プロローグ
「はあ……はあ……!」
狭いコックピットに響く自分の息遣いを聞きながら、僕は目の前の機体に追いすがっていた。銀色の翼が大きく旋回する。その軌跡をなぞるように僕は操縦桿を操作する。太陽光が目の前の機体に注ぎ、反射光に目をくらまされながらも銀に塗装された戦闘機を注視し続ける。今度は機首を下に向け一気に高度を下げる。僕も同じく機首を下げながら前の「敵」に離されないようエンジン出力を上げる。レジプロエンジンの唸り声が大きく響き重力とエンジンパワーが合わさって大きく加速。愛機が最高速度を上回る過速に悲鳴である軋み音を聞きながら僕は馬鹿の一つ覚えのように目の前の機体から注視しつづけていた。
「まだだ……まだ撃っちゃだめだ……!」そう自分に言い聞かせながらも僕はなんども引き金を引いて機関銃の弾丸を目の前の「敵」に叩き込みたい衝動を抑え続けていた。
(ここで撃てば今までの我慢がすべて水の泡になる。だから……まだ……!)
銀の機体はそのまま右へ左へと機体を翻し、照準をずらそうとしていた。何度かそれを繰り返した後にそのまま大きく右に旋回。加速した勢いを借りて高度を上げていく。僕もそれに倣おうとするも、さっきまでとは段違いの大きな軋み音を聞き、あわてて操縦桿を引き戻す。そのため「敵」よりも大きな弧を描きながら旋回せざるをえなかった。「まずいぞ……!」そう口に出しながら僕はスロットルを限界まで押して距離を詰めようとした。しかし離れた距離はじりじりとしか縮まず、僕の焦燥感を高めていった。銀の機体は機首を上に傾けながら高度を上げていく。僕はできるだけ機体を水平にし、速度を上げていくことで何とか機銃の射程内に「敵」を収めることができた。そして、前方の機体は機体を地面に対してほぼ垂直に機首を上げた。そしてその両翼から赤い煙がモクモクと吹き出し始めていた。
「いまだ!」
そう叫び僕は目の前の機体へありったけの機銃弾を叩き込んだ。