乳房乱舞
これは罪に問えるのだろうか。国がもっと大きくなればいい、という部分だけがやや革命を目的としたテロを匂わせる発言と取れなくもないが、弱いだろう。今回の件で最も不穏であった点は何と言っても男の出現である。どう考えてもそこが核だ。罪に問うべきはその点でなくてはならない気がする。とはいえ、男の出現を禁じる法律などどこにも無いのだ。刑法をどう紐解いても、少なくとも今回の件を罪に問うことは不可能である。これだけ衝撃的な事象であるにも関わらず、だ。しかもあの男はここの住人では無いため耳の後ろにタグも埋め込まれてはいないだろうし、仮に埋め込まれていたとしても、ここの物ではないはずだ。それは外の世界を知らぬHANAKO達にとってはあの男はこの世に存在してないのと同義である。逮捕のしようがない。この世界には外敵を想定した防衛法なども全く無い。害獣の闖入と見做して射殺駆除する、というのは出来なくは無いかもしれないが、いくら何でも乱暴だし、殺す意味もわからない。いずれにしても、更なる調査が必要であるし、そもそもHANAKO自身が興味を感じているのだ。もっと調べない手はない。そういうわけで事を荒立てるのは今は得策ではないと判断し、MIYUと示し合わせて上への報告は見合わせた。MIYUは一も二もなく賛成した。
本日、「少女A」にはHANAKOが出勤する番であるので、MIYUが「月下美人」へ客として向かった。店を男に貸した以上、あの店のオーナーか店主か、あるいは従業員が何らかの繋がりを持っていると考えるべきで、その点について調べておきたいからだった。もしやるならポーカーの方が良いがこないだの様にあまり夢中になって失敗せぬようにしなくては、と余計な心配もしつつ、いつもの様に高醜度化迷彩装備を着用しC地区に合わせて若干の手直しをしてからC地区へ向かった。
「月下美人」はC地区にあるだけのことはあって、店外に花が植えられており、B地区の「少女A」に比べればいくらか上品であった。店内に入ると、大相撲の中継がちっぽけなTVに映し出されており、10人程度の客はみなそれに見入っていた。賭けているに違いない。幕入前。場内への客の入りはまばらな様だ。三段目の取組が行われている。
「いらっしゃい。酒は焼酎でいいね。」
「うん。」
この手の店で焼酎と言えばいわゆる甲類に属するもので、平たく言えば工業的に作られた消毒用アルコールと何ら変わらぬものを水で割っただけのものだ。旨くはないが不味くもない。
「あんたどっちに賭ける。」
客の一人がMIYUに聞いた。TVの画面を見ると、何とYURIKAの取り組みだった。醜名は大月経というらしい。対戦相手は大陰唇だった。YURIKAは「少女A」をしばらく休むとの話だったが、本場所中だったのだ。
「大月経にするよ。」
やはり知人のYURIKAを推したくなるものだ。勝負は店がのむ決まりらしい。もちろん何割かは寺銭として取られる。
力士は皆まわしをつけ上半身裸である。YURIKAの乳房は全身の脂肪の割には小ぶりではあったが臍の位置まで垂れており、一個だけ入ったみかん袋を二つぶら下げたような佇まいであった。対戦相手は小兵力士であるが乳房はやや大ぶりで迫力があったがこれも垂れている。力士の乳房というものは激しい稽古の末、垂れるものであるらしい。
行司の軍配が返った。二人の力士は土俵中央で激しくぶつかったかに見えたが大陰唇が変化した。垂れた大ぶりの両乳房に大きな円弧を描かせながら大月経の側面に回る。大月経はたたらを踏んだが踏みとどまり大陰唇の方へ向き直る。先程までの進行方向へ置いてけぼりを食っていたみかん袋の様な両乳房も遅れて体の正面へと復帰する。大陰唇は腕を大月経の脇の下から滑り込ませ横褌を取りにかかる。その手に弾かれた大月経の乳房がぐるりと体に沿って一周し大陰唇の顔面を直撃。怯んだ大陰唇は上体を一瞬のけ反らせた。大月経はその隙を見逃さず厳しい突っ張りを大陰唇の胸元へ連続で繰り出す。大陰唇の両乳房は打撃のたびにその形状を目まぐるしく変化させた。小兵力士の悲しさ、大陰唇は土俵の外へあっけなく押し出され転落。体の着地からやや遅れて乳房が大陰唇の体に着地、数度のバウンドを経たのち力無く両脇へと流れた。幕下ながら名勝負であったといえよう。
MIYUは知人の勝利が素直に嬉しかった。さらに喜ばしかったことは賭けに勝ったことだ。大月経は本命であったらしく大した配当ではなかったが、勝てば嬉しいものだ。
店主らしき人物がMIYUに配当金を渡しながら話しかける。
「あんた見かけない顔だね。」
「うん、この店は初めてだよ。」
「C地区の者だよね、あんた。あたしは顔が広いんだけど、あんたは見たことがないよ。どこで働いてんだい。」
「日雇いだよ。あっちこっちさ。」
「そうかい。それじゃあ丁度いいね。ちょっと頼まれごとをしておくれよ。」