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~現在へ~ その後の僕たち

 ☆★☆ 渡辺と草野 ☆★☆




 その後渡辺くんは、ちょくちょく『谷山お惣菜店』を訪れて常連客になり、肉系のお惣菜を制覇しにかかった。

 閉店時間(一応午後6時半閉店としている)ギリギリに『半額引き』で2個購入し、その場で食べていくと言ったスタイルで、だいたい僕はすでに家に帰っているから、舞奈ちゃんと舞奈ちゃんのお母さんが主に対応している。


 たまに僕がいるときにも来るが「まだ半額にはならないのか?」とソワソワしながら必ず聞くので、こっそりと「半額は無理だけど、1個買ったらもう1個サービスするよ」と、冗談を言ってオマケしている。

 中学を卒業した今でも、週3回は買い(食べ)に来ている。


 店の中で豪快に「うまいうまい」言いながら食べる姿は、他のお客さんからのウケが良く、渡辺くんが来るようになってから、店の売り上げが少し伸びているそうだ。


 草野さんは週に1回~2回、買い物帰りに母親と来店することが多い。

 料理をするのが面倒な時などに、主に買いに来るようだ。

 買い方も野菜系と肉系のバランスも良く考えられている。


 二人とも、僕や舞奈ちゃんが店内にいると必ず声をかけてくれて、学校での出来事や、可愛い犬を飼い始めた話、部活で活躍した話などを楽しそうに話していく。


 僕と舞奈ちゃんは、お互い以外では詩歌ちゃんくらいしか近い世代の話し相手がいなかったため、この交流は大切にした。


 あ、そうそう、あの斎藤と田中が中2のクリスマスイブの日から付き合い始めたんだって。

 どうでもいい話だったが、どうでもいい話だけに面白おかしく話してくれる草野さんとお腹一杯笑った。


「あの田中さんがしおらしい物静かな女子になっちゃってさ~。あれって絶対斎藤の好みに無理して合わせてるよね~(アハハハハ)」


 まさにどうでもいい。だからこそ笑える! これは新発見だ。





☆★☆ 狭いソファー ☆★☆





 僕たちは週に2回くらい、お互いが好きな映画やドラマのDVDをレンタルして一緒に観ている。

 通信教材の勉強は午前中で終えて、昼食後はDVDを観た後に、3時半からの店の手伝いの時間までは感想を言い合っている。


 僕たちの好みが合う所は『恋愛映画・ドラマ』『時代・歴史もの』そして『長くても50話以内のアニメ』


 僕たちの好みが合わない部分は


 僕が『病気や事故で主人公やヒロインが死ぬ』のは嫌いなのに、舞奈ちゃんは好き。

 僕が『ハッピーエンド以外認めない』のに、舞奈ちゃんは泣けることさえ出来れば特に拘わりはない。

 僕が『ハーレム展開苦手』なのに、舞奈ちゃんは面白ければ何でもいい。


 それでも僕たちは好みと合わなくても、お互いが好きな映画は必ず一緒に観る。

 そしてお互いの好みや苦手をさらに良く知っていく。

 僕には苦手が多いけれど、絶対観たくないって程じゃないし……


 何よりも、あの狭いソファーで、舞奈ちゃんの右腕と僕の左腕がぴったりとくっついていたり……

 時々、舞奈ちゃんの右手と僕の左手を繋いだりして過ごす時間は、幸せ以外の何物でもなかったから……





☆★☆ あの時触れた唇 ☆★☆





「小学生の時さ、掃除当番を3人サボって、もう一人も帰してさ、僕たち2人きりで掃除した時の事覚えてる?」


「え~と…… うん。覚えてるよ」


「あの時さ? 舞奈ちゃんが小声で僕の耳元で話しをした時、その…… 舞奈ちゃんの唇が…僕の…耳にさ…当たったよね?」


「え!? そ、それは…… それは覚えてない…… です」


「あ、あ~~~、そうだよね? 昔の話だし? 3年生の時ってガキだから? そういう意識とかしてなかっただろうしね? うん。そうだよ。実は僕も覚えてないや~」


「…… 小次郎くんの耳に…… 私の唇が、当たったの?」


「いやいや、僕の思い込みって言うか、妄想だよ。舞奈は馬鹿だな~、本気にしちゃ駄目だよ~」


「あ…… 当たってたんだ……」


「え? なんでそうなる?」


「だって、小次郎くんって冷静じゃない時…… 今みたいに動揺してる時とかって、凄く分かりやすい表情(かお)しているから?」


「え!? マジで? 怒っている時限定じゃなくて、こんな感情も表情に出てるの??」


「うん。凄く分かりやすいから、安心して一緒に居られるよ?」


「マジか~~ ……じゃあさ、僕が今、何を考えているのかも、もしかしてわかっちゃってる?」


「え~と、それは…… 全然ちっともわかんない」


「…… 僕は舞奈ちゃんの表情からは何にもわかんないや……」


 ガックリうなだれる僕に舞奈ちゃんが勇気を出した。


「あの…… 勘違いだったらごめんなさいッ!」


 舞奈ちゃんは少しやけっぱち気味にそう言うと、僕の顔を押さえて……


「ん…… んん… ん……」


 割と強引に僕の唇にキスをした。


 本当は、雰囲気を作った上で、僕の方から近づいて行き、優しく唇を触れ合うだけのキスをするのが理想のファーストキスだったんだけれど。


 わかりやす過ぎる僕の表情(かお)を恨む気持ちと、わかりやす過ぎる僕の表情(かお)に感謝する気持ちが入り乱れてしまい、僕はつい舞奈ちゃんの口の中に…… 舌をねじ込んでしまった。

 相当長い時間そうしていた記憶はある。


 …… の、だが……


 実は僕は、その日から数日、頭が真っ白になってしまっていて、僕は初めてキスした()()を覚えていなかった。


 中学1年の夏だと言う事だけは覚えているんですけどね?


 え~と、日付ってそんなに大事?


 あれから3年近くたった今でも、僕は舞奈ちゃんに、ちょくちょく拗ねた表情(かお)で文句を言われ続けている。





☆★☆ 5教科以外の成果 ☆★☆





 僕は毎日谷山家の『通信学習部屋』に通い、一日のほとんどの時間を舞奈ちゃんと過ごしているわけなのだが、一人の時間が全く無いわけでは無い。


 午後5時半に店の手伝いを終えるとボクは自宅へと帰る。

 その後は僕一人の時間だ。


 僕は最近、舞奈ちゃんに内緒で、僕だけの趣味を見つけた。


 僕は今『小説』を書こうとしている。


 顔に醜い傷があっても、健気で、気丈で、優しくて素敵な女性を主人公にしたハッピーエンド前提の美しい恋物語だ!


 だが、何度書いても納得がいかない。


 何度読み直してもクソつまんね~。


 僕の一人の時間は午後6時頃から午後9時頃に寝るまでのほんの2~3時間だ。


 物語は遅々として書き上がらない。


 書き上がっても納得がいかない。


 舞奈ちゃんの好みは分かっている。


 僕の好きなストーリーもはっきりしている。


 後はその二つを融合させて、美しい物語に仕上げるだけだ。


 単純な事じゃないか!


 でも、それが出来ない。上手くいかない。


 僕はこれを、学校から指定された「5教科以外の成果」と位置付けて、期限を切って本気で頑張った。


 でも…… 無情にも期限は来た。


 ある日、校長先生が「5教科以外の成果についてはどうなってるかな? 夏休み前の7月20日までにワタシに見せてください」と無情な宣告をしにきた。


 7月20日って!? あと一週間しかないじゃないか……


 しょうがない…… 納得がいかない作品でも一旦提出しよう。


 卒業までに、納得できる作品が仕上がればいい……


 僕は、今回はあきらめて、未熟な作品を提出する覚悟を決めた。


 そして7月20日がやってきた。




 校長先生は


 「ほう。5教科以外の成果として、これほどまでに読書をしたのか? 凄いな…… ふむ。なるほどなるほど、さらに過去の名作と言われる映画をこれほどまでにたくさん観て感想を言い合い、しかも校外学習の基本ともいえる『繁盛店』の手伝いを毎日欠かすことなく体験しているとは…… ほう。これはこれは、これほどの成果をあげているキミ達では、流石の私も認めないわけにはいきませんね……」


 と、僕の予想の斜め上の評価を下した。


 あれ? 僕が焦って諦めた目標って……?


「あ、あの……?」


「キミ達に学校に来い、なんて言ったワタシが馬鹿でした。もう言いませんよ。ああ、学校に来たくなったら申し出てきてください。キミ達は登校こそしていないが、それ以外の生活は全く乱れてもいないし、むしろ模範的な『不登校生徒』であると私は認めます。今後とも、立派な『不登校生活』を是非継続してください。期待していますよ?」




 良く分からないが…… 危機は去った。



 


☆★☆ やけどの治療の勉強 ☆★☆





「時々感じてたんだけどね? 小次郎くんって火傷痕のケアとか治療について何気に詳しよね? 小6の時に怪我させられた時とかもさ?」


「あ~うん。 父さんのパソコンで調べたり、図書館に行って実用書のコーナーでちょっと調べた事はあったね」


「ありがとう…… 不登校で外に出ることも少なくなって、マスクもサポーターもしなくなってからもう3年経ったわけなんだけど、今日の検査でお医者さんに『常識的な範囲ならそのまま外に出てももう大丈夫だ』って『家族の理解があったから回復も早かったんだろう』って言われてね、でも一番理解してくれてるのって実は小次郎くんなんじゃないかって思ったの」


「そうなんだ。じゃあ、今度一緒に『TATSUYA』や『BOOK-OF』くらいなら出かけられるのかな?」


「うん。朝の散歩も日の出前じゃなくても大丈夫かも」


「え~と…… それはできればあと1年…… 朝の散歩だけは念のため日の出前にしない?」


「え? どうして?」


「そりゃ、1時間近く外にいる訳なんだから、お医者さんが言う『常識的な範囲』よりはちょっと長いんじゃないかなって思ってさ」


「そうかな……? うん。そうかも。小次郎くんって優しいね?」


「グハッ…… や、優しいって思ってくれて嬉しいよ……」


「え? 違うの?」


(僕の心配=優しい? 良く分からないけどそうなの?)






☆★☆ 北消防署署長  ☆★☆





 ある日、巡回中の消防職員が谷山お惣菜店にやってきた。


「火災報知機はちゃんと設置してるか~? お? 消火器は結構置いているな?」


 久しぶりの署長さんだ。


「おお! 嬢ちゃん。嬢ちゃんじゃねえか? こんな所に引っ越してたのか~。元気だったか? あっちの商店街から消えちまってたんで心配したぜ~」


 署長さんは、ここが舞奈ちゃんの住まいだとは知らずに訪れたみたいだ。


「署長さん! お久しぶりです」


「おうおう。元気そうで何よりだ。入院中は今にも死にそうな顔してたから心配してたんだぜ?」


「おかげさまでもうすっかり元気です!」


「ん? そっちはあの時の坊主じゃねえか? 大きくなったな~。って… へ~~~?」


 署長さんの表情が柔らかくも嫌らしい。


「あ、あの時はありがとうございました!」


「で? 今はここで一緒に暮らしている、と?」


「違いますよ! 僕たちはここで一緒に通信教育を受けているんです。勉強ですよ。勉強」


「そ、そうですよ? 小次郎くんはここに勉強しに来てるんです」


「なんにせよ、仲良さそうで何よりだ。もう二度と不幸な火事なんかに巻き込まれるなよ」


「はい。家族みんな、火の扱いには凄く慎重になりました」


「いい心がけだ。坊主も近くにいることだし、嬢ちゃんはもう大丈夫だな」


「「はい!」」


「いい返事だ。あ、そうそう、お前らの結婚式にはオレを呼んでくれていいぜ? もうじき退職金が入るからな」


「え!? 退職金って?」


「あと2年だ。2年後にはおっさんは晴れて無職の自由人になるのさ。だからよ? そん時はご祝儀を弾ませてもらうぜ~?」


「(小声)ホントに呼んでもいいのかな?」

「(小声)ご祝儀なんか無くてもいいから呼びたい」


「ん?」


「絶対呼びますんで、住所と名前を教えてください!」


「あ? じょ、冗談のつもりだったんだが…… というかお前ら本当に結婚するのか?」


「しますよ?」


「そうか…… なら絶対に駆け付けると約束しよう。オレは約束は絶対に守る偉い大人だからな」


 僕たちは、署長さんの名前と住所をスケッチブックに大きな字で書いてもらった。


 あの時、あの火事の時となんか逆の立場になったみたいだ。


 その署長さんの名前と住所が書かれた紙は今、通信教育部屋の目立つところに、まるで『掛け軸』のように装飾されて飾られている。


 結婚式には絶対に、一番に手紙を出すからね。覚悟しておいてね。








 




☆★☆ そして高校も通信制へ ☆★☆

 

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