武道系幼なじみVS西亜口さん
「西亜口さん、実は近くに幼なじみが住んでてそろそろ帰ってくるんだ。隣のクラスの北瀬山里桜って言うんだけど剣道部と柔道部と空手部に入ってるから頼りになると思う」
「なによそれ? あなたに幼なじみなんていたの? しかも、めちゃくちゃ強そうね」
「ああ、小学一年の頃に引っ越してきたから幼なじみというと微妙かもしれないけど」
小学生低学年の頃の俺は技の実験台にされて酷い目に遭わされたものだ。
かなり強い。というか剣道と柔道ではインターハイ出場レベルだ。
「……ハッ!? その女があなたのスパイ仲間なのね!? そして、帰り道でわたしを始末するつもりなのねっ!?」
西亜口さんは被害妄想を炸裂させていた。
西亜口さんの妄想暴走癖はどうにかならないのだろうか……。
「だから俺はスパイじゃないって。とにかく俺は西亜口さんのことが心配なんだよ。その……西亜口さん、すごい美少女だし」
「びっ!?」
西亜口さんは再び珍妙な叫び声を上げて固まった。
「び、びびびっ! 美少女じゃないわよ! むしろわたしは美の少ない女よ! 美なんてシベリアの永久凍土に捨ててきたわ!」
西亜口さんは容姿を褒めるとものすごい挙動不審になるようだった。
なんで俺が褒めるときだけで、こんな過敏に反応するのだ。
「ともかく帰るわ! アイ・シャル・リターン!」
なぜ英語!? しかもまた俺の家に戻ってくるのか!?
西亜口さんは肩を怒らせて階段を降りていった。
「せ、せめて家の前まで送らせてくれ」
「しつこいわね。でも、まあそこまでなら許してあげるわ。ありがたく思いなさい!」
なんで気づかっているのにここまで暴言を吐かれなきゃいけないんだ……。
ともあれ玄関先までやってきた。
「また明日来るわ」
「えっ、本当に戻ってくるの」
「日露ハーフに二言はないわ」
そんな格言聞いたことがない。
「俺のスパイ疑惑は晴れたんじゃないの?」
「あなたには気になる点が多々あるわ。これからも継続調査は必要よ!」
西亜口さんの思考はよくわからない。
西亜口さんと話せることは嬉しいけど、調査されるのは困る。
「それじゃ、帰るわ。証拠隠滅は許さないわよ」
「あ、ああ……」
なんだか西亜口さんに圧倒されっぱなしだったな……。
いつもクールな西亜口さんがここまで妄想が暴走する人だとは思わなかった。
家の門から西亜口さんが出ようとしたところで――。
「にゃあっ!?」
西亜口さんがかわいい悲鳴を上げて驚いたように跳びはねた。
「わぁあっ!?」
西亜口さんの前には里桜がいて同じく驚きの声を上げていた。
どうやらうちに来るつもりだったらしい。
たまに里桜は俺にラノベを借りにくるのだ。
まさかこのタイミングで西亜口さんと鉢合わせるとは。
「え? なんで祥平の家から西亜口さんが出てきてんの!?」
里桜はポニーテールごと首を傾げる。
なお、肩には竹刀袋を背負っていた。今日は剣道の日のようだ。
「にゃ、にゃによ、この女は! ……ま、まさか挟み撃ち!? もしかして、わたしは罠にハメられたの!?」
「違う、落ち着いてくれ、西亜口さん!」
「落ち着いていられるものですか! あなた騙したわねっ! ふたりがかりでわたしを捕まえてくノ一みたいに取り調べするのね!?」
西亜口さんのくノ一へのこだわりはなんなのか。
「しょ、祥平! これはいったいどういうことなのさ!? ま、まさか西亜口さんを部屋に連れこんで変なことしてたんじゃないよね!?」
ついでに里桜も変な方向に勘違いしていた。
俺の周りの女子は理解力が乏しすぎる。
しかも、曲解が酷すぎる。俺はそんなに信用がないのか。
「ふたりとも落ち着いてくれ。ええと、まずは里桜。俺は西亜口さんにスパイ疑惑をかけられて自宅調査をされていたんだ。当然、やましいことはしてない。そして、西亜口さん。里桜はたまにラノベを借りにうちに来るんだ。それでたまたまこのタイミングになっただけで謀ったわけではない」
「スパイ疑惑?」
里桜がさらに首を傾げる。
「猫玉神社に行くときにたまたま西亜口さんが前を歩いていてさ。それで野良猫相手にデレデレしているところを目撃しちゃって……それで尾行していたと勘違いされてスパイ疑惑をかけられたんだ」
「あなたわたしの恥部を晒したわね! この外道!」
猫のように牙(歯)を剥き出しにして怒る西亜口さん。
しかし、肝心の部分を伏せたまま里桜に説明する自信がなかったのだ。
「猫玉神社の猫? それって、この子のこと? 途中からついてきてさ」
里桜が振り向くと、トトトッと三毛猫が駆け寄ってきた。
そして、里桜の足に身体をこすりつけてニャーニャー鳴き始めた。
「あぁっ!? かわいがっていた猫まで敵に寝返るなんて!? ニャン之丞! あなたのご主人様はわたしよ!」
西亜口さん、すでに名前までつけていたのか……。
しかも、ネーミングセンスが独特だ。
「やはり……あなたたちは生かしておけないわ」
西亜口さんは懐からドスを取りだした。
「ちょっ!? なんで西亜口さんがそんな武器持ってるのさー!?」
里桜は慌てて飛び退いて距離をとると、袋から竹刀を取り出して構えた。
「刀? やはりサムライはわたしの敵ということね。ふふ……面白くなってきたわ」
西亜口さんは謎の微笑を浮かべながらドスを構える。
なんということだ。西亜口さんと里桜がドスと竹刀で対峙する状況になるとは。




