都市伝説
MAKIKOはここの数日、おかしな噂を耳にする様になった。「男」が居る、というのである。どこに居るのかは分からないが、とにかく居るのだそうだ。その噂は耳にする度に背鰭尾鰭がついてくるようで、誰それがその男と交尾をしたらしいだの、一緒に暮らしているらしいだの、どこかで子供が産まれたらしいだの、最近死んだ誰それはその男に殺されたらしいだの、様々だった。都市伝説の類はよくある事だし、こういう商売をしていればそんな話題の好きな連中ばかりを相手にしているのだから、根も葉も無い様な噂などしょっちゅう耳にしている。適当に話に乗ってやって酒を飲ませておけば済む事なのだが、この件に関してはどんなに馬鹿馬鹿しい話であっても共通している部分があって、妙に真実めいているのである。その男はMATSUYAMA KOUHEIというおかしな名前で、MATSUYAMAがミョンジだとかミオジだとか言われる部分であり、それはナントカという単位につけられる名前であること、全く別の場所に済んでいて、そこでは人間はそのナントカという単位で暮らしており、みんな交尾によって子供を作っている、という話が度々登場するのだ。わけがわからない話だが、わけがわからない部分が共通しているからこそ、何やら真実めいて感じられるのだった。何の気無しにその話をHANAKOにしてみた。
「あら、知らなかったの。そっか、MAKIKOは紹介するだけで、自分で行ってみた事、無いんだものね。」
「ホントの話なのかい。」
「そう。例の電話の相手にあなたが紹介した人たちがその噂広めてるのよ。」
「じゃあ、アンタも男を見たの?」
「ええ。」
「ほんとに男だったのかい。」
「ええ。性器も見たから間違いない。犬や猫のとはちょっと違ったけど似た様なもんだったから、間違い無いと思う。」
「捜査の話だから聞いちゃいけないと思って聞かなかったけど、もっと早く聞いとけば良かった。集合場所では危ない目には合わない?」
「ええ。少なくとも私は合わなかった。今後の保証はないけれど。」
「今度電話きたら、私も行ってみていいかしらね。」
「ええ。一緒に行きましょう。何かあったら守ってあげられるかもしれないし。YURIKAも連れてったらいいかも。」
「性器は必ず見せてくれるのかね。」
「どうだろう。前回は女だったのよ、来たの。男が来れば見せてくれるんじゃないかしら。」
「見せてくれるといいけど。面白そうだし。」
「確かにちょっと面白かったわね。」
「目的は何なの?」
「さあ。それがまだ分からないのよ。」
「女は何しにきたの?」
「私たちが知らない歴史の話をしに来たんだって。ほんとに全然知らない話をしてた。」
「歴史。つまんなそうだね。男が来ればいいな。」
「そうね。」
店の電話が鳴った。YURIKAが出た。
「例の電話。明後日の夜の9時に月下美人に集合だって。」
2人は顔を見合わせた。YURIKAに内容を話し、一緒に行く約束をした。高醜度一般人を捜査に同行させるなど前代未聞だとは思うが、そもそも高醜度一般人が対象の集会なのだから問題はないだろう、とHANAKOは都合よく解釈する事にした。電話で確認したところMIYUも今回は行けるとのことだった。
翌日、「少女A」へはMIYUが出勤する番であった。出勤前、管理センターにてMIYUはHANAKOから前回の集会での話を聞かされた。MIYUは化学工場での出来事と、軍の出動を要請した事をHANAKOに告げた。この二つが、果たして互いに関連性のある事象なのか、否か。仮に関連があったとして、どの様に関係があるのか。あの男と、あの女の目的がまだ分からない以上、かなり飛躍した推理をする以外にその二つの事象を関連付ける事は難しい。テロや暴動を起こすこと、あるいは起こさせること、やはりその辺りの線だろうか。動機はまるっきり分からないが。
そんなことを考えながらMIYUは「少女A」に到着した。
「明日、あたしたち入れて10人しか集められなかったよ。やけに期間が短いね。なんか急いでるのかね。」
MIYUが入ってくるなり挨拶も無しにMAKIKOがそう告げた。
「そうかもしれないわね。」
「男ってのはどんなもんか、ちょっと楽しみだよ。怖い様な気もするけど。男って強いんだろ?」
「体は大きかったけど、YURIKAよりは小さいし弱そうよ。」
翌日、集合場所。待っていたのは前々回と同じ、MATSUYAMAKOUHEIというあの男だった。 話の内容もほぼ同じ。誰からも質問はなかったが、こないだHANAKOがした質問に対する答えの内容も、ほぼそのまま話していた。違っていたのは、男の存在を積極的に口外しろ、と言った点だけだった。
そして解散。当然MAKIKOとYURIKAは残って性器を見る事を希望した。HANAKOとMIYUも、一応もう一度見ておく事にした。