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贋作と狂人  作者: 杠 音韻
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一話 贋作と美

もう太陽が伏せてから何時間と経っただろうか。

何時間と私はこの贋作に向き合ってきただろうか。


歪に狂う筆を保たせながら、危篤寸前の眼で目を見張る。

喉は既に水分を欲することは無くなった。

少しでも目の上の重りを下ろせば、支えを失った矢倉の様に崩れ落ちる。


「はて、終わりが見えるのか」


そう呟き、乾ききった筆を投げ捨てやっとこさ目蓋を下ろす。

そこに広がるは無垢。

いや、これは唯の無。


だが恐れは無い、恐怖もない。

むしろ包容感に近い快楽、私はずっとこれを追い求める。

黒一色の世界は、どうしてか素晴らしい。


目を開く。


このまま闇の中に落ちていきたかったのも山々なのだが、それより私には贋作を仕上げる仕事が残っている。

何しろ「贋作師」としての腕を買われた故、私は描き上げなければいけない。


この絵は、世に生きる人々は必ずや一度目にする逸品。

誰もが口を揃え、美しいと絵画を風靡する。

私だって贋作師とはいえ、このお方の歴史、作品はもちろん存じている。


彼は崇高で、限りなく高い限界を追い描く。

神に画家になるよう造られた存在。


線一本一本が美しく描かれ、色彩それぞれが神々しく描かれる

無論、私でも同じ様には描けぬ。


だが、神に一歩届かぬ存在になら成り得る。

それが贋作だ。

贋作を作っていくにつれ、私は名を馳せていく。

それと同じく心が狂っていく。


傑作を作る、最高の作品を。

そう目指していた僅かながらの青春の光。

今ではその影に生きているという事実。

それを噛み締めて贋作を仕上げる。




線は末に終着し、絵が完成する。

二十一回。

日が落ちた回数だ。


この贋作、この完成品は富豪の競売に賭けられる。

この街有数の富豪が一斉に介する集会、そこに今回の目玉として私の作品は一斉に視線を浴びることになるのだ。

画家、いや贋作師として、これ以上の快楽はない。

報酬は落札金の3割を得ることとなっている。

富豪市ともなれば、この作品だけでも一生。

いや、二代先まで安泰だろう。


私は早速、契約者と会合に街へ出る。

最近、この街では通り魔が出没しているらしく、メインストリートも人は全く見掛けない。

もう既に昼だと言うのに、誰一人居ない。


なんでも、もう既に市警によれば50人もの死体が発見されているらしい。

曇る霧が少し恐ろしくなって、私は脚を早めた。




メインストリートから外れたダウンタウン、貧相とした街並みが並ぶ旧市街。

薄気味悪くてありゃしない、そこらじゅうにネズミが這っている。

灯りがついてない酒場の前に着く。ここが会合の場所だ。

恐る恐る、錆び付いたドアを叩く。


「ナニモンだ」


「作品を持ってきた 贋作師だ」


野太い声が奥で響き、カチャっと鍵の外れたような音がする。

ドアが奥から開き、巨漢の男が現れる。


「待ってたぞ さぁ入れ」


中に連れられ入ると、もう既に数人集まっていた。

だが、富豪として見ると明らかに不格好で、外見は明らかに盗賊に見える。

疑問を抱きながら、カウンターの椅子に座る。


「で? 作品はちゃんと仕上げたんだろうな」


「あ、あぁ ほら、ここに」


大きめの管楽器の箱を開ける。


久々の連載です


よろしくお願いします

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