シベリアから来たボッチ美少女の意外な姿
新連載始めました。よろしくお願いします!
「あれ……?」
家に帰ったあと散歩に出た俺は、山のほうに向かう女子高生らしき後ろ姿を見つけた。
あの特徴的な銀髪、そして、うちの学園の制服……。
間違いない。
一か月前にシベリアから転校してきた西亜口ナーニャさんだ。
「なんで西亜口さんが神社の方向に?」
山はうちの一族東埼川家のもので、猫玉神社がある。
神社といっても小さな社殿がポツンとあるだけで、滅多に訪れる人はいない。
基本的に今は無人だ。
このまま歩いていくと尾行しているみたいで嫌だが……。
だが、西亜口さんがなぜ神社に向かっているのか気になる。
ちなみに西亜口さんは学校で浮いているというか、クールすぎて孤立している。
クラスメイトが仲よくしようとしても「わたしに近づかないで」とか言って露骨に人を遠ざけるのだ。「シベリアから来ました」と自己紹介していたこともあって、彼女はツンデレならぬ『ツンドラ』だとか『永久凍土女』だのと陰口を叩かれている。
ちなみに俺は陰キャなので、わざわざ西亜口さんに話しかけたりはしなかった。
席も離れてるし。
……って、西亜口さんはどんどん獣道を登っていっている。
いったい、なにを考えているのか?
まさか学校で孤立しているからって自殺とか考えているんじゃないよな……?
不安になった俺は、さらに西亜口さんのあとをつけることにした。
そして、十分後――。
俺は神社で衝撃的な光景を目撃することになった。
「にゃー♪ にゃー♪」
あの『ツンドラどころか永久凍土女』、『KGBの関係者』、『あの目つきはすでに7、8人は殺してる』だのと陰口を叩かれていた西亜口さんが――。
「にゃー♪ おいしいでちゅかー? ほぉ~ら♪ たーんと食べてくだちゃいねー?」
猫の声真似と赤ちゃん言葉を駆使しながら野良猫にエサをやっていたのだ!
小柄な野良猫(三毛猫)はニャーニャー鳴きながら西亜口さんに懐いている。
って、あの猫は俺もたまに見たことがある。警戒心がかなり強かったはずだが……。
『ふふふ♪ にゃー、にゃー♪』
西亜口さんは笑みを浮かべて猫の鳴き真似をして戯れ続ける。
……すごいものを見てしまった。
あの西亜口さんが……。
こんな場面を見てしまっては非情に気まずい。
俺はこの場から離れようと思い、ゆっくりと後ずさったが――。
――パキッ!
運悪く枯れ枝を踏んでしまった!
その音に気がついた西亜口さんがこちらへ振り向いた。
「……ぁ……」
目が合う。
西亜口さんの青い瞳が大きく見開かれる。
「ご、ごめん! そ、その、俺っ! この神社、俺の先祖が昔、建てたらしくて!」
尾行してたと思われるとマズいので、とっさに言い訳をした。
まぁ、嘘は言ってない。
「……み、見たのね……? わたしの猫リラックスタイムを……!」
西亜口さんがゆらりと幽鬼のように立ち上がる
足元では俺に向かって野良猫がシャーッ! と威嚇してきた。
「……こうなっては生かしておけないわ……」
西亜口さんは懐から短刀――いや、時代劇で無頼者とかが使うドスだ――を取り出した。
……って、なんで西亜口さんはドスなんて持っているんだ!?
本当にスパイだったのか!? 暗殺されるっ!
「本当にごめん! 覗き見するつもりはなかったというか、俺、西亜口さんが心配で!」
「……わたしのことが心配……?」
西亜口さんはドスを構えたまま、こちらを怪訝な表情で見てきた。
「……どういう意味……?」
「えっ、あっ、その……西亜口さん学校で孤立してるから……思い詰めて自殺するんじゃないかって……」
俺は誤魔化すことなく、そのまま思っていたことを口にした。青く冷たい目で睨みつけられながら刃物を突きつけられると、嘘なんてとても言えなかったのだ。
「……わたしが学園で孤立してるからって自殺? ……ふん、甘く見られたものね……」
西亜口さんは鼻で笑った。
どうやら杞憂だったようだ。
「……まあ、今ここで見たことを忘れるのなら命だけは助けてあげるわ……わたしもこんなところで前科持ちになりたくないしね……」
西亜口さんはドスを持った手を下げながら言う。
「……あ、ああ。忘れるよ。それでいいだろ?」
あんな強烈なシーンは生涯忘れられないだろうけど……。
今はこの場を切り抜けることが大事だ。
とりあえず、これで一件落着か。
そう思う俺だったが――。
「そう。なら、この薬を飲んで」
西亜口さんはドスをしまうと、代わりに透明な袋に入った錠剤を取り出した。
「えっ、なにこれ……」
「この薬を飲めば今日一日の記憶が全てなくなるわ」
うわああぁ……! 西亜口さんは本当にスパイだったのか!?
普通の女子高生がそんな錠剤を持ってるはずがない!
「さあ、早く飲みなさい」
キッとこちらを睨みつけながら西亜口さんは迫ってくる。
ついでに野良猫もシャーッ! と威嚇しながら近づいてきた。
「ちょ、ちょっと待って西亜口さん! 絶対に口外しないって! 俺、口堅いから!」
「口外しない? それだけじゃダメだわ。あなたの記憶からわたしの醜態を永遠に抹消しなければ」
「しゅ、醜態って……か、かわいかったじゃないか!」
テンパっていた俺は、つい素直な感想を口走ってしまった。
その俺の言葉に、西亜口さんはキョトンとした表情になる。
「……かわいい?」
「あ、ああ! かわいかった! 猫と戯れる西亜口さんすごくかわいかった! めちゃくちゃかわいかった!」
ほとんど叫ぶように西亜口さんのことを褒め称える。
恐怖のあまり俺はオーバーリアクションになっていた。
「……かっ!?」
西亜口さんの口から言葉が出かける。
そして、そのまま固まる。
なんだ? いったい、なにが起こったんだ?
その間にも、みるみるうちに色白な西亜口さんの顔が赤くなっていく。
そして、ようやくのことで口を開いた。
「かかか、かわいくなんてないし!」
「……えっ?」
そう口走り、俺をキッと睨みつけてきた。
だが、少し瞳が潤んでおり、さっきのような迫力がない。
「そんな顔も、かわいい」
俺は思ったままの感想を率直に口にした。
「か、かわいくない!」
即、否定する西亜口さん。
なにをそんなに必死になっているんだろう。
でも、西亜口さんがかわいいことに疑いはない。
だから、思ったままを口にする。
「かわいい」
「かわいくない」
「……かわいい!」
「……かわいくない!」
「絶対に、かわいいっ!」
「絶対に、かわいくないっ!」
なぜか言いあいになってしまった。
西亜口さんの顔はますます赤くなり、瞳も潤んでいるというか泣きそうだ。
「……わかったわ。あなたはわたしに羞恥心を極限まで与えて殺そうとしているのね」
西亜口さんは錠剤の入った袋を懐にしまい、再びドスを取り出して構えた。
「ち、違うって!」
「なら……なぜわたしのことをかわいいって言うの?」
そんなことを言われても困る。かわいいものはかわいい。
でも、なにかしゃべられないと本当に刺されかねない気がする。
「猫ってかわいいだろ? それと同じというか……」
「猫はかわいいけれど、あなた、わたしを猫扱いするのね?」
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
「……つまり、わたしを餌づけして首輪をつけてペット化したいということね?」
なんでそうなる!
「……やはりあなたのような危険人物は生かしておけないわ」
西亜口さんはドスを構えて俺に近づいてくる。
足下の猫もシャーッ! と再び威嚇してきた。
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