18
オーガがあらわれた。
ゲームならそんな感じか?そんなことを思うユキト。
余計な思考している間に、オーガは谷を降り川を渡り始めた。
「スリープクラウド」
白い雲がオーガを包む。だが、オーガは何事も無いかの様に向かってくる。
「生意気にもレジストしたのか!
サンダースピア6連」
雷の槍が現れては打ち出されること6回。谷を上り始めたオーガに、6本の槍が次々に突き刺さる。全て刺さると、オーガは転がり落ちた。
「やったか?」
「フラグっぽく言ったけど、起き上がることはないよー」
「そうか…。それにしても、眠りの雲を抵抗されるとは思わなかったな。見るからに脳筋なんだけど」
「魔法との相性があるしねー。後は雲系は毒扱いになるから、生命力が係わってくるのよー。ユキトくんのステータスなら、体力の数値になるかなー。」
「体力か。確かに有り余ってそうだよな。
ちと、オーガを回収してくるから待っててくれ」
転ばないように注意しながら、谷を降りてオーガをしまうと、飛行の魔法でティア逹の所に戻る。
「このまま進むと、あの山にぶち当たるんだよな。そこに山があるからって、上りたくなるような登山家じゃないし、迂回するか」
そう言うと、川の上流方向へ歩き出す。
しばらく歩くが、獲物が見つからない。
「川の近くは、魔物が少ないのか?」
ティアに聞くと、そんなこと無い。偶々だよー、と答えた。
だが、更に進んでも魔物の気配がない。日が傾いてきたので、狩りを終了しシロ達を帰還させると、街へ帰った。
ギルドの買い取りカウンターへ行き、親父さんに蟻は今日で終わることを伝え、蟻を床に並べていく。
「やっと終わりか。さすがに疲れたわい」
親父さんは少しほっとした感じだ。最後にクイーンアントを出すと腰下の部分が無いのを指摘された。
「斬らずに持ってきた方が良かったですか?」
「いや、ゴミになるから要らないが、お前さんの事だから、そのまま出てくるのかと思っただけだ」
親父さんは笑いながら言うと、馴れた手付きでクイーンアントから魔石を取り出した。
カウンターに戻ると、親父さんにカードとゴブリンの魔石19個も渡す。
「クイーンアントは、素材的にキラーアントと変わらないが、魔石が良いから5000Fだ。キラーアントが26体で78000F。ゴブリンの魔石19個で19000F。合計102000Fだな」
頷き、金貨1枚と銀貨2枚を受け取り、礼を言ってギルドを出た。
ダンクの宿に行くと部屋を取り、いつも通りに酒と食事を頼む。
今日のメニューは、ラージピッグのガーリック炒め。エールによく合う。
「ユキトくん、狩った獲物が残っているけど、売らないの?」
「蟻を大量持ち込みして、大変そうだったからな。少しずつ出していくつもりだよ。それから、明日は休みにするぞ。しばらく休んでなかったからな。まあ、半休はあったけど。」
「休みかー。明日の予定は決まっているの?」
「特に考えてないな」
「なら、朝から呑んじゃおーよ!」
「なんですと?」
「冒険者が、朝から酒浸りなのは、ユキトくんの世界の物語にはなかったの?」
「あぁ、そんな描写を見かけたけどな…
ってか、ティアが呑みたいだけだろ」
「もちろん、飲みたいさー」
笑顔で、ダメなことを言い切った。
「潔いな…。
まあ、朝から立呑屋に行って、呑んだことのある俺が言うのもなんだが」
しばし考える。
「そうだな。明日は呑んだくれ日にするか」
「やったー」
嬉しいのか、ティアがクルクルと回っている。
「とりあえず落ち着け。静かに食べろ」
ユキトが注意すると、ティアは何もなかったかの様にワインを飲み始めた。
シロ63、フウ62、アズ61、ロウ54、グリ43にレベルアップ
残金1565200F
31日目
この世界に来て、そろそろ一ヶ月か。朝起きたユキトは、そう思った。日にちを数えていた訳ではないので、多少の誤差はあるが、外れてはいない。
この一ヶ月、色々あったが、『ユキトくん、早く朝食を食べて出掛けるよー』
ティアは、朝から何時も以上に元気だ。
まあ、この一ヶ月稼ぐのに必死で何があった訳ではない。ティアに急かされつつ仕度を始めた。
身支度を終えると部屋を出て、女将さんに朝食を頼んだ。
普段は、パンとスープの朝食。調子が良ければメインの肉料理を食べたりもするのだが、今日は呑んだくれ日だから、豚の串焼きとパンをアイテムボックスに入れ、スープをちびちび飲みながら、ティアの食事が終わるのを待つ。
食事が終わると、宿を出た。
「まずは、朝からやってる酒場を見つけないとな」
「冒険者ギルドに行けば、近くにあるはずだよー」
確かに、そんなイメージがある。冒険者ギルドに向かうと、隣に酒場があるのが見えた。
早速入ると、意外と地味だ。荒くれ共の巣窟といった感じではない。
結構大箱なので、適当なテーブルに陣取り、酒を頼む。酒が運ばれてくる間に壁に架かったメニューを見ると、料理が多くない。干し肉などの乾き物がある事から、今の角打ちや立呑屋のイメージ。
酒が来た。一杯500Fなので銀貨1枚を払う。ツマミを頼む。ユキトは、煮込みと干し肉。ティアはチーズの盛り合わせだ。
「チーズってあるんだな」
「そりゃあるよー。宿でバター風味の料理とか出たでしょ?」
「まあ、そうなのだが…
しかし、よく見つけたものだ」
と、メニューを眺めていく。
「高っ!チーズって良いお値段するんだな~」
なんと、お値段5000F。大衆酒場では、御目にかかれないような値段設定。誰も頼まないのでは?
と、思っていると、バラでも頼めるとティア。盛り合わせの横に並んでいるのがそうみたいだが、こちらは500F。
「魔の森付近では、酪農なんて出来ないし、魔物が少ない土地は、限られているからねー。チーズは保存食でもあり、嗜好品にも近いのよー」
そりゃ、魔物がそこらに居るのでは、牛などは飼うことは出来ないわな。それと、品種改良は魔法でやったのか。それとも、限られた時期にしか乳は取れないのか?ユキトが、そんな事を考えていると、ツマミも運ばれてきた。
煮込みと干し肉は各500F。銀貨6枚を払う。
「じゃあ、朝酒に乾杯ー」
ユキトもそれにならって飲み始めた。酒は、運ばれると直ぐに魔法で冷やした。忘れるとティアから、催促が飛んでくる。
ツマミの煮込みは、深皿に盛られていて、結構なボリューム。骨を取り除かれた鳥系の肉が、小さめにカットされたあっさり風味。安心安定の味だ。
干し肉は、細長く切られた牛系の肉に、スパイス控えめの塩味濃いめだ。それが5本皿に盛られているので、かなりのお値打ちに思える。
「ユキトくん、干し肉を少し頂戴ー」
ティアが言ってきたので、干し肉の皿を前に出した。
一本持っていくと思いきや、フォークを刺すとナイフで干し肉をスッと切った。
「そのナイフ、切れ味が良さげだな。オーガの首も飛ばせるんじゃねーか?」
「まあ、やろうと思えば出きると思うよー」
「ティアは飛べるし、音もなく近寄り、首をはねるとか、暗殺業が捗るな」
「私はそんな仕事はしてませんー」
そんな、アホなことを話しながら飲んでいると、エールが空になった。
店員さんに、ワインとチーズの盛り合わせを頼む。ティアは串焼きを追加。
「チーズを食べたければ、私のをあげたのにー」
「味見程度ではなく、しっかり食べたいからな。元々チーズは好きで、よく食べてたよ。プロセスばかりで、ナチュラルはたまにしか食べなかったけど」
早くも、ワインとチーズが到着。銀貨6枚を払い、大銅貨5枚を釣りでもらう。
チーズは5種類。セミハードのゴーダ。ハードのパルミジャーノ、ペコリーノ。ホワイトのブリー、サンマルスランに近いものだ。
もちろん、ユキトは見た目や味で区別できるほど、ナチュラルチーズに詳しくない。
こっちのチーズも悪くないな。そう言って食べている。
ティアの串焼きも焼き上がって到着。大銅貨3枚を払った。豚系の肉がたっぷり刺さった串が2本。直ぐ様ティアが食べ始める。
ユキト達が、ダラダラと飲んでいると、ガンガンガンと鐘が鳴らされた。