川越城本丸御殿ではしゃぐ西亜口さんと里桜
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なお、俺たちの住む埼玉北西部の某市から川越までは電車の接続が悪い。
というわけで、梅香さんに車を出してもらったのだが……。
「ふぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
当然、道中は西亜口さんの悲鳴が響き渡ることになった……。
「到着よ~♪ うふふ♪ 楽しいドライブだったわ~♪ おかーさんも適当に川越の町を散策してるから三人で楽しんできてね♪ 集合時間は十五時ね~♪」
農産物直売所に隣接する無料観光駐車場に車を停めて、梅香さんはニッコリと笑う。
一方で……。
「……し、死ぬかと思ったにゃ……もう終わりかと思ったにゃ……」
西亜口さんが青白くなりつつポンコツ化してブツブツと猫語で呟いている。
ちなみに助手席が里桜、俺と西亜口さんが後部座席(俺が右で西亜口さんが左)だった。
つまり、俺は横でひたすら西亜口さんの悲鳴を聞き続け――たまに思いっきり抱きつかれたりした。
今日の梅香さんの運転は絶好調(悪い意味で)だったしな……。
里桜は絶叫マシーンに乗ってるかのように楽しんでいたけど。
なお、俺はずっと感情を無にしていた。
そうしないと西亜口さんの色々な部分が当たりすぎて頭が沸騰しそうだったからだ。
というか、西亜口さん胸そこそこあるし、そもそもいい匂いがしすぎる!
もう、ほんと、平静で居続けるのが修行レベルだった。悟りを開けそう。
ともかく、俺たちは車を出て歩き始めた。
俺が真ん中で、左が西亜口さん、右が里桜だ。
「…………車中でのことは忘れなさい」
徐々に落ち着きを取り戻した西亜口さんはプイッと横を向きながら俺に釘をさした。
一方で、里桜はつまらなさそうな顔をしている。
「あたしも後部座席に乗るべきだったな~」
といっても里桜は怖がるどころか楽しんでいたけどな。
西亜口さんのようなパニックになるはずがない。
「ともかく川越散策を楽しみましょう。道中、死ぬような思いをして辿りついたのよ。楽しまないと元が取れないわ」
「わーい! 観光、観光~!」
さて、まずは……川越城本丸御殿だな。
江戸時代に造られた歴史的建造物なので西亜口さんと里桜も喜ぶだろう。
観光駐車場からは、そのまま真っ直ぐ道を進んでいけばいい。
「ほら、あなたは詳しいのでしょう。案内しなさいな」
「そうだよ祥平~! 案内、案内~!」
ちょっと前まで横を歩いていたのに、すっかりふたりは先行していた。
逸る気持ちがそのまま歩く速度に反映されてたのだろう。
「ああ。というか普通にこの道を真っ直ぐ歩いて行けば川越市立博物館前に出るから。そこのところを左にいけば川越城本丸御殿がある。まずはそこからがいいんじゃないか?」
「いいわね! 城跡はロマンだわ! ロシアの宮殿もいいけど日本の城も心躍るわね!」
「サムライ! ハラキリ! ゲイシャ! テンプラー!」
浮かれる西亜口さんというのはレアキャラだな。
里桜のほうは日本文化を勘違いした外国人観光客みたいになってるが……。
ともあれ俺たちは真っ直ぐ歩き続け、和風建築を模した川越市立博物館前のところで左に曲がり本丸御殿へ向かった。
この道を進む――というか、ちょっと歩くとすぐに川越城本丸御殿だ。
埼玉県指定文化財になるだけあって伝統と格式を感じられる。
「ハラショーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
西亜口さんは瞳を輝かせてロシア語で叫んだ!
ハラショー……つまり、素晴らしいってことか。
「おーーーーー! すげーーーーー! ここで剣道したくなる!」
確か明治時代は『初雁武徳殿』の名称で武道場になってたこともあるらしいから、里桜の感想はあながち間違ってない。
「これはテンション上がるわね!」
「だね~! ネットで見るのと実物見るのじゃ興奮度が違う!」
学校では争っていたふたりが完全に意気投合している。
ありがとう川越。やはり川越を外出先に選んでよかった。
さすが埼玉一の観光地。
俺たちは入館料を払い、本丸御殿の中へ入った。
「広い、広いわ! 畳! これぞ和の心! 禅っ! 禅を極めたいわっ!」
「竹刀ないの!? 竹刀! ここで素振りしたい! 時代劇ごっこしたいー!」
ふたりしてメチャクチャはしゃいでる!
一緒にいて恥ずかしいレベルだ!
ちょっと引き気味になる俺である。
そんな俺に対して西亜口さんは怪訝な視線を向けてくる。
「……あなた、どうして冷静でいられるの? 城よ? 本丸御殿よ? 日本人としてサムライへのリスペクトはないの?」
「殿中でござる! 殿中でござるーーー!」
西亜口さんから問い詰められる一方、里桜は本丸御殿の廊下で忠臣蔵ごっこをしていた。
知らない方のために解説すると「忠臣蔵」は江戸城内(殿中=御殿の中)で浅野内匠頭が吉良上野介に斬りかかったことが発端になっており、周りの武士が「殿中でござる!」と言って浅野内匠頭を力づくで止めたのだった。里桜はそれのマネをしているのだ。
「えっと、俺は子どもの頃に何度も本丸御殿に行ってるから見慣れているというか……」
イトコの未海も和風文化好きだったからな。
本丸御殿には何度も行ったものだ。
「なあに? また昔の思い出に浸っている顔ね? そんなに昔の女が忘れられないの?」
「えっ、女というかイトコだから!」
「イトコが女なのね。ふぅん」
西亜口さんから冷たい目で見られる。
というか、なんで西亜口さんからこんな目で見られないといけないんだ!
「あなたは、そのイトコによって未だに心が支配されてるわ。洗脳されてしまったのよ」
「え、えぇえ……」
相変わらず無茶苦茶である。
しかし、子どもの頃は未海から「お兄ちゃん」とひたすら呼ばれ続け、おままごとをやればお兄ちゃん役しかやらせてもらえなくて「未海、将来、絶対にお兄ちゃんの妹になるよぅ♪」と一方的に約束されたりしたのだ。
「わたしたちとデートしているのにほかの女のことを考えるなんて最低ね。万死に値するわ。切腹一万回を申しつけるわ」
「ご、ごめん……?」
よくわからないが、ここは謝っておこう。
西亜口さん、おそロシア。
しかし、ここで思わぬ事態が起こった――。




