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鋼の光   作者: イカ大王
第六章 希望を求めて
40/57

Episode38 脅威接近

火星総軍階級表(火星開拓局から変更なし)


星将長

星将

一等星佐

二等星佐

三等星佐

一等星尉

二等星尉

三等星尉

上等星准尉

星准尉

飛行曹長

飛行士曹

飛行士長

一等飛行士

二等飛行士

三等飛行士

四等飛行士

 

 ◇


 アイリスがミサキの病室に通い始めて一週間が経つ頃、火星総軍に所属する集成第一砲兵旅団は、集成第二騎兵旅団と共に、予想されるアスラの進撃路上に展開していた。


 第一砲兵旅団は生き残っている多脚戦車の大半を集中運用している部隊であり、所属する多脚砲兵連隊は二つを数える(戦車、装甲車など二百輌)。巷でこの部隊が『火星機甲旅団』と呼ばれている由縁だ。

 しかし、他の部隊と同様、機甲戦力しか有していない、というわけではない。

 二個砲兵連隊の他にも、歩兵である機械化警備大隊や、補給大隊、通信大隊、その他後方支援部隊が付随している。

 第113偵察飛行隊も、そんな付随部隊の一つだ。


「“ルーク113-CP”より“ビショップ08”」


 通信インカムに連絡が入る。

 "ピショップ08"こと、113飛行隊8番機の機長を務める星准尉は、返信スイッチをオンにした。

 空気を小刻みに振動させるローター音に阻害されないよう、通信はバイザー付きのヘッドセットにて行う仕組みになっている。彼は顔側面から正面に伸びるマイクの角度を調整し、声を吹き込んだ。


「こちら"ピショップ08"。感度良好。電波通信、問題なし」


 緊迫した声が返ってくる。


「地中探査装置が振動波を検知した。波長は"アスラ"と推定。探知方位はG-45-TK8。貴官らの索敵範囲だ」


 星准尉は目尻を震わせ、隣にいた副機長は息を呑んだ。


「来たか」


 第113偵察飛行隊は、プロップ・ローター式の回転翼機15機にて編成されており、現在は、迎撃態勢に入っている集成第一砲兵旅団の指揮下で偵察を担当している。

 衛星戦艦『サウス・フランクリン』の撃沈は大気圏外空間に致命的なほどの宇宙ゴミ(スペースデブリ)を飛散させる結果となり、多くの小型観測衛星がそれらの衝突によって破壊されてしまった。

 つまり、〈タルタロス〉作戦以前に構築されていた火星全土をカバーする索敵(さくてき)体制が、スペースデブリの大群によって崩壊してしまったことを意味する。

 現在はその状況を打開するべく、デブリ回収機を搭載した航宙揚陸艇が回収作業にあたっていると共に、生き残っている観測衛星の高度を上げ、退避させているらしいが、使用可能な揚陸艇が3隻しかいない現状では、デブリの一掃は難しいし、観測衛星の数も両手で数えられるほどしか残ってないと聞く。

 よって、本拠地防衛の観点から、回収作業は居留地上空に集中せざるおえないだろうし、残存観測衛星も居留地周辺に集中投入して数の不利を補うだろう。


「諸君らが、我が火星機甲旅団の唯一の目となる」


 星准尉は出撃前の飛行隊長の訓示を思い出した。


(あれは、あながち間違いではないのか)


 つまるところ、"ピショップ08"はアスラの偵察を観測衛星の分までこなさなければならない。

 アスラの偵察の手段が回転翼機による直接観測しかない以上、仕方がないことではあるが、回転翼機1機には荷が重いと言えた。


「完全に貧乏くじ、ですね。まさに」


 副機長がぼやいた。細身の若い男だ。

 星准尉には同意しかない。現在、第113偵察飛行隊は11機の回転翼機を索敵に出しており、これ以外にも、ガンシップを主力としている集成第二騎兵旅団も偵察飛行隊を出している。

 その無数にいる機体の中で、どうして自分の機体なのか……と彼は思っているらしかった。


「仕方あるまい。"誰かがやるしかない"なんて高説(こうせつ)垂れる訳ではないが、絶対に必要なことだからな」

「あの作戦を生き残ったのに、悪運、ここで尽きれり、ですか。救いがありませんな」

「あれを生き残ったのが救いさ」


 星准尉は小さく笑い、操縦桿を左に倒した。

 機体が傾き、機首が左に滑る。眼下に広がる火星の大地が右に流れた。


「"ピショップ08"了解。これよりアスラ偵察任務に入る」

「"CP"より"08"。幸運を」


 無数の撮影装置を抱いた偵察機仕様の回転翼機は、翼端のプロペラエンジンを水平にまで倒し、加速した。機体が振動し、風切り音がにわかに増した。

 同時に操縦桿をゆっくりと奥に倒し、高度を下げた。地面がみるみるうちにせり上がってくる。

 "アスラ発見"はすぐだった。


「前方、距離10.5キロメートル地点に動体反応。動体物の進路はYM-11-TK5」


 コックピットの後ろに座ったオペレーターがモニターを見ながら報告した。


「続報。音波探査による反射波、大。"アスラ"の可能性が高い」

「見えました。肉眼で確認」


 副機長が正面に目を凝らし、言った。

 回転翼機は地表すれすれを維持したままアスラへと向かう。

 地表は凹凸が激しく、巨大な崖や谷、岩塊がいくつも存在する。

 星准尉は操縦桿を微調整し、それらの地形の間を縫ってアスラへと近づいた。

 星准尉は自らの額に汗が滲んでいることに気づいた。心拍数が上がり、息も荒くなっている。


 アスラの熱線攻撃は脅威だ。


 それから自らを守るためには、アスラに見つからないようにしながら近くしか方法はない。

 いかにアスラと言えども、見えない敵に熱線砲は使えないはずだからだ。


 さて、そうだろうか?

 という思いが星准尉にはある。


 現在、回転翼機は谷底を飛行している。プロペラが地面や岸壁に触れそうな、超低空飛行だ。

 こちらからアスラの姿は、壁が邪魔で見えない。ということは、こちらもアスラから見えない、はずだ。


 だが、アスラは体高277メートルの化け物であり、その視界の高さならば、10キロ以上離れた回転翼機を発見できたかもしれない。

 それに、アスラが他の火星危険生命体と同じように、単に視覚、聴覚のみで外敵を探知しているとは限らない。

 人類が解明していないだけで、「第六感」というべきもので周辺に注意を払っているかもしれないのだ。


 星准尉は操縦に神経を使いつつ、操縦桿の脇に位置しているホログラムモニターを見た。

 そこには先程発見したアスラの位置を示すマーカーが、ここら一帯の地形図の上に記されている。

 無機質なマーカーだが、言い知れぬ不気味さを感じさせた。


「金属検知機構に反応なし。陽電子検知機構も同様」

「アスラまで5キロ」

「撮影準備」


 星准尉はおもむろに命じた。


 回転翼機の胴体には、対地索敵レーダーや撮影用光学照準器などが搭載されている。

 谷から短時間顔を出し、撮影し、すぐに引っ込む。

 これを繰り返すことで、リスクを最小限に抑えるよう、出撃前に皆で取り決めてあった。


「撮影準備、了解」


 地表よりも低い谷底を飛行しつつ、機内で作業が始まった。

 オペレーターがキーボードを操作し、胴体内に収納されていた撮影機材を展開する。


「準備完了」


 星准尉は唇を舐めた。ゆっくりと操縦桿を手前に引き、機首が緩やかな角度で上昇させた。


「現在の高度、マイナス25メートル。撮影高度の10メートルまで残り15秒」


 副機長が高度計を読み上げ始めた。

 高度が上がるにつれて、星准尉の拍動は高まる。


「マイナス20メートル……マイナス10メートル……0メートル」


 機内にけたたましいブザー音が轟いたのはその時だった。

 機内全員に衝撃が走る。

 ブザーは、大気中の陽電子濃度が急上昇した際に鳴るシステムになっている。

 陽電子の濃度が上昇する理由は一つしかない。

 火危生が陽電子熱線砲を放つ時だ。


 回転翼機は谷から飛び出した。視界が広がり、右前方で大山のように立ち尽くすアスラの姿が全員の目を射た。

 アスラは予想よりも大分近くにいた。顔は地表を──回転翼機を見下ろしている。


 星准尉は呻き声を漏らした。

 副機長は声にならない叫びを上げ、オペレーターは絶叫した。


 回避の暇はなかった。

 アスラは、まるでそこから飛び出してくるのわかっていたかのような正確さで熱線を放ち、赤白い光芒が回転翼機を貫いた。

 機体はコックピットを焼き尽くされ、右主翼を溶解させられる。星准尉たちは苦痛すら感じなかった。

 パイロットを失った回転翼機は大きく機体を右に傾かせ、谷の岸壁に突っ込む。爆炎を上げ、粉々に砕け散った。


 残骸は燃え上がり、一筋の黒煙が上がる。


 これが、後に『火星最終決戦ディサイス・バトル・オブ・マーズ』と呼ばれる戦い、その最初の犠牲になることを、星准尉たちには知る由もなかった。

居留地を目指すアスラ。

それを阻止せんとする火星総軍二個旅団。

一方、居留地でも精神疾患を持つミサキに進展が…

彼女がパイロットに選ばれている対アスラ決戦兵器とは?


次回以降も楽しみにしていてください!感想待ってます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] タルタロス作戦の損害が思った以上に深刻な影響をもたらしてますね アスラに知性があるのはわかっているけどそこまで出来るのか……(唖然) 星准尉ぃ!!! [一言] さてさて二個旅団はアスラの…
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