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ブス取締捜査官HANAKO  作者: 古来颯潘
12/16

新しい秩序

 「建前というものは、みんながそれを信じれば、事実として通用する様になるわ。皆さんが毎日働いて稼いでいるお金だってそうよ。お金には元々は価値なんて無い。でもみんなで価値があるという建前を信じさえすれば、それが事実として通用するから、それでご飯が買えるわけ。常識だって、法律だってそう。さっき私は、男の仕事に価値があるというのは建前だったと言ったけれど、当時の人達はその建前を信じていたから事実として通用していたのね。女達でさえそれを信じていた。だから女達もその価値がある仕事をやりたいと思う様になった。奴隷労働とも知らずにね。次第にそれまで男達がやっていた仕事に参加していく女も増えたの。推奨さえされた。みんなそういう仕事は尊いって信じていたし、単純に奴隷は多い方がいいしね。女の参加を嫌がる男達も大勢いたけどね。だって女も男と同じ事やったら、折角自分達男は価値がある存在だとどうにかこうにか信じ込んでいたのに、それが崩れちゃうもんね。社会に出る女達はそんな男達の抵抗にも苦しんだけど、もっと苦しんだものがあった。生きる意味とか、自分の価値とかに苛まれる様になってしまったの。だって、男達の仕事はそれを埋めるために生み出されたものだったわけだから、セットなのよ。生きる意味や価値を見出すために働くんだものね。当然よ。」


 わかるようなわからないような話になってきた。


「そして、あの事件。男の出生率が極端に減少した。一夫多妻制を認めてみたりもしたのよ。でも多妻にも限界があったし、社会性を身につけてしまった人間は嫉妬の問題から逃れられなかった。男女の比率が同じだった頃にも一夫多妻制の時代や社会もあったけど、意味が違うわね。大昔は男の命の価値が低いからこそ一夫多妻制が成り立っていたのだけれど、女が極端に余る世の中においては全然違った。一夫多妻制やったって、それでも女が余るんだもの。極端な事を言えば、余った女がまとめて死んでも、子孫を残すという目的においてはほとんど影響がない、という世の中になってしまったのよ。男達の命より女達の命の価値の方が下になってしまった。女達は頭上から降りかかってくる、生きる意味や自分の価値なんかからの逃げ場を失って、それまで男がやっていた仕事をやる様になり、男達は守られるべき存在になったわ。人質事件が起きれば、男子供が優先的に解放される様になったのよ。」


 女も、もはやHANAKOしか話を聞いていない事に気づいている様で、完全にHANAKOの方を向いて喋っていた。分かりやすく説明しようという努力も、かなり放棄し始めている様に見えた。


「男達は最初は徐々に仕事を奪われて苦しんだけど、次第に喜び始めた。だって生きているだけでみんなが価値を認めてくれるんだもの。それに女も選び放題なのよ。でもね、結局は女達と一緒だったわ。価値があるとされる女達の仕事を羨ましがり始めた。それは今もそうよ。自由が制限された様に感じて男達は苦しんでいるわ。誰か、タバコ持ってないかしら。」


 他の連中は多分持っていないし、仮に持っていても人にくれてやったりはしないだろう。HANAKOは懐からタバコを取り出しSAEKOに渡した。長話にウンザリして寝ていた連中も、タバコと聞いて目を覚まして羨ましそうに眺めた。SAEKOはタバコの煙を旨そうに吐き出しながら話を続けた。


「男達のほとんどは美女を好んだ。男を所有する女はそれだけで価値の有る者と見做された。こうして、徐々に美醜に基づくヒエラルキーが形成されていったの。楽で儲かる仕事を美しい者がし、辛くて儲からない仕事を醜い者がする様になったわけ。だって、男を守らなくてはならないという事は、男を所有する女を守らなくちゃいけないって事だから。女社会の中心にいる美女達はこう考える様になったわ。『このままこの社会を放置しておくと、かつての男社会がそうであったように、やがて金のある物が力を持ち始めるだろう。ヒエラルキー下部にいる物ほど働く時間はあるのだ。条件が悪いとはいえ知恵もあるのだし、金を持たないとも限らない。男どももかつての女達と同じように、多少の醜さには目を瞑って金を持つものの所有物になる者も多く現れる様になるだろう。今のうちにヒエラルキーを固定してカーストを形成せねばならない。そして実質的な男女比を極力等しくせねばならない。』って。そうして、新しい秩序が急速に形作られていった。一部の者が明確な意図を持って強引に作り上げた秩序としては、史上最短記録かも。一定の美しさの基準に満たない女は強制的に隔離される事になったの。」


 HANAKOは背筋が凍った。つまり、自分も隔離された側なのだろう。


「もうあなた以外、誰も聞いていないわね。この話の続きはまた今度、あなただけにするわ。みんな集まってください。ご足労でした。」


 SAEKOは皆に報酬の入った封筒を手渡しながら、HANAKOにだけこう告げた。


「あなたに連絡できるところの番号教えて。」

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