ヤバいご発言
代は柔和な顔立ちと空気を持つ青年で、水のことを殊の外、可愛がっている。名前のことで代をからかう人間がいなかったのは、それをさせないだけのものを代が所持し、纏っていたからだ。代は、そして自分の持つその力を、妹を守る為にも行使した。当然のように兄妹仲は良く、今も二人でテレビゲームをして遊んでいる。
「彼女できたー?」
「まだ。あ、死んだ。お前は? 彼氏」
「でーきーなーいー。にゃー死んだー!」
「あー。それは結構」
「何がだ。死んだことがか」
「その前~」
「目指せ、代兄より先にリア充」
「無理くない? 俺、モテるよ」
「知ってるし。てか、その癖、彼女作らないのも知ってるし!」
「ばあちゃんがさ」
「うん?」
「良い女じゃん」
「うん」
「その弊害だなー」
「うお、何気にヤバいご発言ですこと」
水たちの母方の祖母は同居していて、着付け教室の先生もしている。年齢が魅力を加味するタイプの女性で、七十代になった今でも、得も言われぬ色香がある。だから代が、キャンパスのそこらへんを歩いている女子に興味が持てないのも、そのせいだと言われれば納得してしまう。その祖母・志摩子が、にこやかに孫たちに声をかけた。
「ちょっと、お二人さん。時間できたら水を貸して頂戴な」
「ん。良いよー。丁度、死んだとこだし、今行く。着物?」
「嫌ね、この子は。死ぬとか物騒なこと、ゲームでも言わないの。そう。更紗小紋の、良いのが入ってね。水に合わせてみて欲しいの」
「はーい」
「着付けまでするんなら、俺にも見せてよ。ばあちゃん」
「良いわよ? 出来上がったら呼ぶわね。じゃ、水、こっちに」
「うん」