1 政務官まいきー・みざにん
魔物による襲撃のあったあの日から二日が過ぎた。
私、友浦は国王として復興計画会議や負傷した国民の見舞いに追われていた。
(よし。午後からは防衛に関する会議だったな)
私はいつも、理想を掲げて大枠を自分で決めたら、あとは政務官まいきー・みざにんにひと月、一週間、一日の予定を立ててもらい、それに沿って行動している。自分自身に対し、朝令暮改にならないようにするため。目の前のちょっとしたことに瞬時に気を取られて何度も失敗してきた私なりの処世術だ。
私は手早くお茶を済ませると、みざにん政務官が次の案内に来るのを待っていた。勝手に行動しない約束。私が生まれる前から王城に勤めている彼は、いつも私の繊細な要求まで汲み取って、予定を立ててくれている。時に、私が大風呂敷を広げがちな時は現実的な落としどころを用意してくれるし、ストッパーにもなってくれる。
――それにしても、廊下が騒がしい。メイドが食器をひっくり返して割る音と、「あ、ごめんなさい!! すみません急ぎます!」と焦る早口の声が聞こえる。だがこの声はみざにん政務官だ。
(来たか政務官……だが、何を慌てている……?)
嫌な予感がする。そんな風に騒ぎ立てる役割は私にはあっても、おまえにはないはずなのに。
「大変です!! 陛下!!!」
みざにん政務官は息を切らして、ノックも忘れて駆け込んできた。何かとんでもないことが起きたに違いなかった。
悲しいが、思いつくことは一つだ。
「敵襲か?」
しかしみざにん政務官は首を横に振った。
「いいえ、林村王国より、お客様です!」
「何!? 林村王国……!?」
予想とは違ったものの、私も驚きを禁じ得ない。
林村王国と言えば、世界でも有数の大国。
敵ではないが、友浦王国が友好な関係を築きたい相手として手厚く迎え入れるべき客人だ。
「はい。黄金のかぼちゃ馬車がこちらに向かっています。どうやら、聖女まどか姫が神官あきら様を連れてこちらに向かっていらっしゃるようです」
よく見れば、聡い彼の顔には、役目を全うしようとする武者震いが見て取れた。