5 国王に親しき者は、いない
……そうか。
城の外に出られた、私だけが生き残った、のか。
私を幼少時から知る城の者たちは、もう、いないのだな。
我が騎士岡田も、猫侍も、政務官まいきーも、フットマンのタクも、幼馴染たじーも……。
私は日が沈み、夜の帳がおりてもその場に留まり続けた。あんぽんたんもじっと動かず傍にいた。
王はそもそも孤独なのだ。誰に対しても平等でいなければならない。ということはすなわち、誰とも親しくなってはならないということだ。好き嫌いで人をより分けることに繋がるから。
だから、私は何も変わらない。これまでも、この先も。ただただ、この国の王で在り続けるしか――。
あんぽんたんの無言が移ったように押し黙る私の後ろの方から――よく知る声が聞こえた気がした。
「陛下、やっと見つけましたよ。ずっと城を探してたんですからね。いったいどんな抜け道を使ったんです?」
岡田の声だ。
まさか。
空耳でないことを祈りながら、振り返る。
そこには、洒落た騎士衣装に月明かりがよく似合う岡田の姿があった。
幻じゃない。
岡田は長めの前髪を神経質そうに整えながら、私にゆっくり微笑んでみせた。
「岡田!!」
私はもう、その細身に思いっきり抱き着いた。
尻もちをつかせてやろうとも思ったが、どこかに怪我をしているかもしれないと踏みとどまる。
「氷の魔法で、凍ったんじゃ……? それに、生きて、いたのか? 無事なのか?」
私を力いっぱい受け止めた岡田は秀麗な眉尻を困ったように下げて答えた。
「はい。私は魔法も、嗜む程度には使えます。申し上げていなかったですか?」
「魔法……!? し、知らなかったぞそんなこと!」
岡田が操るのは、どうやら美と剣だけではなかったらしい。当たり前のように言っているが、高名な魔術師であろうあんぽんたんまで声もなく驚いているのを見ると、岡田が特殊なのは疑いようもない。
「そもそも魔物と戦うには、剣に魔力を込めないといけません」
「えっ」と私は冷や汗を垂らす。
私は普通に剣で戦いを挑んでいたぞ……。
「それにしても、城ごと一気に凍らせられるなんて、さすがは、かの有名な魔術師あんぽんたん様。ですが……私の魔法シールドが、なんとか間に合ってよかったです」
我が国きっての有力貴族でもある岡田の苦々しい笑みと眼差しを受け、魔術師あんぽんたんは逃げるようにスっと姿を消した。
「よいのに。結果、こうして皆が助けられたのだから」
彼のいた空間を見ながら私はつぶやく。
「きっと恥ずかしがり屋さんなのでしょうね」
と、にっこり進み出たのは――