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『――い』
何だ? 声が聞こえる。
『―ーい』
頭に響く。それに、暖かい。
『おーい』
「なん……だ?」
意識が覚醒する。目を開けるとそこは、森の中。俺の体は下半身が泉に浸かっている。
何でだ。俺は何をしてたっけ……。薄っすらとした、朧げな記憶を思い出す。
そうだ。魔大陸に追放されて、それから……。
思い出すは魔獣の顔。恐怖が蘇り、その場から飛び起きてしまう。
「あれ、魔獣は?」
『おーい』
そういえば……! 俺はあたりを見渡す。声が聞こえていたはずだ。少し前から、ずっと。でも周りに人なんていない。声はどこから……。俺は何んとなしに右手を見る。
そこにはボロ臭い剣が握られていた。
『やっと気づいたかい。僕もさすがに傷つくよ』
女の声が頭に響いている。起きたばかりで少し痛いが、それよりも。
「剣が……しゃべった?」
『おや、あまり驚かないんだね』
昔聞いた英雄譚にしゃべる剣があったはずだ。史実をもとにしている話だ。実際に剣がしゃべっても驚かない。ただ、話ではこんなにボロくなかった気がする。
もっと純白で、神聖があって。
『僕だって、ボロくなりたくなかった』
……。考えただけ、言葉に出していない。心が読まれたのか? それは別にいい。問題はここに来た記憶がない。こいつなんか知ってそうだな。
『むぅ…。一方的だね。まあいいけど。いろいろ端折って話すと、君が僕を手に取ったときは死ぬ寸前だったからね。体を無理やり操って、あの魔獣を倒したの。そして傷ついた(半分僕のせい)君を治してこの泉に連れてきたわけ』
そういえば体の傷が治っている。服はボロボロだが。傷を治療することができるのか? この剣は。
『制限があるよ。無闇に使えない。後、僕はレインって名前があるよ。これからそう呼んでくれ』
分かった、レイン。それにしてもどうしようか。俺の手元にはレインしかない。こんな剣で何ができるんだ?
『失敬な、僕は絶対に壊れないぞ。それより魂の契約をやろう』
「魂の契約?」
『うん。簡単に言えば、君を所有者として認める契約だよ』
こんな、状況だ。俺に選択肢は一つしかない。
「契約するぞ」
『おっけー』
レインがそう言うと、俺の体が光に包まれる。何も変わった様子がない、見た目はな。
精神がリンクした感覚がある。俺の中に剣が一本あるような感じだ。そして使える能力も感覚的に分かった。
一つは俺は剣を異空間かどこかにしまうことができる。また取り出すことも。
二つ目はレインとの心の会話、念話の時間を引き延ばすことができる。一秒で十秒ほど念話できる。
ひとまず能力はこんな感じか。それにしても腹が減ったな。
『お、じゃあこれから言うとこに向かってね。いいものがある』
何だろうか。俺はレインの言われるがままにその場所へ向かった。