可愛い子だった。
僕的にはどちらも『谷山さん』である。
その関係で、今まで僕はずっと舞奈ちゃんの事を『谷山さん』と名字で呼んでいたが『舞奈』と呼ぶように強制されてしまった。
流石に呼び捨てには出来なくて、とりあえず今後は『舞奈ちゃん』と呼ぶ事にした。
お祝いの料理は『谷山家』の手作りだった。
さすがは『お惣菜店』物凄く美味しかった。
「あの日の小次郎ったら、火事の話を聞いたらパジャマのままで走って出かけて行ってね、あの寒空に雪まで降り始めてたっていうのにさ~」
うちの母親が僕の黒歴史を語りたかったんだろうが、火事に関わる話題のチョイスにかなりドキリとさせられたり
「うちの舞奈も『小次郎くんが心配してくれてるから頑張る』なんて目を輝かせてリハビリスタッフを笑わせていたわよ~」
などと舞奈ちゃんの母親も話題を選ばないと言うか、火事の事に気を遣う様子もなく舞奈ちゃんの黒歴史を披露してくる。
聞いてるこっちがハラハラするような会話が多かったが、なんとか楽しい雰囲気のまま、引っ越し祝いは幕を閉じた。
この日から『守山家』と『谷山家』の家族付き合いは、強い絆で結ばれることとなった。
そして、舞奈ちゃんも僕の事を『小次郎くん』と呼ぶようになった。