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私がトリップした先は……(1)

 けど、そのことにばかり驚いてはいられない。


 蒼君と瓜二つの少年が言い放ったこと。


 クロストリア城に喚ばれるはずだった勇者は何者かにその召喚先を変えられ行方不明になっていたって一体どういうこと? 私が召喚されたのはローライナ城だった。


 私はイリアの方を見る。すると彼は私と少年に対して口角を吊り上げた。次の瞬間、イリアから眩しい光が放たれ、私は思わず目をつぶる。



「俺か。俺はイリア・アルゼウス。亡国グリトニルの者だ」



 問われたイリアは高らかにそう宣言した。再び目を開けると、そこには金色の髪に緑色の目、王様のような豪奢な衣装に身を包んだイリアの姿があった。その背には先程までなかった、今朝見た大剣もある。



 町人Aからいつものイリアに戻った……? 一体どういう原理?



 しかしそんなことを長く思考してはいられなかった。



「この世界を救うと予言された勇者はこの俺が花嫁としてもらい受ける!」


「!」



 何かを地面に投げつけたかと思うと、イリアが突然私の肩を引き寄せる。そして驚く間もなく、私の身体は彼にお姫様抱っこされていた。



 これって一体どんなシチュエーション!?



 私だけでなく、周囲も呆気にとられているようだ。その場にいる誰もが硬直していた。けど時間はすぐに動き出す。



「勇者をお前なんかの花嫁になんてさせるわけにはいかない!」



 誰よりも速く反応したのは、蒼君似の黒髪の少年だった。彼は自身の腰に差している剣を抜くとイリアに斬りかかる。しかし彼の剣が振りかぶられるよりも速く、私とイリアは太陽のように眩しい光に包まれた。発光元はいつの間にか地面に現れていた魔法陣からだった。















 ローライナ城の玉座の間。私が召喚された場所。そこに私とイリアはいつの間にか戻ってきていた。玉座の近くにはリアムさんが私が召喚された時と同じく控えていた。



「降ろして」



 お姫様抱っこの状態を何とかしたくてそう言うと、イリアはすんなりと地面に降ろしてくれた。



「訊きたいことがあるって顔をしてるな。いいさ。お前の疑問にはなんでも答えてやる」



 距離を置きつつ窺う私の視線に気づいてか、イリアはそう言った。



「イリア。あなたは一体何者なの? 私を花嫁にするって一体どういうこと?」



 私は尋ねる。彼に言われるまでもなく、訊きたいことは山程あった。



「俺はイリア・アルゼウス。亡国グリトニルの者さ。俺の目的はクロストリア王家に成り代わり、世界を統べることだ」


「あなたは最初、私に言った。この世界には怪物を増産する反逆者達がいるって。そしてそんな世界を救うのが私だって。クロストリアの宮廷占い師のマリオネットって人が異世界から召喚された勇者がこの世界を救うって予言したから。だから私を召喚したって言った。だから私はずっとイリアがRPGでいう王様的なポジションだと思ってた。勇者に世界を救ってくれって依頼する。けど、違うよね」



 私はイリアをまっすぐ見据える。



「あなたは反逆者側の人間ね」


「そうだ。お前の言う通りさ。俺はクロストリアに仇を為す反逆者だ。予言が言うところの世界の均衡を崩す輩な訳だ」



 悠然と笑みさえ浮かべながら、イリアは下手な言い訳は一切挟まずはっきりと言った。



「どうして私は反逆者であるあなた達の元に召喚されたの?」



 普通だったら、この世界を救ってくれることを望む、もっと言うと宮廷占い師マリオネットがいるクロストリアに私は召喚されるべきだ。



「お前は元々、この世界を脅かす俺達の魔の手から救うため、クロストリアに召喚される予定だった。それを俺達が――というよりもリアムがその召喚魔法に干渉して、召喚先をここ――ローライナ城に変更したのさ」


「私をここに召喚したのはどうして? この世界を救うという勇者の存在が邪魔だから? けど、そんな勇者を花嫁にするって一体どういうこと?」



 私をここに召喚したのはこの世界を救うという勇者にイリア達の目的を邪魔されては困るからだろう。それはわかる。けど、そんな勇者である私を花嫁にするって一体どんな理由があったらそんな発想になるんだろう?



「別にイリアが私に一目惚れしたとかじゃないでしょう。私のこと、妹のようにしか思えないって言ったよね」


「そうだな。俺はお前のことを妹のようにしか思っていない」


「なら、どうして?」



 目的の脅威となる勇者なんて嫁にするとかそんなまどろっこしいことせずに、むしろ殺した方がイリア達にとっては好都合なはず。……確かに殺した方が良いかもしれないなとか気を変えられたら困るから言わないけど。まだ死にたくないし。



「クロストリアにマリオネットがいるようにな。こっちにも占い師ではないが、ちょっとした予言のできる魔女様がいてな。その人が言ったのさ。世界を救うために召喚される勇者を俺の嫁にしろとな。そうすれば俺が救われるかもしれないんだそうだ」


「……イリアはその予言のために、その予言通り救われたいから私を花嫁にするつもりなの?」


「そうさ」


「……予言ってそんなに信憑性があるものなの? 外れる可能性だってあるでしょう」


「いや、宮廷占い師のマリオネットの予言は本物だ。そんんじょそこらの占い師とは格が違う。それに付随する形で予言を被せる、うちの魔女様の予言もな。俺も昔は半信半疑だったんだが、実際に当たったからな。……もっとも、マリオネットの予言は予言込みで未来を当てたんじゃないかと思っているが」



 マリオネットやイリアの言う「魔女様」とやらはどうやらすごい予言者のようだ。そんな予言者達が言う、この世界を救う勇者であり、反逆者であるイリアの花嫁となることで彼を救うことにもなるのが私らしいけど。



「けど、あなたは本気じゃないでしょう。私を予言のために本気で花嫁にしたいのなら、嫁にするために召喚したとでも言って口説けば良かったでしょう。それに、私にわざわざ勇者の真似事をさせたのはどうして?」



 予言に重きを置いているわりにイリアの行動は不可解でもあった。彼はずっと私のことをこの世界を救う勇者として扱ってきた。今日だってクロスロードまで武器を手に入れるのにも付き合ってくれた。しかも彼は私のことを妹のようにしか思っていないと公言した。



「お前に勇者の真似事をさせたのは、クロストリアの連中に奴等が召喚した勇者は俺の花嫁にすることを伝えるためさ。奴等が救いを求めた勇者は俺達の手の内にあるってな。一番、お前を王都へ連れ出しやすかったのもある。それにどのみちクロスロードでお前がこの世界を救う勇者として召喚されたことはバレてしまうわけだ。お前を逃がさないようにする以上の嘘を吐く必要もなかっただろう」



 平然とイリアはそう言ってのけた。自分達が反逆者側の人間であることを伏せていたのは、私が逃亡してしまうのを防ぐ意味があったのか。



「あなた達がこの世界のほとんどを統括している大国だっていうクロストリアに反逆しようとしているのはなぜなの? どうしてクロストリア王家に成り代わりたいの?」



 私は肝心の動機を尋ねる。もっとも、どんな答えが返ってこようとも、同情こそすれど肯定はできないのだろうけど。



「今から八年前、クロストリアの隣国であったグリトニルは、クロストリアによって滅ぼされた。十年前にグリトニルのアルゼウス王家の養子となった次期グリトニル王を恐れてな」


「アルゼウス王家ってまさか……!?」


「察しの通り、そのアルゼウス王家の養子っていうのがこの俺というわけだ」


「けど、どうしてクロストリアはイリアのことを恐れたの? 一国を滅ぼす程に」


「奴等は宮廷占い師であるマリオネットの予言を恐れたのさ。俺には一つの予言があった。クロストリアに仇なす災厄になるという予言がな」


「そんな予言のために、イリアの国は滅ぼされたの……」



 私は絶句する。この世界では予言がそれ程までに大きな意味を持つのか。



「俺がアルゼウス王家の養子となったのは十年前で、グリトニルでは――特にアルゼウス王家の現王夫妻とはたった二年しか一緒には過ごしていない。それでも彼等もその家臣もグリトニルの民も俺にとても良くしてくれていた。だから俺は将来、そんなグリトニルの良き王になりたかった。だが結局グリトニルはクロストリアに滅ぼされた。グリトニル王夫妻はもとより皆、ほとんど殺されてしまった。そして生き残った俺は、クロストリアに仇なすことを誓ったというわけだ。予言通りにな」



 予言通りにな、という言葉を強調してイリアは苦笑する。



「……」



 そんな彼に対して私は言葉を返せない。何て声を掛ければいいかわからなかった。


 クロストリアに仇なす災厄になるっていう予言がなかったら、イリアはきっとグリトニルで良き王様になっていたんだろうな。


 そんな気がしたから。

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