--プロローグ--
「はぁっ…!!はぁっ…!!」
包帯が巻かれた右足を引きずりながら、少年はある病院の廊下を走っていた。
少年の名は北村友樹。私立琳中等学校に通う中学一年生の生徒だ。
友樹が走っている理由はある病室に行くためだ。
そのある病室とは…
「信吾ッ!!」
《岡嶋》と書かれた病室に入り、信吾、と叫ぶ友樹。
信吾というのは部屋の中で虚ろな瞳をして虚空を見つめている少年の名だ。
医師が怒ったような、驚いたような声で友樹に足はどうしたのか聞くが、友樹は脇目も振らずに信吾の方へ行く。
医師が怒ったような、驚いたような声で友樹に声をかけたのは友樹の足が先程の事故により折れていたからだ。
なにが友樹をそうさせてそんな中走ってきたのかは分からない。
ただ分かるのは、'これほどまでに友樹にとって信吾は大切な友人である'、ということだけ。
友樹は信吾と最も近くにいた信吾の姉である美紅に信吾の病態を聞くと美紅は潤んだ瞳を信吾に向けながら震えた声で言い放った
「記憶…喪失…」
美紅がそう言った瞬間、部屋にいた信吾の家族達は涙を流した。
今までこらえていた涙を。
友樹はただ目の前が真っ暗な、先の見えない闇に包まれていくような感覚に包まれた。
これは夏休み最初の日のことであった
***
少年は、目を覚ました。
なにか長い夢を見ていたような、そんな気分。
少年は今まで生きた記憶すべてを失っていた。
…否、正確には忘れていた。
周りを見渡すと見たことがない人々が少年を見て目を見合わせる。
そしてそのうちの1人が言う。
「シンゴ!生きてる…!生きてるのよね!」
その人の言葉を初めとして、周りは明るい雰囲気に包まれる。
生きてる、よかった。みなが口々に喜びの声をあげる。
少年がなにか腑に落ちない顔をした後、呟く。
「あなた達は、誰ですか?」
少年が静かに口にすると周りの人が少年に顔を向ける。
白衣の男が言う。
「間違いありません」
途端に辺りは静寂に包まれた。
みなが青い顔をして少年を見る。
数分後、静寂が破られる。
力強い、ドアの開く音。
白衣の男の人の怒ったような、驚いたような声。
そんなものは記憶を失くした少年にとってはどうでもよかった。
記憶を失くした少年は聞き逃さなかった。
今入ってきた少年と高校生くらいの女の人の会話を…。
「シンゴは?!」
「キオク…ソウシツ…」
女の人はやけに悲しそうに言い、目から涙が溢れ出ていた。
初めまして。小説家になろうでは初投稿となります。
作者の仲優 未夢と申します。
たった12歳、中学一年生の文章ではございますが…。
是非拝見頂ければ誠に幸いです。