00勇気とReincarnation
ヒーロー、それは絶対に負けない正義の味方。青年、正樹大翔もそのヒーローに憧れていた。彼が最も強い憧れを抱いているのは"潜空鉄人メタルダイバー"。彼の「正義は常に君とある。私がいない間何かあった時、ヒーローは君だ」という言葉は今でも大翔の心に深く刻まれている。だがそれは過去の話。今、彼は社会人として仕事を求めている。今日はその採用試験の日なのだが…
彼はその事態に真っ先に気づいた。道路を暴走するトラックとそれに気づかずに信号を渡る親子。頭の中にメタルダイバーの言葉が浮かぶ。
(今がその時なのか)
そう考えた時すでに彼はその親子を突き飛ばしていた。トラックがぶつかり体が吹き飛ぶ。救急車を呼ぶ声。しかし彼はもう助からない。
(人を救えた。これで俺もヒーローになれたかな)
彼の意識は冷たく暗い深淵に沈んでいった。
気がつくとそこは光に包まれていた。眩しさに目を細めていると、人の声が聞こえてきた。
「貴方は死にました」
「死んだ?」
光に目が慣れてきた。丸テーブルを挟んで座る人。それを囲んでいるのは大きな屋敷の一室を思わせる部屋。窓は開け放たれ陽光が入り込んでいる。その人は真っ白な衣を纏った中性的な男。太陽のような暖かい声で話す。
「そう、死んだのです。ですが、私は貴方の勇気に感動しました。その勇気を讃え、有利な条件で新たな生を授けます」
何を言っているのかさっぱりわからない。自分の死すらまだ実感できていないというのに。そもそもこの人は何者なのか。
「私は神です。さあ、疑う必要はありません。貴方の記憶と肉体を引き継ぎ、そして願いを一つ」
願い、ならば答えは一つだ。もしかするとこれはチャンスかもしれない。
「俺はヒーローになりたい」
神は微笑んで言う。
「ヒーローですか。では、人類に危機が迫ろうとしている世界に、私の力とともに生まれ変わらせることにしましょう」
神は中空から取り出した水晶玉をじっと見つめ、やがて目を閉じた。その瞬間大翔は光り輝く穴へと吸い込まれていった。
気がつくと大翔はどこかの山の中に倒れていた。体を起こそうとすると正面から声が聞こえる。
「人間?なぜこんなところに」
そこにいたのはコウモリのような姿の怪人だった。
「ば、化け物!」
恐怖に飛び上がり後ずさると、何かが手に触れた。見ればそれはベルトだった。バックルには見たことのない文字が刻まれ、大きな宝石が不思議な光を静かにたたえていた。
「そうか、こいつであの化け物と戦うんだな」
ベルトを腰に巻いてコウモリ剣士に殴りかかる。しかしその拳はあっさりと受け止められた。
「あれ?」
「話にならんな。勇気だけは認めてやるが」
コウモリ剣士が腹を蹴ると大翔は空き缶のように飛ばされてしまった。
「うわあああ!」
大翔は崖下の川へ叫び声とともに飲み込まれていった。