小さな花の魔法使い
あるところに、凄い魔法使いを両親に持つ、女の子がいました。その子の両親は魔法を使って、悪い魔王の手先を追い払ったことがあり、その功績を人々に讃えられています。
しかし、女の子はというと、凄い魔法使いの娘なのに、魔法を使うのが苦手でした。炎の魔法を使っても、その場に煙が上がるだけで火は点かず、水の魔法を使っても、指からポタポタ水滴が垂れるだけ。どんな魔法を使っても、小さな事しかできないのです。
そのせいで、女の子は周りの人々から、嘲笑われていました。町中を女の子が通れば、いつもひそひそ声で話すのです。「両親の恥晒しだ」と。次第に女の子は、人の視線が怖くなり、誰もいない森の中でばかり遊ぶようになりました。
森の中は、とっても楽しい事でいっぱいです。大きな木がつくる影は、優しく女の子を包み隠して、怖い「目」から守ってくれます。小鳥たちは明るい声でおしゃべりをして、決して女の子の悪口など言いません。何よりも、女の子が訪れる森には、色とりどりの綺麗なお花が咲いていて、それを見ているとうっとりしました。
女の子はお花に見惚れながら、いつも考えていることがあります。それは、いつか自分も、こんな綺麗なお花を咲かせる魔法を、使えるようになりたいということでした。
いくつか月日が経って、女の子は、得意な魔法が一つだけできました。それは、小さな可愛らしい、空色の花を咲かせる魔法です。咲かせられるお花はそれだけでしたが、女の子は大いに喜びました。両親も女の子を、「すごいねぇ、すごいねぇ」と、満面の笑みを浮かべながら褒めてくれました。
女の子は得意になって、自分を蔑んでいた町の人々に、その魔法を見せました。しかし町の人々は、「そんな魔法、何の役にも立たないじゃないか」と言って、相手にしてくれません。女の子は悲しくなって、人の事が大嫌いになり、よりいっそう、森の中に身を潜めるようになりました。
そんなある日の事です。女の子が森の中で、古い木に生えたカビを観察していると、後ろから足音が聞こえてきました。ビックリして女の子が振り向くと、そこには自分と同い年くらいの、女の子がいました。その子は、小さなカゴを持って、不思議そうに首を傾げています。
「なぁに?」
カゴを持った女の子は尋ねます。女の子は、この子も自分の悪口を言ってくるのではないかと思い、喉が震えて声が出ません。怖くなって、女の子はその場から逃げ出しました。その日はもう家に帰り、じっと自分の部屋の中に閉じこもりました。
次の日、女の子が森にいくと、またカゴを持った女の子が来ました。女の子はまたまた逃げ出し、次の日も、その次の日も同じような事がありました。
こんな事を繰り返して、十日経った頃。女の子はカゴを持った女の子に会わないよう、森の奥深くへ行きました。しかしそこにも、その子がやってきたのです。そしてとうとう、女の子は声をかけられてしまいました。
「どうして、いつも私から逃げるの?」
「……」
女の子はやっぱり、声を出すことができません。怯えている様子の女の子を見て、カゴを持った女の子は、まず自分の事を話しました。
「私ね、病気のおばあちゃんに少しでも元気になってもらうために、ここでお花を摘んで、毎日届けに行っているの」
「お花……?」
目を丸くして、女の子はカゴを持った女の子を見つめます。その子は頷きました。女の子は少し緊張がほぐれて、声が出せるようになりました。
「あの、私、お花が出せるの」
この子はもしかしたら、自分の事を貶さないかもしれない。そう思って、女の子は両手を合わせ、そこに意識を集中させながら、空色の小さな花を生み出しました。カゴを持った女の子は、パァっと顔を輝かせます。
「すごい、すごい! ねえそのお花、私にちょうだい!!」
カゴを持った女の子が駆け寄ってきました。女の子の心を覆っていた、深い霧が晴れていきます。女の子は顔を上気させながら、空色の花を渡しました。
「ねえねえ、もっとたくさんお花を出せるの?」
「…… うん」
微笑みながら女の子は答えて、今度は空色の花を十輪生み出しました。辺りに、お花の甘くて爽やかな香りが漂います。カゴ持った女の子は、カゴいっぱいになるまでお花を貰うと、嬉しそうに去っていきました。女の子もまた、自分の魔法が役に立ったことが、嬉しくて仕方がありません。
どんなに小さな事でも、人を幸せにできる。その事を思い知った女の子は、自分の魔法で生み出したお花を、カゴいっぱいに詰めたり、押し花にしたり、サシェにしたりして、町の人々に配り歩くようになりました。
最初の内、人々は見向きもしませんでしたが、優しい老夫婦がそれを受けとってくれた日を境に、たちまち評判が広まって、人々は受け取ってくれるようになりました。小さな魔法が起こした大きな奇跡は、女の子だけでなく、周りの人々も幸せにしていったのでした。