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10/13

10 陣式の授業『入門』②

海色はどんどん気を許していきます。

それでも口調がおかしくなってきたら教えてください。


「よいしょ…っと」


 海色さんは今、木の棒を使って地面に陣を描いているようです。


「えっと…描くだけで使えるんですか?」


 私がふとそんなことを聞くと、「いやー?」と返ってきました。


「さっきの粉を、この陣の線の中にまくんだよ。この粉にエニマがこめられてて、回路の役割をするんだ。電子回路みたいな?」

「な、なるほど…」


 どの道、私は教えてもらっている身。やれることもないので、しゃがんで見守ることにしました。



 しばらく春らしい暖かな日差しにうとうとしていると、海色さんの「できたー!」という声にハッと目を覚ましました。


「…結構、かかるんですね」

「うーん、まぁそれなりに複雑なものを描いたし。それじゃあやってみよっか」

「ふ、複雑なものですか…。こんなところで使っても大丈夫なんですか?」


 私の心配に、海色さんは「全然大丈夫」と笑って返します。


「やることはさっきと同じ。土を盛り上げるだけだよ」

「それにしては、結構大きくないですか…?」

「…まぁ、張り切りすぎちゃった感は否めないけど…」


 海色さんはそういってうーんと唸ります。


「…まぁ、大丈夫でしょ! 今回は固める工程もあるし、崩れないから!」

「そ…そうですか」


 …まあ、何か起きたらきっと海色さんがなんとかしてくれます。


「はい、じゃあいくよ〜」


 そういうと、海色さんは陣の円から一本だけ飛び出ているところに触れます。すると…


 円が描いてある地面がもの凄い勢いで盛り上がりました!?


「ちょ、大丈夫なんですかこれ!?」

「だ、大丈夫、大丈夫…崩れない、はず…」


 私はどうすることもできずに、どんどん高くなっていく土の塔を眺めます。

 直径は1メートルくらいで、高さは…二階建ての海色さんの家の屋根と比べてもかなり高く…


「全然、だいじょばない気がします…」

「……」


 海色さんは黙り込んでしまいました。チラッと顔を窺うと、なんだかすごい汗。


「あの…これ、戻せるんですか…?」

「う…ごめん、ちょっとやばいかも」


 そんな気がしてましたよ。


 その時、少し(・・)風が吹きました。


 それだけで、土の塔がしなりました…。


「あ…」


 そして、かなり曲がり…


 なんとか戻りました。

 まだ、振り子みたいに揺れていますが。


「み、海色さん、どうするんですか?」

「ちょ、ちょっと見張ってて!!」


 海色さんはそう叫んで、慌てて家の中に戻りました…。って!?


「見張っててと言われても、私には何もできないんですが!?」



 それからすぐに、海色さんは1枚の札を持って戻ってきました。


「舞香! 危ないから離れてて!」


 慌てて私が土の柱から離れると、海色さんはその札を指に挟んで構えました。


 すると、その札に書いてある2つの陣の、小さい方が鈍く光出しました。

 海色さんはそれを…少し前に先生に見せてもらったアニメのキャラのように…手裏剣を投げる感じで、土の柱に向かって投げました。


 投げられた札は土の柱に当たると…貼りつきました!? …いや、絶対そんな風にならない角度だったのですが…。


 そして、柱に張り付いた札の大きい方の陣が鈍く光ると…土の塔が崩れ始めました。


「…ひゃぁ…」

「…ごめんね、危険な目にあわせて」


 申し訳なさそうな表情をした海色さんに連れられ、私は部屋の中に戻りました。


 …その、残っている土の山はどうするのでしょうか。



****



「ほんっとにごめん!」

「い、いえ…その、何事も無かったわけですし」


 慌てて土下座した海色さんを起こします。

 土下座するほどのことでもないですし…。


「でも…」

「もう起きちゃったことですし! それより、続きをお願いします! まだ実演しかしてもらってないです!」

「う…まぁ、そうだよね。…じゃあ、続きをしようか」


 なんとか、持ち直してもらえたようです。

 まだ少し、暗い気がしますが…仕方ないです。



 こほんと、海色さんは咳払いをします。なんだか可愛らしくてニコニコしてしまいます。私より背が小さいのもあって、なんだか妹感が…先生をしてもらっているんですけどね…。

 そんなことを考えていると、ムッと睨まれした…。


「じゃあ、今日はエニマの扱い方を教えようかな…。これだけは、私も教えてもらったことあるから」

「あ、全部1人で学んだというわけでもないんですね…」

「…私だって人間だよ? 1から10を知れても、0から10は知れないの」

「な、なるほど…」


 1から10を理解できるのもかなりすごいことだと思いますが…。


「それで、エニマはね…何というか、全身力む感じ? エニマが血液みたいに全身を巡っているとして、それを何とか筋力でグイッと…えっと…」

「え、えっと…?」

「と、とにかく全身に力入れるの! それでやってみて!?」

「はっはい!」


 言われた通りに、全身に力を入れてみます。


「…ん!」

「……どう?」


 どう、と言われましても…。


「何もわかんないです」

「え…っと」

「その…何か、エニマを感じられるものってないんですか?」


 そう聞くと、海色さんは考え込みました。


「うーん…あっ、そうだ、確か…」


 何か思いついた様子の海色さんは、箪笥の引き出しをあさり始めます。


 そうして取り出したのは、これまた一枚の札でした。


「じゃじゃーん! これはね〜」

「どういった効果が?」

「起動すると、ただただエニマを垂れ流す札!」

「…へ?」


 それは、使えないものでは?


「対アクセサー用の罠として使えないかなって思ったんだけど、流れ出す速度が緩やかなもんで、ボツにしてたやつなんだよね〜」

「な、なるほど…」

「それに、普通に操作して抵抗もできちゃうから…。でも、これを使えば、舞香もエニマの流れを感じられるはず!」


 た、確かにできそうな気もしますが…。


「その、垂れ流すって、大丈夫なんですか?」

「うーん…」


 海色さんは考える仕草をします。


「そうだね、舞香のエニマの総量がかなり少ないとなると、すぐ尽きちゃうかもしれないけど…」

「その、エニマが尽きたらどうなるんですか?」

「気絶するよ?」


 こ、怖っ!


「でも大丈夫、命に関わるようなことではないし、何か後遺症残るでもないし…。そもそも、そんなに総量少ないのも珍しいから」

「な、なるほど…」

「それじゃ、やってみよっか!」


 そう言って、海色さんはその札を床に叩きつけました。

 よく見ると、先ほどと同じく2つの大小の陣が描かれています。

 そして、小さい方の陣が鈍く光ると、ぺたりと床に札が貼りつきました。


「はい! 札の大きい方の陣に触れてみて〜」

「えっと…どこでもいいんですか?」

「うん」


 恐る恐る、陣の真ん中に触れーー


「ーーひゃっ!?」


 触れた瞬間、何かが吸い出される感じがして、手を遠ざけてしまいます。


「大丈夫…?」

「だ、大丈夫です、ちょっとびっくりしただけですから…」


 そして再び、陣に触れます。


「…っ」


 なんとか吸い出されるような感覚を我慢して、札に触れ続けます。


「それじゃあ、今度はその流れに抗うような感じで…」

「は、はい…」


 この、流れていっているものを堰き止める感じでしょうか…。

 吸い出される感覚は、指の先だけ…。指の先に、力を込める感じでーー


「お、止まったね?」

「ほんと…ですか?」


 意外と、あっさりとしたものでした。


「これでいいんですかね…」

「うーん、まぁ、今日は手がかりを掴んだって感じで。あ、もう離していいよ」

「あっ、はい…」


 吸われる感覚も無くなった指先を、札から離します。


「じゃあ、それは持っていっていいよ。それがあれば、家でも練習できるだろうし」

「いいんですか? ありがとうございます!」

「うん。ちゃんとした陣の描き方とかは、エニマの操作ができるようになってからにしよっか」


 そ、そうですか…。土の柱は大変なことになっちゃいましたが、描いてみたい気持ちもあったので、少し残念です。

 早く操作できるようになればいいだけの話ではありますが。



 その後はエニマの練習はせずに、しばらく話してから帰りました。


 海色さんには、自宅で練習する場合は、気絶しても大丈夫な場所でやるようにと厳命されました。

陣式の授業はここで一旦区切ります。


誤字等ありましたら誤字報告にて、文に違和感等ありましたら感想にてお願いします。


感想、評価、ブクマ等よろしくお願いします。


今後の更新について

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1009652/blogkey/2744532/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告? エニマ垂れ流しの陣を触るシーンで 陣→人 になっている。 [一言] 10話までの感想です。 主人公のタイプが「陣タイプ」に決定。 触媒が必要なんですね。 茶色という事は…
2021/02/24 10:00 退会済み
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