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ブス取締捜査官HANAKO  作者: 古来颯潘
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水銀燈

 HANAKOの「少女A」での店番中、例の電話が掛かってきた。逆探知は成功したにはしたが、存在せぬ筈の場所からの電話であった。やはり、あの男達が暮らす所からかかってきているのだ。

 今日は呼び出し日である。MIYUは「月下美人」への潜入捜査に進展ありとの事で、詳細の把握はこれからだが、手が離せぬため同行できぬとのことであった。MIYUは大層残念そうであった。MIYUもHANAKOと同様、男の存在への好奇心が隠せぬ様子である。今日はHANAKOの単独潜入となる。先方の指定した場所は重機生産の主要工場であるNT工業の完成重機一時保管庫であった。

 NT工業はA地区にある。「少女A」の馴染みの客にもNT工業で働く工員がHANAKOの知るだけでも5人はいた。今日の捜査の進展次第ではあの連中への捜査も行う事になるかもしれない。

 30人ほどが保管庫前でたむろしている。ねじ曲がった煙草を回し呑みしている連中、仲間の悪口で盛り上がっている連中など様々であった。MAKIKOによれば声をかける相手はダブらないようにしているとの事であった。念の為HANAKOも高醜度化迷彩装備の具合を調整し、前回とは違う顔で来ている。

 保管庫の扉が空いた。一同中へ入る。

 大きな音をたて、高い天井に吊り下げられた水銀燈の電源が入れられた。完全に明るくなるまでかなり時間がかかるだろう。庫内には10台程度の重機類が置かれている。巨大な黒い影としてしか認識出来ないが。HANAKOの正面に人影が見えた。他の連中も見つけたようで、自然と皆の足がそちらへ向かう。気味が悪いのか、20メートル以上の距離を保って皆の足が止まった。良く見えないがこないだの男とは別人である。男の体型ではないように見えた。おそらく女であろう。HANAKOは少々落胆した。その女が大きめの声で語りかける。


「良く来てくれました。そこに箱が沢山あるから、座ってくださいね。今日はちょっと話を聞いて欲しくて集まっていただいたんです。」


 一同言われた通りに箱に腰掛ける。


「みなさんはA地区かB地区、C地区の人も混ざっているかしら、その辺りの人ですよね。みなさんは何で顔の出来不出来で住む場所も違い、身分も違うのか、考えた事はありませんか。」


 HANAKOはその事について考えたことがないわけではなかったが、そういうものだからそうなっている、という以外に納得のしようがない、と結論づけていた。他の者達もだいたい似たようなものだろう。里親センターから子供が配られる時点で既に住む場所が決められているのだ。子供の形状と遺伝情報をもとに里親センターで醜度が測定され、住むべき地区に住む適切な里親へ渡される。それが秩序だった。醜い者は邪悪であるからそう仕組みになっているのだ、という説を唱える者もいた。その証拠に高醜度地区の治安は悪いではないか、と。


「子供がどこから来るのか、不思議に思っている人はいませんか。」


 その点について明確に説明ができる者はいなかった。どこかに子供を製造している工場があり、そこから送られてくる、という説明をするものもあったが、単なる噂に過ぎなかった。


「みなさん自身もどこから来たのか、わからないでしょう。知りたくはありませんか。」


 知りたい、とHANAKOは思った。


「私はここから離れた違う場所で、皆さんとは全く違う秩序のもと、暮らしています。そこでは、身分に差はありません。そもそも美醜に差が無いのです。男もいます。男というものは皆さんご存知ですね。ご覧になった事のある人はここにはいないかな。見たという方、あるいは見たという話を聞いたことのある方、いらっしゃいますか。」


 HANAKOは周囲を見渡した。誰も返事をせず、挙手もしない。目立つと捜査に支障がある気がしてHANAKOも黙っていた。


「実はすでにこちらの世界の人たちの一部に男に会ってもらっています。口外を禁じてはいないのだけど、どういうわけか皆さん口が固いみたい。少しは噂も広がっているとは思うのだけど、最初に私たちが考えていたほどにはこちらの世界に影響は与えられていないみたいです。見てはいけないものを見た、という意識が働いているのかも知れませんね。そこで少し予定を早めて、私がここへ来て、皆さんにあちらの世界の事についてお話ししようと、そういう事なんです。」


 他の連中はポカンとしている。この女の言葉遣いが、ここにいる連中にはやや難しいのかも知れないが、多くは話が唐突すぎて反応できずにいるのだろう。


「子供を作るには性行為が必要です。犬や猫の交尾は分かりますね。あれと似たようなものです。皆さんも、そうやって産まれたんですよ。皆さんは、私たちの暮らす世界で行われた性行為の結果産まれて、それからここへ送られてきたんです。」


 水銀燈が本来器具が持つ照度で下界を照らし始めた。


 女の顔がはっきりと見えた。


 今までに誰も見たことがないほど、美しかった。

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