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鋼の光   作者: イカ大王
第八章 火星決戦
52/57

Episode50 二巨接触

間が空きまくって本当に申し訳ないです!

離れてしまった読者様ま当然おられるでしょうが、クライマックスまでどうかお付き合いください!

 


 ◇


「発進準備!」


 オペレーターの声がこだまする。巨大クレーンや作業員用エレベーターが動き回り、それを黄色い回転灯が断続的に照らし出している。


 ここ、地下300メートルに位置している決戦兵器工廠は、その最後の役割を果たすべく、過去最大の稼働状態だった。

 黄色いヘルメットをかぶった作業員が右に左にと駆け回り、オペレーターや現場監督が怒号と化した指示を飛ばす。金属がこすれるような音やなんらかの機械の駆動音が絶えず鳴り響き、凄まじい喧騒感であった。

 そんな状況の中心にあるのが、全高250メートルを超える超巨大人型決戦兵器──”アーレスライト“である。


 ミサキとアイリスがエレベーターで降ってこの空間にたどり着いた時、決戦兵器工廠はまさにこの状況だった。


「カーライル!」


 アイリスはアーレスライト技術部門トップの名を叫んだ。その返答は「もう出せます!」だった。

 二人の技術士がミサキを手招きする。彼らの背後にはアーレスライトのコックピットへ繋がるエレベーターが口を開けていた。


 アイリスはミサキの背中をバシッと叩いた。ミサキはすこし前によろめいたものの、すぐに立て直して駆ける。


「急いでください。アスラはもう居留地に侵入しています!」


 カーライルの叫びの直後、頭上から衝撃波が襲いかかる。照明が点滅し、多くの人間が床に叩きつけられた。


 アイリスはアーレスライトを見上げた。

 今アイリスがいる指揮所はまさに足元にあるため、その巨体全てを見ることはできない。

 それでも、その勇姿はアイリスに感無量の感情を抱かせるのに十分だった。


「アーレスライト起動に必要な電力、100パーセントを確保!」

「各部チェック、問題なし!。システムオールグリーン」


 出撃の時は近い。




 ◇


 セントラル・ブロックを囲む六つの居留地は、そのほとんどが火星危険生命体群の手中にあった。

 火星総軍衛兵師団に所属している各兵団、要塞防備大隊は防衛戦において善戦したものの、幾千もの火危生の物量と、怪獣アスラの圧倒的な力の前に敗走を余儀なくされたのだ。


「民間人の避難が完了するまで、なんとしてでも鉄道線を防衛しろ!」


 そんな中、東方防衛第七混成兵団の兵団長を務めるオットー・ラングスドルフ少佐は、多脚戦車の車長席で必死に後衛戦闘の指揮をとっていた。


 状況は、アスラの攻撃開始を境に一変している。奴が姿をあらわしたことで、今までの人類に優勢だった防衛戦が嘘だったかのように瓦解したのだ。


 現在、第七兵団は予備隊として後置されていたマナハイム支隊と合流し、居留地からの避難路である鉄道線の防衛にあたっている。

 残り少ない多脚戦車やコイルキャノン搭載の装甲車両、歩兵が鉄道線の両脇を固め、近づく火危生に猛射を浴びせているが、人類の劣勢は火を見るより明らかだ。


「いつまで持つか……」


 激烈な銃砲声の中、ラングスドルフの心境は暗澹たるものだった。居留地から避難民を満載したモーターカーが兵団の援護のもとセントラルブロックへ急ぐ。だが、今この時も怪獣アスラは間近の居留地を荒らしまわっているのだ。距離は近く、いつ矛先がこちらに向くかわからない。


 その時は、間違いなく死ぬだろうと思っていた。


 新たな閃光と衝撃波がラングスドルフの五感を鈍らせる。アスラの熱線は、今この時も居留地を焼き続けているのだ。


「ガンシップより通信。アスラ、接近中、注意せよ、とのことです」


 まだ空を飛んでる機体がいるのか、とラングスドルフは驚いた。

 衛兵師団の虎の子であった空中機動艦隊は、アスラへの第三次攻撃で全滅している。投下された雨のような爆弾はアスラを数分間火ダルマにしたものの、機動力の乏しく、なおかつ巨大な航宙揚陸艇や戦術輸送艇が熱線を回避できるわけがなかったのだ。

 それに付随していた独立ガンシップ戦隊の機体たちも、空中艦隊と運命を共にしている。そうならなかった機体も、今や居留地上空を大量に跋扈している翼龍の餌食となってしまっていた。


 それでも、ほんの一握りのガンシップは未だに生き残り、上空から地上部隊へ貴重な情報を伝えてくれている。


 心の中でそんな彼らに感謝しつつ、ラングスドルフはアスラの映るモニターに視線を落とした。


 来る。


 アスラが進行方向をこちら───セントラル・ブロックの方に向けている。


「避難の状況は?」

「約90パーセント!」


 セントラル・ブロックに避難できたとしてもその後どうするのか、という疑問はあるものの、避難が進んでいることは喜ばしいことだった。

 だが、このままでは最後の避難列車とアスラが鉢合わせするかもしれない。


「残存兵力は……」


 ラングスドルフは別ウィンドウのモニターを見た。そこに映る兵団戦力残数は、多脚戦車11、装甲車両8、銃器や携帯火器装備の歩兵が56。

 マナハイム支隊は予備隊であっただけに第七兵団よりは損耗率は低くないだろうが、それでもこれの倍というのが妥当なところだろう。


 アスラを避難列車が通過する間くらいは足止めできるだろうか……。


「アスラ、接近してきます!」


 悲鳴染みた報告が鼓膜を震わせる。

 地の底から響いてくると思わせるアスラの足音、咆哮も近づいてくる。足音は大地を揺らして多脚戦車を突き上げさせ、咆哮は一帯の大気を鳴動させる。


「行きましょうよ。ラングスドルフさん」


 砲手のハルキが言う。操縦手のレイフもうなずく。


「……俺たちの火星での戦いも、ここで終わるのかもしれないな」


 ラングスドルフが静かに覚悟を決めた時、居留地の巨大な黒煙の中からアスラがその凶々しい姿を現した。

 新たな破壊を求める火星の巨獣は、一歩居留地外に足を踏み出し、大地を揺らす。多脚戦車が跳ね上がると同時に、何度目かわからない奴の咆哮が周囲にいる人間全員の内臓を突き上げた。


「"ワルキューレ1-1"より"タイガー1"。見えてるな?」


 その時、支隊長のマナハイム星将の呼びかけがあった。「何が?」とは聞かない。すぐに応答する。


「こちら"タイガー1。見えてます」


「避難列車があと一つ残っている。市民を満載した最後のやつだ。我々(支隊)はやるが……。やるか?」


「やります」


 その一言を境に、アスラの近くにいる唯一の有力な人類部隊は行動を開始した。


 歩兵部隊を鉄道線に残し、機甲部隊を前進させる。それはマナハイム支隊も同様で、アスラの右から第七兵団機甲部隊が、左から支隊機甲部隊がそれぞれ接近することになった。


「避難列車が発進しました!」


 オペレーターが報告する。モニターを見ると、確かにリニア・モーターカーのビーコンが移動を始めていた。

 半壊する居留地から脱出する列車を、アスラが目で追う。熱線を見舞う腹づもりのようだ。


「大気中の陽電子濃度が上昇。熱線射撃の公算大」


 アスラの顔前面に赤い光が収束してゆく。


「やばい!」


 第七兵団の多脚戦車は熱線発射を妨害すべく泡を食って発砲する。

 砲弾は音速を遥かに超えるスピードでアスラの側頭部に吸い込まれ、複数の爆炎を躍らせた。


 それによって射角がわずかにずれた。

 発射された熱線は鉄道線の右数メートルのところに着弾し、そこを守っていた歩兵中隊を蒸発させ、大地を縦深になぎ払う。


「避難列車への直撃回避!」


 オペレーターが歓喜の声を上げるが、状況は依然悪い。

 先の熱線で鉄道線が融解し、避難列車が停車を余儀なくされてしまったのだ。

 アスラは早くも第二射を放とうとしている。列車はいい的でしかない。


 第七兵団とマナハイム支隊は、持てる限りの火力をアスラにぶつけ、意識をこちらに向けようとするが、奴は意に返さない。

 火力をアスラに割り振ったことで、火危生の通常個体にやられる多脚戦車も出る始末だ。


「陽電子濃度、臨界点!」


 そんな悲鳴じみた報告を聞き、ラングスドルフは血が滲むと思われるほど拳を握りしめた。アスラは今にでも熱線を放つ。目標は女子供を満載した列車だ。


 その時だった。


 背後──セントラル・ブロックの方角から遠雷のような閃光が届き。次いで空間を一直線に貫く青いビームが飛来してきた。


「……!」


 ラングスドルフ車や赤い地面が青い光で浮かび上がる中、ビームは一瞬でアスラの左肩を貫通した。

 奴の激痛による咆哮が辺りを震わせた刹那、凄まじい爆炎が貫通箇所から湧き上がり、大量の肉片と体液が飛び散った。


「一体、なにが……?」


 ラングスドルフはアスラの左肩に空いた大穴を信じられない思いで見つめていた。


 青いビームは、あのアスラの強靭な体表装甲を貫き、そして背中まで突き破った。

 衛星戦艦「サウスフランクリン」の中性子砲亡き今、そんな火力は火星上に存在しないはずだが……。


 その時、通信が入る。若い女性の声だった。


〈アスラは私に任せて、あなた方は避難列車の救助を!〉


 その声には聞き覚えがあった。

 一流のマーズジャッカル パイロットでありながら、火星の現実に絶望した少女──霜村美沙希だ。


 しかし、今聞いた声に絶望の色は無い。


 ラングスドルフは部隊に避難列車に閉じ込められた避難民の救助を命じつつ、ビームが飛翔してきた方角が映し出されているモニターを見やった。


 それを見た部隊の隊員たちの間で、声にならないどよめきが広がった。


 その方向に見えたのは、まさに鋼の巨人だったのである。


「マジかよ。……都市伝説じゃなかったのか」


 操縦士のハリスが呆れた声で言った。


 巨人の肩に積載された長大な砲身は鈍い光を発し続けており、荷電粒子砲を放った直後であることを示している。

 そんな巨大な砲を支えているのは、高さ200メートルはあろうかと思われる鋼鉄の巨人だ。

 機体中を覆う金属が太陽の光を反射して鈍い光を発しており、強力に装甲化されていることが傍目からも伺える。

 装甲を張り巡らされた体表はオレンジ色や黒色で塗装され、機体は鍛え抜かれた長身男性のような形状をしている。胸は盛り上がり、二の腕は太く、脚はどんな高さからでも着地できそうなほど頑丈そうだ。

 人間の頭にあたる部分はサメの顔のように鋭く、精悍な見た目を周りに披露している。

 そこの二つの赤い『目』は、無機質ながら、アスラを正面に見据えていた。


 その迫力は周りの存在を全て圧倒し、正面に対峙する巨獣アスラにさえも引けを取らない。


「ミサキ君。復活したんだね」


 ラングスドルフは、すべてを悟り、喜びに震えた声で呟いた。


 地球から赴任してきた新人隊員であった四人の少女──スンシル、エヴァ、イネス、ミサキの末路は死亡、行方不明、廃人のいずれかだ。

 ここ一年で過酷さを増してきていた火星の戦場であるだけに、ラングスドルフは四人の運命も仕方のないものであると受け止めていた。火星の人口が今の今までで半減してしまったという事実がある以上、この考え方もなんら不自然ではない。


 だが、それを覆し、ミサキは廃人から復活した。


 それがどんなに喜ばしいことであったか。ラングスドルフは部下の一人であった少女の復活を、無言のまま、心の底から歓喜していた。


 ──『鋼鉄の巨人』から、まだ一射目の打撃から立ち直れていないアスラに対し、第二射が放たれる。

 砲口に閃光が走るや否や、青く細い粒子ビームが放たれ、それは刹那のうちにアスラに到達した。


 アスラの苦悶に喘ぐ絶叫が、周辺の大気を震わせる。

 青いスパークがきらきらと輝き、それと同時に、粉々になったアスラの体組織や肉片が八方に飛び散った。

 アスラは体高300メートル近い肉体を仰け反らせ、足をつき、転倒を辛うじて免れる。

 そして、自身に凄まじい傷を負わせた巨人を睨みつけた。


 手負いの巨獣と、決意を固めた少女の巨人が、居留地の内部で対峙している。


 今、この時、人類の切り札たる人型決戦兵器"アーレスライト"と、史上最大最恐の人類の敵である神獣"アスラ"が、初めて接触したのであった。





  Episode50 『二巨接触』

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