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王都クロスロードへ(1)

「イリアとお出掛けできるなんて羨ましいです」



 シアちゃんはぼそりとそう呟いた。


 シアちゃんと朝食を取った私は玉座の間に向かっていた。私が召喚されたその場所に移動の魔法陣があるらしい。



「でも私が召喚された時、そんなのなかったよ」と私が言うと、その移動の魔法陣はリアムさんのみが扱える特殊なもので、発動中のみ陣形が現れるのだとシアちゃんは答えた。


 通常の移動の魔法陣は常にその陣形ははっきりと地面に描かれたままの状態であり、魔力をある程度保持している者ならば誰でも使用できるようになっているらしく、シアちゃん達が日常的に使用しているものは城外にあるということも教えてくれた。



「イリアと出掛けることってやっぱり特別なことなの? 名誉なことっていうか」



 剣と魔法の世界っぽいファンタジー世界だから身分とかが絶対っぽいし、下々の者からしたら高貴なお方とご一緒できるだけで光栄だとかそういった価値観とかがあるかもしれないと思い、私はそう訊いた。シアちゃんはイリアに仕えているとも言っていたし。



「別に名誉なこととかではないです。ただ、純粋に羨ましいだけです。最近、忙しいのか私とはあまり一緒にいてくれなくなってしまったので。リアムさんとは毎日のように話し込んでいらっしゃるんですけどね」


「前まではよくイリアと一緒に時間を過ごしていたりしたの?」



 シアちゃんの口振りはまるで以前はよく一緒にいたかのようだった。



「はい。私、元々奴隷でイリアはそんな私を助けてくれて、それから色々教えてもらったんです。日常生活のこととか、読み書きや簡単な計算とか、基本的なことを。私に魔術の才能があるってわかってからはリアムさんに師事するように取り計らってくれたり……。今の私があるのはイリアのお陰なんですよ」



 懐かしむように話しながらシアちゃんは微笑んだ。イリアとの時間は彼女にとってとても大切で尊い時間だったんだろう。そう思わされるには十分な表情だった。


 さり気なくヘビーなことも打ち明けられたけれど。この世界には奴隷制度があって、シアちゃんは元々奴隷だった!?



「シアちゃん……」


「イリア。おはようございます。優愛ちゃんを連れてきましたよ」



 私はそのことをもう少しだけ詳しく聞きたくてシアちゃんに声を掛けるが、それよりも早く目的地である玉座の間に着いてしまい、彼女は昨日と違い部屋の入口付近に立っていたイリアに向かって言葉を発していた。



「シア、おはよう。ご苦労だったな」


「いえいえ。優愛ちゃんみたいな年の近い子と時間を過ごせて楽しかったです」


 明るくにこやかに答えながらシアちゃんはイリアの方へ歩いていく。



「イリア、髪の色と目の色どうしたの!?」



 シアちゃんは通常通り受け答えしていたけれど、私は驚きの声を上げる。


 なぜならば目の前のイリアの髪色は鮮やかな金髪に宝石のような緑の瞳ではなく、その両方が漆黒に染まっていたから。日本人の私よりもさらに黒いくらいだ。それに服装も今朝までの豪奢なものと違い、シンプルで特に飾りもない無地のシャツにズボンといった出で立ちでラフだ。町人Aで通りそうだ。(モブで通すにはカッコ良すぎるけれども)それに黒縁眼鏡もかけている。



「これか。今日はクロスロードに行くからな。ちょっとした変装みたいなものだ。どうだ、雰囲気違うか?」 


「うん。シアちゃんがイリアの名前を呼ばなかったら誰かわからなかったよ。今朝までと違って髪色や目の色まで違うけど、どうしたの?」



 この短時間で染めたとでも言うのだろうか? そしてあの黒目はカラコンとか? でもファンタジー世界にそんな現代的なものがあるんだろうか?



「そこのリアムにやってもらったんだ。魔術でな」



 魔術、超便利! なんでもありなのかな?


 そんなことを真っ先に思いつつ周囲を見渡せば、イリアの後ろ――昨日私が召喚された場所ぐらいにリアムさんがいた。


 リアムさんの顔色は今日も悪かった。シアちゃんは元々だって言っていたから、青白く気分が悪そうに見える状態が彼のデフォルトなのかもしれない。



「おはようございます」



 この世界に来てから会った人の中で唯一コミュニケーションを取っていないなと思った私はリアムさんに向かってとりあえず挨拶してみる。



「……」



 しかしリアムさんは何の反応も示さなかった。



 無視された……?



 いや、まだどういう人かよくわからないし、寡黙なキャラの可能性もワンチャンある。



「リアム、準備はできたか?」


「はい。いつでも発動させれます」



 イリアの問い掛けにはすぐに答えるリアムさん。私の声量も同じぐらいだったんだけど……。



「優愛」


「何?」


「お前に俺から贈り物を一つ。手首に嵌めておいてくれないか?」



 名前を呼ばれ突然イリアから手渡されたのは細い銀色の金属製の蔦が絡まったようなデザインのブレスレット。



「突然なんで?」


「リアムがな、俺達を上手く移動させるために必要なんだ。このブレスレットはマジックアイテムの一種なんだが、これを嵌めておくとリアムが魔術を行使する際のその行使する対象の目印になるわけだ。なくても可能なんだが、魔術を行使する対象を定義するのが手間だったり難しかったりするから、あった方が良いのさ。ちなみに俺とお揃いだ」



 イリアは左手を掲げながら服の袖を少しだけ下げ、私にその手首を見せる。彼の手首には確かに私が今手渡されたものと同じデザインのブレスレットが嵌められていた。


 ペアリングならぬペアブレスレットというやつか。


 なんかちょっと意識しちゃうなと思いつつ私もイリアと同じように自分の左手首に渡されたブレスレットを嵌めた。



「私にぴったりのサイズになった……!?」



 手に通して嵌めるタイプのブレスレットだったので、腕に嵌めるとサイズは緩かったのに、嵌めた瞬間、私の手首ぴったりにフィットするかのように縮んだ。



 ファンタジー世界のブレスレットは嵌めるとその人にあったサイズに自動調整されるようにできているものなの!?



「それはリアム特製だからな。身につけた人間の腕のサイズに合うようにできているんだ。すごいだろう」


「うん!」



 私は感動のあまり勢いよく頷く。これはすごい。というかやっぱりファンタジー世界でも普通のブレスレットはやっぱり身につけた人にぴったりのサイズに自動調整されたりはしないよね。このブレスレットみたいなのが常識! って世界だったら、ちょっとビビっていたかもしれない。



 というかリアムさん特製って彼が作ったのか!? リアムさんって色々と有能……。無視されたけど!



 それにしてもこのブレスレット、デザインとか良いけれど、折角身につけても制服のシャツの袖で隠れちゃうから見た目はそんなに変わらないな。



「さあ、優愛。こっちへ来い。クロスロードに向かうぞ」



 リアムさんの近くに歩みを進めながらイリアが手招く。だから私はそんな彼の後をついていき、最終的にはその隣に立つ。



「リアム。この辺りで大丈夫か?」


「はい。転送を開始してもよろしいですか?」


「ああ、頼む」



 リアムさんの問いにイリアは頷く。


 ついに、クロスロードに向かうのか。しかも魔法陣で。



 どんな感じなんだろう?



 なんだか好奇心と緊張で胸がドキドキしてきた。


 リアムさんが私にはよくわからない言葉を発しながら、髑髏の付いた長い杖を振り上げ、地面へと突き降ろす。すると、私とイリアが立っているところを中心に大きな円形の、幾何学的な図形や、特殊な形をしていてどう発音すれば良いのかすらわからない文字が描かれた魔法陣が、白い光を発しながら出現した。



「シア、城のことは頼んだぞ」



 イリアが魔法陣の光に囲まれた私達を寂しげというよりもどこか悲しげに見つめていたシアちゃんに声を掛ける。



「あっ、はい。お任せ下さい!」



 シアちゃんは目を大きく見開きながら弾かれたかのようにイリアを見つめ、それから元気よく頷いた。


 そうこうしている間にもリアムさんは呪文? だと思われる、私にはよくわからない言葉を唱え続ける。それに伴い、魔法陣の放つ光もどんどん強くなる。



 眩しい。



 その光の強さに耐えられず、私は思わず目をつぶってしまう。それでも、目を閉じたまま太陽を見上げているかのようにまぶた越しに光を感じたけど。



「優愛、着いたぞ。もう目を開けても大丈夫だ」



 イリアにそう言われて私は恐る恐るまぶたを持ち上げる。



「本当に移動した……」



 目に飛び込んできた景色に私は思わず感嘆の声を漏らす。

 そこは広場のような場所だった。すぐ近くに噴水もある。そして噴水の両脇には階段があり、そこから上っていく人々の姿も見えた。他にも広場には簡易的な屋台の露店がいくつも立ち並んでいた。あとここは少し高いところみたいで、噴水と逆側を向けば、レンガ造りの家々が見下ろせた。



「ここが、クロスロード……?」


「ああ。ここはクロスロードの下層と中層の境目にあたる中央広場さ」


「下層、中層って、場所による良し悪しとかがあったりするの?」



 イリアの発言に引っかかりを覚えた私は尋ねる。



「そうだな。主に住んでいる者の層が違うな。大体、中心部のクロストリア城に近づく程、王族や貴族とか身分の高い者やお金持ちが住んでいて、逆に城壁に行く程貧しい者やならず者が多くいる。場所によってやや違ってきたりもするが、基本的に国の中心にあるクロストリア城に近づく程上層で、城壁のある国の外側に行く程下層になると思ってくれれば良い。治安も中・上層はそこそこ良いが、下層は悪いからな。優愛みたいな女の子は近づかない方が良いぞ。場所によっては王都といえど、スラム街のようになっていたりもするしな」



 そう言ってイリアはクロストリアのことを説明してくれた。


 下層は女子が近づかない方が良いって、ガチでヤバい人達がいるってことか。女子がふらふらと出歩けないくらい。九割の国を統括している大国の都市がこの有様ということは、ファンタジー世界は現代日本よりも危険でいっぱいだ。



「さて、どこに行こうか? 何が欲しい?」


「えっと……」



 イリアにそう問われ、私は答えに窮する。モンスターとかと戦う勇者になるためには武器とかが必要だろうし、というか私の服装、高校の制服でファンタジー世界では浮いているから、この世界の服も必要だろうし、王道RPGの流れを考慮するならば旅に出ないといけないだろうから、旅人としての装備もいるだろうし、手に入れなければならなさそうな物が多くて混乱してきた。



「歩きながら考えるか?」


「……うん。あと少しずつ言っていく形でも良い? 何が必要か一気に全部は言えないかもしれない」


「一度に言われても俺としても叶えてやれないからな。少しずつで構わない。とりあえずそこの階段から上の中層に行こう」


「うん。ありがとう」



 こちらのペースに合わせてくれるイリアに礼を告げ、私は彼と共に歩き出した。

 











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