4 謎の男あんぽんたん
「そなたは、誰だ……?」
私が当然の疑問を投げかけるも、返事がない。代わりに男は立ち上がりざま、後方から勢いよく吹っ飛んできたゴブリンを掌から出した氷柱で貫いた。
そしてもう戦闘モードに入ったように何も言わず、淡々と、次々と、辺り一面の敵を順に凍らせていく。
味方……なのか?
顔もよく見せず、名も名乗らないが、少なくとも、私は彼によって守られているようだ。
彼が呪文詠唱の中で、自身をあんぽんたんと名乗っているのを私は聞き逃さなかった。妙な名だと思ったが、詠唱に使うのだから本名だろう。いや、偽名だろうとなんだろうと、私は感謝を込めてその名を呼んだ。
「ありがとう、あんぽんたん……礼を言う」
聞こえているのかいないのか、彼は無言のまま魔物を殺戮していく。
燃え広がっていく炎に抵抗するように氷柱は増え続け、ついに庭にいる全ての魔物を固まらせた。
そしてあんぽんたんは、そびえ立つ友浦城を振り向くと、そこにしがみつくようによじ登っていた魔物ごと、城全体に氷の魔法をかけた。
あたりは完全に静まりかえり、冷え冷えとした空気が漂うばかり。
氷漬けになった友浦城は、夕日を反射して、きらきらとただ美しく光っていた。
力技の幕引き。
その圧倒的な力に見蕩れてしまうほど。
しかし引き換えに、城中にいた全ての者が凍ってしまっただろう。それも文句は言えなかった。
こうでもしなければ、被害はどんどん拡大していたに違いない。
たまたま、一番に我が城が狙われた。
だから、城ごと犠牲にして、最小の被害で食い止めた。私情は挟むまい。私は、国王だ。国を守らなければならない使命があるから。
しかし、
「一部だけ融かして戻すことは、できぬのか……?」
私は魔術師に問いかける。私情を置いても、国民は国民だ。救えるものなら、何としてでも救いたい。
答えは返ってはこない。
それはあんぽんたんが無口で何も語らないからだろうか。
大丈夫、元に戻すやり方はきっとある。
必死に思おうとした。
しかし、私が城から顔を戻した先、彼は指でバツの字を作っていた。