第三話:連れ去り
この神代さんという方が小学生だった時、学校ではこっくりさんという遊びが流行っていたのだそうです。
まぁ、これを遊びと表現して良いものなのかは、私には判断しかねますが、実際にやっている本人たちにとってはお手軽にスリルを味わえる娯楽程度の認識だったのではと、話を聞いていて私は思いました。
こっくりさんと言えば、まぁ有名ですよね。
[はい]と[いいえ]、そして[あいうえお]から[わをん]までを書いた紙を用意して、その上に十円玉を置き参加者全員で指を付けて、こっくりさんと呼ばれる存在を呼び寄せる儀式。
それを、放課後になると友人たちで集まり誰もいない教室でこっそり実行し、あれこれと質問をして楽しんでいたのだと、神代さんは言ったのです。
こっくりさんに訊ねるのは、Aさんは何歳で結婚するのかとか、Bくんが好きな人は誰ですかといった、年頃の子供らしい内容がほとんどだったそうです。
反応がある時は大抵、指を載せた十円玉がぎくしゃくと動いて、何かしらの返答をしてきたと仰っていましたが、毎回誰かがばれないように力を加え、皆を誘導しているのだと薄々気づいてもいたと言います。
ですがね、夏の放課後に神代さんの友人が行ったこっくりさんだけは、本当に危険なモノを呼び寄せた、正真正銘本物の儀式になってしまったのだそうです。
その時、神代さんは参加していなかったらしいのですが、他の友人やクラスメイト四人が放課後教室に残り、いつものようにこっくりさんを呼び出して遊んでいると、四人のうちの一人が「こっくりさんはこの中から連れていきたいお気に入りの人はいますか?」と、そんなふざけた質問をしたそうで。
最初、他の三人はおかしな質問をするなよなんて言ったりして、笑っていたそうなのですが……突然、全員が指を付けている十円玉が今までにない俊敏な動作で動きだし、[み、ん、な]と、その三文字だけを何度も何度もなぞるように、ぐるぐるぐるぐると回りだしたのだそうです。
誰かがふざけてやっている。神代さんの友人たちも一瞬はそう思ったというのですが、お互いの様子を探り合うも、すぐにこれはそんな雰囲気ではないと全員が察し、誰かが慌てたように「こっくりさんこっくりさん、本日はありがとうございました。どうぞ鳥居からお帰り下さい!」と叫び、紙に書かれた鳥居へ十円玉を移動させようとしたものの、それを無視するかのように、十円玉は同じ動きをぐるぐると繰り返し続ける。
それで、参加しているうちの一人が恐くて耐えられなくなったのでしょうね。
もう嫌だと、勝手に十円玉から指を離してしまったそうなんです。
あのこっくりさんというのは、儀式がきちんと最後まで終わらない限り指を離すことはしてはいけないという決まりがあるでしょう? それを、破ってしまったんですね。
なので、それが原因なのでしょうか。
ルールを破った仲間を見て、他の三人全員があっ! と思った瞬間、突然四人以外には誰もいないはずの教室の中から、〝ア”--〟という低い女の呻き声らしきものがはっきりと聞こえだし、それで全員、悲鳴を上げながら飛び出すように教室を出て逃げ帰ったのだそうです。
……ですがね、話はこれだけでは終わってくれなかった。
こっくりさんをやった一週間後くらいに、参加したうちの一人が登校中、歩道へ突っ込んできた車に撥ねられて亡くなり、また一人は約一ヶ月後、夏休みに家族でキャンプへ出かけ、そこで水の事故……確か川で溺れたと言っていましたか、それで命を落としたと。
残った二人のうち、一人は更に数週間後、夏休み最後の日に自室で手首を切り自殺しているのが発見され、残った一人、神代さんの友人は二学期が始まって間もなくして、家族揃って行方不明になりそれっきり。
学校では夜逃げではないかと噂しているのを聞いた記憶があるそうですが、その真相は神代さんにはわからずじまいで、生きているのかどうかも確かめられずにいるのだと、沈んだ声で仰られていましたね。
ひょっとしたらですけれど、友人を含めた参加者は全員、呼び出してしまった何者かに連れ去られてしまったのかもしれないなと、私はそんな想像をしてしまいましたが……真相は、どうなのでしょうね。