Episode46 巨艇空撃
◇
空中機動艦隊は航宙揚陸艇が三隻、戦術輸送艇が八隻の計十一隻にて構成されている。
いずれも、人員や車輌、物資の輸送を主目的とした重力圏内外両用の大型、中型宇宙船であり、武装も少なく、レールガン砲塔が上下に一基ずつ付いている程度だった。
だが、今回の戦いに際して、火星総軍が衛星戦艦に代わる支援火力を必要としたことにより、これら飛行輸送船にはさらなる武装化が施された。
航宙揚陸艇は330ミリ電磁軌条加速砲塔が底部に二基追加され、戦術輸送艇は随所に有人銃座が増設された。
何よりも瞠目すべきは、鉱脈掘削用の発破爆薬を急造の航空爆弾に仕立て上げ、大量に搭載したことである。
ミサイルなどの飛翔兵器ではなく、『爆弾』であるため、目標の上空まで到達しなければならないという欠点はあるが、火星総軍は火危生を一網打尽にできる兵器を衛星戦艦喪失以来久々に手に入れたことになる。
これの存在が、火星総軍を先制攻撃に踏み切らせる要因の一つでもあった。
───そんな即席の『爆撃機』となった宇宙船達は、戦列を組み、居留地を包囲する無数の火危生に痛烈な一撃を加えるべく、進撃を続けている。
セントラル・ブロックの離発着ポートから一斉に飛び立った空中機動艦隊の艦艇たちは、独立ガンシップ戦隊の機体にエスコートされつつ、居留地南東の火危生群に向かう。
蠢く無数の火危生の上空には、やはり無数の大型翼龍が舞っている。
長年に渡って火星人類の主力機を務めてきたプロップ・ローター式汎用ヘリコプター───正式名称AM−99c"レッドスコーピオン"。
その生き残りの全てを有する独立ガンシップ戦隊は、爆撃隊の道を切り開くべく、飛行翼龍群の排除に取り掛かった。
レッドスコーピオンは胴体を交換することにより、戦闘機にも輸送機にも偵察機にもなることができる多用途機である。
今回は戦闘機仕様の胴体が不足していたため、機体数42のうち、12機が輸送機仕様のままの戦闘を余儀なくされていた。
そのため、ミサイルやバルガン砲を装備したガンシップ30機が敵に切り込み、ドアガンしか装備していない輸送機仕様は艦隊の近くに展開してガンシップが取り逃した個体を迎え撃つよう役割分担がされていた。
制空を担当するガンシップは火星の空を縦横に駆け回り、翼龍を次々と撃墜してゆく。バルガンの一連射に蜂の巣にされる翼龍もいれば、ミサイルで粉砕される翼龍もいる。
だが、ガンシップ隊も無傷では済まない。地上の陽電磁砲装備個体から放たれるビームに射抜かれ、胴体を分断されたり、片翼を吹っ飛ばされたりする。
ガンシップ隊はそんな新たな脅威を排除するべく、地上付近にまで舞い降り、ミサイルの弾幕で陽電磁砲個体を叩いた。
そんな熾烈な空戦が繰り広げる中、空中機動艦隊は火危生南東大集団の上空に達しつつある。
この段階までくると艦隊は空中にいる翼龍群の只中に飛び込む格好となるため、制空隊のみでは翼龍を阻止できない。
当然、無数の飛行翼龍が殺到し、護衛機や航宙揚陸艇の銃火にものともせず、それらに取り付いた。
コックピットの窓ガラスを打ち破られ、パイロットを捕食されたり、ドアガンの射手を食い散らかされる護衛機が続出し、そんな制御を失った機体は爆発して粉々になったり、きりもみ状態で地上に叩きつけられたり、僚機同士で激突したりした。
揚陸艇や輸送艇の露天有人銃座も似たりよったりの惨状だったが、翼龍の肉弾攻撃程度で巨大な船体はびくともしない。
艦隊は、居留地を包囲しているリング状の火危生集団に沿うような針路を取った。このまま爆弾を投下しつつ居留地をぐるりと一周し、火危生を可能な限り殲滅するのだ。
「全艇、爆撃予定エリアに投下開始」
「了解。熱圧力弾頭、順次ドロップ・オフ」
司令官の号令を境に、十一隻の爆装宇宙船は爆撃を開始した。中型である戦術輸送艇でさえ200トンの重量を運搬でき、航宙揚陸艇は650トンを誇る。その搬送力を生かし、各艇には可能な限りの航空爆弾が積載されていた。
その第一段が底部の格納ハッチから放り出される。熱圧力弾頭を内蔵した航空爆弾は、空中でばらけ、薄い大気を引き裂きながら地表に降り注いだ。
◇
艦隊の爆撃する様子は南東殻防衛線からもよく見えた。
飛び交う翼龍や地上からの陽電磁ビームを艦隊は突破し、宇宙船の底部から黒っぽいものが切り離される。それらは空中でばらけ、自由落下で地表に突き刺さった。その瞬間、視界の左から右にかけて膨大な数の火柱が林立し、ズンと響く衝撃波がラングスドルフの胸を叩いた。
「ド派手にいったね」
多脚戦車の車体がピリピリと震え、一斉に舞った砂埃の影響で火危生の姿が見えなくなる。轟々とした地鳴りは収まらず、空気を鳴動させた。
「正面の火危生、総数の6割を喪失した模様」
「"タイガー1"より第七兵団全機。火危生の逆襲に備えよ。統制射撃戦、用意」
ラングスドルフの指示で、多脚戦車が一斉に爆煙へと照準を定めた。重機関銃陣地や塹壕に身を潜める兵士たちも、緊張した面持ちのまま、手持ちの火器を敵の方向へ向けた。
「自動迎撃火器システム、オールグリーン。稼働率100%。射程に入り次第、自動射撃開始」
電子音声が防衛線に設けられた自律兵器群の状況を報告した時、轟々たる音は火危生の咆哮に変わっていた。
直後、砂煙の中から現れ、こちらに向かってくる火危生の大群が守備隊全員の視界に映った。
「奴ら、アスラと合同で当たる案を捨てたな」
「先鋒集団との距離、約1500メートル」
ラングスドルフは多脚戦車の左右を見渡した。多脚戦車も、装甲ローバーも、兵士一人ひとりに至るまでが火危生集団に意識を向けている。
後ろ──居留地に意識を向けている者はいない。全員が引かぬ姿勢を見せていた。
「"タイガー1"より総員。我が第七兵団へ届いている命令はただ一つ。死守せよ、だ。我々の背後には数えきれぬほどの人間がいる。諸君の親や子たちだ」
ラングスドルフはここで言葉を切った。やや間を開け、続けた。
「一歩も引くな!……そして死ぬな!以上」
最後の戦いが始まった。




