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英雄の導き  作者: 霧下 まろ
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一話

不定期更新。

「罪人アーサー・フォン・アズガレスを【魔大陸転移の刑】に処す」


 裁判の判決が出る。それにしても魔大陸転移ね、実質死刑宣告に等しい。一瞬で死ぬ斬首刑より、どう死ぬか分からないこっちの方が罪は重い。

 まあ、命が軽いこの世界で死因云々は関係ない。問題なのは()()で俺が死刑になったってことだ。俺を殺そうとした奴がいるってことだ。それは頂けないな。いずれ殺す。


 そして魔大陸。ここ二百年は誰も踏み込んだことがない暗黒の大陸。人類の絶対不可侵領域だ。過去にそこに飛ばされた者は誰一人として生きて帰ってきてはいない。俺もこの後そこに行くが。

 判決が出たら後は刑を執行するだけ。俺を縛っている網を強引に引いて騎士は無言で歩いていく。これから向かうのは【転移の間】かね。実行が早いこった。


 【転移の間】に着くと、黒ローブを被った魔術師数人がスタンバイしていた。部屋の中央に全体の半分を埋め尽くす幾何学模様の大きな魔法陣がある。

 魔法陣の中央に連れていかれる。縄は解かれた。足掻かせたいのか、慈悲なのか。ただ抵抗はしない。そうしても意味はないしな。俺は騎士には勝てん。

 刑が執行される前に扉が開かれる。入ってきたのは煌びやかな衣装を身に着けた厳格な顔をした男。あふれ出るオーラが一般人ではないことを示していた。

 

 アーサー・フォン・レンドラー。この国の国王であり、そして―――俺の父親である。

 息子がこれから死にに行くってのに顔色一つ変えはしない。当たり前だ。数十人いる子供が一人死ぬぐらいどうってことない。遊びで作った()が一つなくなるだけだ。もともと人として見られてなかったからな。

 母が死んでからそれがより顕著になった気がする。王もメイドも兄弟姉妹も、周りの人間はそうだった。孤独に苛まれながらも俺が折れなかったのは母が託してくれた言葉があるからだ。


『どんなに辛く、悲しく、孤独でも―――決して折れてはいけません。そう、物語の英雄のように』


 だから俺は屈しない。たとえ魔境でも、生きて帰ってくる。そしてお前らに地獄を見せてやる。


「最後に言い残すことはあるか?」


 国王(ゴミ)が問う。そんなものはいくらでもある。たが、これだけは言わしてもらう。


「死ねカスども。いずれお前らを殺しに来るからな」


 俺は中指を立てながらそう言い放った。


「気に入らんな―――やれ」


 足元の魔法陣が輝きだす。発動の合図だ。

 俺は転移する直前まで、憎悪の視線を向け続けた。


  ◆


 光が晴れると俺は知らない場所にいた。


「ここが魔大陸か」


 薄く暗いジメジメとした場所。生物の気配がないのがいっそう薄気味悪さを醸し出している。

 とりあえず進もう。俺はそれしかできないのだから。幸か不幸か、魔物の気配まない。

 しっかりとした足取りで俺は歩き出した。

 

 数十分歩くと辺りは一層暗くなっていく。夜ではない。周りの生い茂った木々が日光を遮っているのだ。

 整備されてない道。尖った植物があり、服がボロボロになってきている。切り傷もあるが、俺は構わず歩き続けた。


 ―――ガサッ。


 草木が揺れる。心臓の音が早くなる。脳が警報を鳴らしている。たが―――動けない。

 頭ではわかっている。早く動けと命令している。それなのに、体が震えている。


 ()()が顔を覗かせた。


 金色の瞳に獰猛な顔、姿。全身真っ黒な四足歩行型生物。ただ、デカい。顔だけでも二メートルはある。魔獣だ。

 本能で理解する。俺は餌だと。


 走馬灯が流れた。その中に、母の言葉があった。

 何かが俺の中ではじけた。


 俺は折れない、くじけない。


 それがトリガーとなったのか、体が動き出した。今出せる全力で走る。走る。走る。

 頬が切れる、痛い。足が痛い、走れない。


 でも、弱音は口には出さない。思うだけにとどめる。口に出すと、実感してしまうから。


 どんなに走っても、頭に警鐘が響く。後ろから迫る気配が消えない。その気になれば、一瞬で喰えるのに。

 理由は、遊んでいるから。恐怖に支配された弱者を、追い詰めて、甚振って、殺す。人間と一緒だ。

 怒りが沸く。立ち向かう真似はしない。死ぬのはわかっている。怒りを原動力に変えて、走り続ける。


 どれだけ走っただろうか。足取りが覚束ない。光が見えた。それを目指して走り続けた。

 光が近くなる。そして開けた場所に出た。


 幻想的な光景だ。辺りは暗いのに、個の周りにだけ木々がない。日光が届いている。その、中央に。


 剣が刺さっていた。


 美しい場所に似つかわしくない、錆びれたボロボロの剣が。


 幻想的な光景に、ボロボロの体。

 この場にマッチしていない剣を見て、呆けてしまった。


 一瞬だが、油断した。気を抜いてしまった。

 

 奴がすぐそこまで迫ったいた。


 腰が抜ける。無様に倒れこむ。それを面白そうにしながら、魔獣が大きく口を開く。

 終わった。死んだ。


 そこに声が聞こえた。


『剣を取れ』


 俺は無我夢中で手元にあった剣を引き抜いた。そして―――意識が途絶えた。


  ◆


 魔獣はうれしかった。久しぶりの玩具だ。

 この辺りの生物は食いつくしてしまった。彷徨うだけで、退屈していた。

 そんなときに、見たことない生物が現れた。弱い。


 自分に怖れをなして逃げていく。

 魔獣はそいつを追いかけた。動きに緩急を付けながら追い詰めていく。


 楽しかった。それももう終わりだ。

 

 光のある、開けた場所でそいつは倒れこんだ。


 喰おう。


 そう思って、口を開いた。


 声が聞こえた。


『ボロボロじゃないか。仕方ない』


 そいつがしゃべった。その声に恐怖は含まれていない。


 そいつが剣を振った。


 油断していた。いつもなら避けれた。


 口を、切られた。痛い。久しぶりに痛みを感じた。


 殺そう、本気で。


 魔獣は魔法を使った。雷を迸らせ対象に向かわせた。


 それを切られた。初めてだ、意味が分からない。

 

 一瞬の隙。


 次の瞬間には目を貫かれていた。痛い。暴れる。腕を斬られた。痛い。脚を切られた。動きが鈍くなる。斬られる。貫かれる。抉られる。


 咆哮。それは弱々しい。


 すでに満身創痍。さらに傷が増え、鮮血が飛び散る。


 魔獣は恐怖を覚えた。そいつの瞳には殺意しかない。殺す。そのために体を酷使している。

 相手もすでに満身創痍。


 魔獣は咆えた。これが最後だと。


 特大の雷球を浮かべる。そして対象に発射した。


『これはさすがに………』


 不味い。そう言い終わる前に雷球は目の前に迫っていた。


 当たる。死ぬ。()()()()()()


 剣を振り上げる。限界を超えて。


『最悪壊れちゃうね。まあいいや、()()()()


 そう言い終わるころには、魔獣は体が分断されていた。それでも剣の衝撃は止まらない。奥の木々を轟音を立てながらなぎ倒していく。


 終わりを見届ける前に、男は動き出した。ボロボロの体で。


 その場には巨大な魔獣の無残な姿が取り残された。

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