現代日本に悪代官はいません~時代劇好きの日露ハーフ美少女~
って、ふたりが争うのを見ていられない。
「落ち着いてくれ西亜口さん。俺たちは敵じゃない」
「そうだよ! よくわかんないけど、あたしも敵じゃないから!」
ほんと西亜口さんの思いこみの激しさには困ったものだ。
俺たちが緊迫の対峙をしていると……三毛猫がニャ~と間延びした鳴き声を上げながら西亜口さんに近づき、足に体をこすりつけ始めた。
「ちょ、ちょっと、ニャン之丞っ。今はそれどころじゃないのよ」
しかし、三毛猫には通じなかった。
ニャーニャー鳴きながら西亜口さんの足にさらに体をこすりつけ続ける。
「やんっ、だめっ、だめだったらっ……ふにゃ♪ ふにゃあぁあぁあ~♪」
激しい猫のこすりつけ攻撃によって西亜口さんがヘヴン状態に陥った。
ここはチャンスだ。
「西亜口さん、猫も戦うなって言ってるじゃないか!」
そんなことを言っていないかもしれないが、最大限、今の状況を利用するしかない。
「そうだよ、あたしたちが戦う必要なんてないよ! 落ち着いて、西亜口さん!」
猫もニャーと鳴きながら西亜口さんを見上げた。
「…………。……そ、そうね……ちょっと結論を急ぎすぎていたかもしれないわ」
二人と一匹からの説得を受けて、西亜口さんは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「とりあえず互いに武装を解除しましょう。停戦協定よ」
「う、うん。じゃ、あたしから竹刀しまうね」
里桜が竹刀を竹刀袋に収めると、西亜口さんもドスを鞘に納めて懐にしまった。
……まあ、里桜は柔道も空手も古武道もできるから素手でも全身凶器なんだけど……。
「えっと、とにかく……俺も里桜もスパイじゃないし西亜口さんに害を及ぼすことは絶対にないから」
「そうそう! あたしは西亜口さんに暴力は振るわないって! そもそも西亜口さんのことかわいいって思ってたし! 友達になりたいって思ってたぐらいだしさ!」
「かっ……! ……かわいい? 友達になりたい……? わたしと?」
西亜口さんは指を自分に向けながら訊ねる。
「うん! だって、西亜口さんすごく美人だし! 女子力高いし!」
「び、びじん…………じょしりょくたかい……わ、わたしが……?」
西亜口さんはブツブツ言いながら、挙動不審になっている。
「ハッ!? そうやってわたしをおだてて騙し悪代官や悪徳商人に売り渡すのね!?」
悪代官とか悪徳商人とか西亜口さんは変な時代劇の見すぎなんじゃないだろうか。
そう考えると変にくノ一にこだわる理由もわかる気がする。あとドスを持ってることも。
「西亜口さん落ち着いてくれ。今の日本に悪代官とかいないから」
「西亜口さん時代劇好きなの? あたしも大好きなんだー!」
里桜は時代劇とか和の文化が好きなのだ。
だから剣道とかの武道を習ってきたという。単純な奴なのである。
「……そ、そう……今の日本に悪代官はいないのね……。時代劇は好きというか必修科目だったわ。あれを見て日本の文化とスパイ活動について学んだの」
どんなスパイ教育だ。
「……西亜口さん、その教育ってどこで受けたの?」
「……ひ、秘密よ」
もうそれ絶対に騙されてる気がするんだけど……。
もしかすると西亜口さんはスパイというかスパイごっこをしているだけなのでは……?
「ともかく、今日は帰るわ。見送りは結構よ!」
西亜口さんは有無を言わさぬ勢いでその場から早足で去ろうとしたが――。
そこで猫が急に西亜口さんにすりよろうとした。
「うにゃっ!?」
猫を踏みそうになった西亜口さんはバランスを崩して転びそうになってしまう。
そこをすかさず里桜が正面から抱き留めた。
「おっと! 大丈夫、西亜口さん?」
「わっ、ちょっ!? か、顔近いわよ!」
危うくキスしそうな距離でふたりは抱きあっていた。
ほんと、危ない、危ない……。いろいろな意味で。
「……い、一応、お礼は言うわ……! と、とにかく帰るわ。……つっ、痛っ……」
足をひねってしまったのか、西亜口さんは小さく悲鳴を上げる。
「あ、大丈夫!? 西亜口さん送っていくよ!」
「だ、だだだ、大丈夫よ、これぐらい! ツンドラにあるスケート場でトリプルアクセルの着氷に失敗したときに比べればへっちゃらよ!」
と言いつつ、また転びそうになって里桜にフォローされていた(今度は軽く肩を抑えるだけで済んでいたが)。
「無理しちゃだめだって。捻挫を見くびったらダメ。うちのおかーさんに車出してもらって送るよ!」
「そ、そんな武士に情けは無用よ!」
さっきはサムライを敵視してたのに急に武士になった。
西亜口さんもかなりテンパっているようだ。
でも、ここは西亜口さんの足のほうが重要だ。
「そうだよ、西亜口さん。無理したらダメだって。悪化したらマズいし」
「……う、うう……今日は厄日だわ……切腹したくなる……」
やはり西亜口さんは価値観が時代がかっている。
しかし、そこまで落ちこまなくても。
足元の猫は申し訳なさそうにニャー……と鳴いていた。




