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ブス取締捜査官HANAKO  作者: 古来颯潘
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月下美人たち

 今日はMIYUの出勤日である。いつもの様にMIYUは給仕そっちのけで麻雀に興じている。オーラス0本場8巡目、MIYU南家で3着目。上家の親が切った二萬を叩いて混一色、一気通貫、白、ドラ2の跳満を2副露で聴牌したと同時に店の電話が鳴った。


「YURIKA、電話に出て。」


 この時のMIYUは負けが込んで完全に頭に血が上っていた。この跳満を和了すればトップだ。トップ目の西家との点差は1万200点。MIYUの待ち牌は四、七萬。一気通貫は確定していない。四萬ならば誰からでも出和了できるが七萬ではトップ目の西家からの直撃以外、見逃さざるを得ない。七萬を自摸ってしまったら最悪だ。満貫では届かない。2着に甘んじるMIYUではない。四萬を再度自力で自摸らねばならないのだ。そもそも2副露もしているし、河は誰が見ても混一色。出和了はあまり期待できない。ラス目の親番からの高目出和了くらいしか無さそうである。

 聴牌2巡後、MIYU、最悪の七萬を自摸る。MIYUは顔色も変えずにこれを叩き切る。最早四萬の自摸しかトップの可能性が無くなってしまったその同順、東家が四萬をなんと暗槓。絶望である。これでトップは不可能となった。MIYU、自分の河の七萬を恨めしげに見つめる。再度自摸れるであろうか。仮に自摸っても2着である。

 さらにその3巡後、上家立直。場に願っても無い供託が積まれた。これで七萬自摸でも逆転できる。上家の河には中張牌が序盤に多めに切り出されており、国士無双は流石にないが、チャンタ、七対子が濃厚である。現物以外は切りづらい。ラス転落も大いに有り得る。しかしここは全ツッパを決意する。

 次巡、MIYU、奇跡の七萬を自摸る。高々とツモと発声しかけたその時、対面の北家からポンの声。無情にもMIYUの七萬は上家に流れる。上家自摸切り。


「YURIKA、さっきの電話なんだった?」


「時々かかってくるやつ。仕事の斡旋みたいなやつ。」


 やってしまった。逆探知の仕掛けはしてあるがYURIKAには自身の身分を明かしていない為その操作は自分でせねばならなかったのだ。2週間目にしてようやく例の電話が掛かってきたというのに。逆探知は次の機会までお預けとなった。HANAKOに何と言い訳すれば良いのだ。どうせHANAKOも同じ状況なら同じ失敗をしたに違いないのだが。


「いつどこに来いって?」


 待ち合わせ場所での調査なら出来る。本来なら電話の相手を突き止めた上で行いたいところだが。自身の博打好きが悔やまれる。


「今度の水曜日22時にC地区の『月下美人』だって」


 MIYUはとりあえずHANAKOに報告の電話をする。麻雀に夢中で逆探知し損ねたとは言い難い。


「お疲れ様です実はさっき酔客がゲロを吐いて私がその掃除をしていたらそのゲロで別の客が滑って転んでその先に居たまた別の客に頭突きをしてしまって頭突きを食らった客が怒って立ち上がるときに勢い余ってそばで寝ていた猫の尻尾を踏んでしまったらその猫がテーブルの上の酒を薙ぎ倒しながら走り回って床が酒だらけになったので大急ぎでモップを取りに行こうとしたら後ろで殴り合いが始まったので仲裁に入ろうと駆け寄ったらYURIKAとぶつかって吹っ飛ばされてカウンターの角で頭を打って気を失ってしまってその間に電話がかかってきたみたいなんで逆探知出来なかったんですけど今度の水曜日22時にC地区の『月下美人』だそうです。」


「麻雀ね。」


「すみませんでした。」


 MAKIKOに、いつも通りに金の無い連中を集め、水曜日にC地区の「月下美人」へ行かせるよう伝える。


 そして水曜日。25人集ったそうだ。MAKIKOによればいつもより少し少ない程度、との事。

 「月下美人」は「少女A」と似た様な酒場であり、そちらではブラックジャックやポーカーなどが流行りだそうだ。ギャンブル好きの二人は内心色めき立ったが、水曜日は定休日との事で賭場は開帳されないらしい。お互いに少し落胆している様子に気づいて苦笑いをした。

 A地区風の服装に着替え、食い詰め者に混ざって「月下美人」に到着した。戸外には成る程25人程度の醜女が集結している。二人は顔を見合わせ、自分たちが負けず劣らず醜い事を確認する。

 月下美人って、暗けりゃ多少は美人に見えるって意味かね、と醜女たちが笑うのを聴きながらしばらく待っていると戸が開いた。一行はぞろぞろと店内へ入る。


「男だ」


 醜女の一人が叫んで指さした方を見ると、そこには奇怪な顔つきの角ばった人間が一人立っていた。

 

 学校の授業で男というものについては習った事があった。人間のオスを男と呼び、オスと男の意味の違いは、生物学的な雌雄と、社会的な雌雄の違い、なのだそうだ。ほとんどの動物、特に哺乳類には必ず雌雄があり、その交接によって子孫を残す、という話だった。人間の場合はどうなのか、と聞いた生徒が居たが教師はうまく答えられなかった、と、HANAKOは思っていた。人間は進化でそういったものからは解放されて、子供は里親センターからその子の醜度に応じた里親に配られるようになったのだ、といった教師の説明であったが、全く納得出来るものではなかった。里親センターにどこから子供が送られてくるのかは知る者がいなかったのだ。人間のオスはどこに行ったのか、と聞くと、人は決まって、交尾の必要が無くなって死に絶えた、と答えるのだった。交尾の必要が無くなって男が死に絶えたのなら、不快極まりない月経も同時に死に絶えて欲しかったものだ。とにかく彼女たちは、何となくそういうものなのだ、とぼんやり納得して生きていた。


 今2人と25人の月下美人たちの目の前にいるのは確かに教科書に乗っていた「男」である様に思えた。

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