3 ごみ野郎
「やめろ!!!」
私は騎士岡田との誓いも忘れ、声を上げた。
もうたくさんだ、やめてくれ。
ここをどこだと思っている。
私の国だ! 私の城だ!
腰にさげた剣を抜きながら、八つ当たり混じりに大声を上げ、地を蹴りつけた。
目の前の小鬼三匹くらい、この手で斬り伏せてやる!
小鬼達は大きな目玉をギョロつかせ、私に注目しはしゃぎだした。
その時、ドスンドスンと地響きがした。背後、頭上から何か巨大な物が降りてきた。
城を覆うように外から登っていたオークだ――それも一体ではない。三、四、五……その身を支えていた筋骨隆々の腕を振り上げてこちらへにじり寄ってくる。
さらに、騒ぎを聞き付けて、身の毛もよだつような一つ目サイクロプスまでぬらりと来た。
囲まれた。
今更になって私は慌てた。頭の中を血が駆け巡る。私は、王として、こんなところで死ぬわけにはいかない。
だが、万事休す。
私は馬鹿だ。ごみ野郎だ。
岡田が身を挺して守ったこの命を、一国の主たるこの立場を、一時の感情に身を任せ危険に晒している。
しかし後悔してももう遅かった。私は幼馴染であるたじーと数回やったチャンバラごっこを思い出しながら、震える手で剣を構えた。
右にも左にも、ゴブリン、オーク、サイクロプス、大小様々な魔物がうようよ集まりつつある。小鬼は今にも私に飛びかかろうとしてみせながら、少しずつ距離を詰めては楽しげに笑みを浮かべている。
もう悔しさよりも恐怖が勝る。
果たして私は、この中の一匹でも倒せるのだろうか?
居合を失うにつれ、自信と余裕までなくなっていく。敵との不自然な至近距離に、私は踵を上げる。
そんなことをしても体幹を崩すだけだと、城の猫であり武士でもある、かの猫侍には叱責されるだろう。
その時、どこからかヒヤッと冷たい風が流れてきた。炎の熱気に晒され続け熱くなった肌に、その冷気は夢のように心地よい。ああこれは、幻覚か?
だがしかし、異変はそれだけではなかった。静かだ。あまりにも静かな上、先程までのチカチカするような視覚情報がない。時が止まったように、敵が固まっている。何が起きた!?
足元を見ると、そこには青く光る魔法陣の円が広がり、冷気が漏れ出ている。はっとして再び敵を見た。
時が止まったのではない。やつらは凍っていた。氷漬けだ。
その間を縫って、ゆらりゆらりと人影がこちらへと忍び寄ってくる。フードを目深に被り、彼は片膝をついて細身を折る。
「そなたは、誰だ……?」