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11/13

11 初めての仕事と

これからは慎重に、ゆっくり投稿します

 ふと、窓から流れ込んできた風が頬を撫で、そちらに向きます。

 今は授業中。私の隣の席では、海色さんが窓の外へ顔を向けて、温かな日差しを浴びながら微睡んでいます。


 少し、幻想的な風景ではありますが、まだ四月なので窓を開けると寒いです…。どうして開けているんでしょう…。


 現在の授業内容は、現代文です。私はつい先日まで、先生の授業と読書以外何もすることがない生活をしていたので、現代文だけは少しだけ得意です。

 尤も、漢字に関しては読むことばかりしかできませんが…。


 授業中に居眠りしているのを咎める思いでじーっと見つめていても、海色さんは起きるような素振りは見せません。仕方なく、黒板のほうへと目線を戻します。


 ついに始まった私の学校生活。授業中は、たいていこんな感じの時間がずっと続くだけでした。


「…思っていたより、退屈なものなんですね、学校生活って」


 ぼそりと、誰にも聞こえないようにつぶやいてから、板書をノートに写す作業を再開しました。


****


 そして、私が入学した週の金曜日。


 学食で昼食を食べながら、なんでもない雑談をしていた時、海色さんからお仕事のお誘いをいただきました。


「依頼、ですか? それはどういう…」

「うーん、内容はこの前の…舞香と会った時と似たような感じじゃないかなぁ。ただ今回行くのは北部だから、ちょっと面倒くさいことになるかもしれないけれど」

「め、面倒くさいことですか…?」


 私が恐る恐る聞き返すと、海色さんは神妙な顔で、声を潜めて言いました。


「この町の北部は、南部…ここら辺の静かさが嘘みたいに治安が悪いんだよ」

「そ、そうなのですか…」

「そこら中に陣が落書き…とかはさすがにないけど、ところどころにある廃工場とかに体式の不良どもがたむろっていたり、変な道場が乱立してて、それ同士の抗争が頻発していたり…」


 な、なるほど…。道場同士の抗争…そんな感じのお話、何かの小説であった気がします。


「なんだか…」

「うん?」

「…少し、かわいらしいような…闇取引とかある、だとか、そういうのではないんですよね?」

「へ?」


 私の言葉に海色さんはきょとんとすると、今度は突然笑い出しました。

 な、何かおかしかったでしょうか…。


「私何かおかしいこと言いましたか…?」

「ごめんごめん…あははっ、なんか舞香の考え方が少し面白くてさ…」


 思わずむっと頬を膨らませると、海色さんはにやにやしながら膨らんだ頬をつついてきます…


「もう、遊ばないでくださいっ」

「あはは、ごめんって。それにしても、舞香はなんだか考え方が物語寄りというか、なんというか…」

「…何が言いたいんですか」

「ううん、別にいいと思うよ? なんかかわいいし?」


 思わずため息をはいて、頬をつつき返します。


「いやぁ、実際に闇取引なんてしてたら、軍の奴らとか規制者が黙ってないよ」

「なるほど、考えてみれば確かに…?」

「この町に、闇取引されるような物も入ってこないしね。それに…」

「それに?」


 海色さんは、表情を少し硬くして、続けます。


「結局、徒党を組んで悪やるのも自己満足なんだよ。こんな町に監禁されて、娯楽も少なくて、将来の選択肢もほとんどない。そりゃあ、グレちゃうよねって」

「…それじゃあ、海色さんは?」

「…私も、似たようなものかな。そういうやつらを取り締まる側に立っていたから、普通っぽく見えるだけで」

「そうなんですね…」


 この町が、異端な存在である能力者(アクセサー)を世間から隔離するためのものであることは、ここ数日での経験からして、私でも理解できます。

 それでも、なんというか…少し、理不尽が過ぎるような気がしました。

 外からやってきた私が言っても、海色さんのような生まれた時からここで暮らしている人たちからすれば気に障るだけなんでしょうけれど。


 黙り込んでしまった私を、海色さんは「幻滅しちゃった?」と言って、いたずらっぽく笑って見つめてきます。

 少しだけ、瞳が不安げに揺らいでいるのは気のせいでしょう。


「いえ、全然そんなことはないですよ」

「…そっか」


 安心させるように、少しだけ声を柔らかくして答えると、海色さんは少し恥ずかし気に、顔を背けました。


 そのあとは会話が途切れて、黙々と食事をする時間になってしまいましたが、空気の後味は悪くありませんでした。

 午後の授業を終え、学校からの帰り道。日曜日の9時に集まる約束だけして別れました。



****


「…ふぁ」


 瞼越しに窓から差し込む朝日が刺さり、目を覚ましました。

 起き上がって時計を見ると、まだ7時でした。習慣が染みついてきたのでしょうか。


 朝食を作るために、キッチンに向かいます。今日は時間がありますし、少し手間をかけて和食をちゃんと作ってみましょうか。


 病院で先生にお世話される日々の経験しかなかった私に、一人暮らしというものはなじみないものでしたが…


「意外と、どうにかなるものですね~」


 包丁を使うのにも段々慣れてきていて、料理にかかる時間も少しずつ減ってきています。

 基礎ができたら、料理のレパートリーを増やしていくと、楽しいかもしれません。

 …そこまで贅沢な食材が買えるほど、お金はいただけないようですが。


 入学式前日に、家にあった通帳も確認しました。添えられていたメモには、生活費は月五万円支給されると書いてありました。節約すればそれなりに貯金できるかもしれませんが、ちゃんと最低限という感じです。


「…まぁ、家賃もかかりませんし。この町では税金というものもかからないそうですからね。それに、個人的に稼ぐ方法もありますし」


 さて、本日の朝食は…ごはんと、みそ汁と、鮭(冷凍)の塩焼きです! …とても単純なのですが、これでおなか一杯になってしまいます。備え付けられていた薄いレシピ帳だけでも、食べたことのない料理がたくさんあって、本当はもっと食べたいのですが…。


「…いただきます」


 先生に教えてもらったおまじないを口にしてから、私は黙って食べ始めました。


 …また今度、海色さんを夕食に誘いましょうか…。




 食べ終わり、寝起きで乱れた髪を直していると、気づけば8時を回っていました。


 今日は外に長く居そうなので、薄めの服のほうがいいでしょうか。


「山のほうに行くとは聞いていませんし…あとは――」


 唯一の私物として持ち込んだ髪留めで髪を簡単に後ろでまとめ、少し早めに家を出ました。


 …普通の女性は化粧をするらしいのですが、私は生憎そういったものがわかりませんでした。これも、海色さんに聞いてみましょうか…。


服装の描写は、悩みましたがなしで。


2021/03/09 一部修正

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