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三十分後の彼女  作者: 代理投稿 「師匠」
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怒られた、というより詰られた。

 ちょっとレアなグレードの高い怒られ方をされてしまった。

 「ぼくはただアドバイスをもらいたかっただけなのに……!」

 「うるさい、黙って走れ。わたしとち、ちゅーしたからって図に乗りすぎだ!もうっ、馬鹿さんのくせに!」

 携帯越しに耳元でがなる先輩の声を浴びながら、息を切らせてコンビニまでの道をひた走る僕。

 「だから、キスって言ってもおでこにですよ!高校生のおつきあい的には全然セーフじゃないですか!でこちゅーぐらいでそんなに怒らなくてもいいじゃないですか!?」

 「で、でこちゅー……いやらしい、いやらしいぞ山さん!」

 「いやいや、全然いやらしくないですよ!だってぼく健全な男子高校生としてはかなり自制している方だと思いますよ、おでこどまりなところが特に!――――ってか、言われるままに逃げ出しましたけど、これから、どうすりゃいいんです?」

 コンビニの明かりが見えたところで、ぼくは足をゆるめる。

 五分もたってはいないとはいえ会話交じりの全力疾走はこたえる。張り付けたカイロはとんでもなく熱いし、息も切れきれでこれ以上は走れそうにない。

 「帰って寝ればいいじゃないか。寝る前に運動もできたしよく眠れるだろうよ」

 が、そんなぼくに先輩は取り付く島もないといった感じでつめたく応じる。

 「あ、あの、先輩?」

 「ふん、知るか。わたしには明日適当にごまかせ。知らぬ存ぜぬを通してもいい。とにかく、現場を抑えられさえしなければなんとでもなるだろう。それに……わたしと山さんは恋人同士なんだろう?なら、わたしは、そっちのわたしならきっと騙されてくれるだろうよ」

 と、やっぱり不機嫌な様子で先輩はそういう。

 そんな先輩に何と返せばいいのか、一瞬考えてぼくは――――それを見た。

 黒い染み。輪郭がぼやけているなにか。

 たとえるなら、そう、人影が立って歩いているような姿をしたそれはゆっくりと――――

 「なんにせよ、山さんはもう帰った方がいい。わたしも今日はもう休ませてもらう。時間だって……」

 「先輩!」

 耳元で何か言っている先輩の声を遮って僕は言う。

 「先輩の世界にはこっちの先輩の言う影はいないんでしたね?」

 「あ、ああ、そうだが?」

 「ぼくの前にその影がいます」

 ――――っと、息をのむ音がした。

 一拍の間の後、携帯越しの先輩はふう、と小さく息を吐き出して「冗談じゃないんだな?」と硬い声でいった。

 「山さん、まずその影からできるだけ離れろ。それから、それが何らかの意思を持って行動をしているように見えるなら何をしようとしているか、思いつく限り上げていってくれ」

 ぼくは影から目を離さずに先輩の声を聞いていた。

 いつものおちゃらけたような、ぼくをからかう響きを微塵も感じさせないそんな声を。

 「……とりあえず、ぼくのことは気付いていないようです。というか、ぼくが見えていないような感じがします」

 「そ、そうか!なら、そのままそこを――――」

 先輩が安堵に満ちた声で言う。

 そういえば、先輩のこんな声も聞いたことなかったな。

 先輩のこと、少しは分かっていたようなつもりになっていたんだけど、まだまだ知らないところばっかりだ。

 そんなのあたりまえだけど。あたりまえなんだろうからこそ――――。

 「先輩、先輩が以前言ってた仮説って覚えてます?あれって確か、影響を受けた部分を元に戻すみたいな話でしたよね」

 「山さん、何を……?いや、いい、いいから!そんなのどうだっていいから、早くそこから離れて」

 「その時、ぼくは消えることより忘れられる方が怖いなんて言ってましたけど、あれやっぱウソでした。すいません」

 「……や、山さん?」

 「ぼくが先輩のこと忘れることより、先輩にぼくのこと忘れられる方が嫌だなんて、以外にぼくは自分でもびっくりするくらいのエゴイストだったみたいです」

 「お、おいなんだそれ。山さん、君は、――――い、いいから私の言うことをきけ!」

 「無理ですよ。だってあの影、さっきから全然動いてないんですよ?先輩の家から離れていない場所にずっと……なら、消えるのは、忘れるのはぼくじゃない。だから、ちょっといってきます」

 「おい、山さん!やめ」

 先輩の声が突然途切れた。

 もしや、と背筋が寒くなるが相変わらず影はそこに佇むだけだ。おそるおそる携帯に目をやると液晶が午前零時ちょうどを指していた。どうやら時間が来ていたらしい。

 ふう、とぼくは息をつく。

 「先輩の馬鹿。びっくりしたじゃないですか」

 と、ここにいない先輩に悪態をついてから歩き出す。

 動こうとはしない影に妙な安心感さえ覚えながら、あの日突然かかってきた妙な電話からの日々を思い返す。

 走馬灯ともいえない極めて局所的な記憶の大半はやっぱりというか案の定というか、その大半があちらの先輩に関する事ばかりでなんだかなあ、といった気分にさせられる。

 これでも彼女もちなのに。

 こんなこと考えてるだなんて、みやこ先輩に知られたら矯正じゃなくて粛清されかねない。

 記憶か存在か。

 もともとそうであったように戻すというリセットボタンみたいなその影を、ぼくは肩でもたたくような気軽さで押した。

 「でもまあ、やっぱりあなたが一番好きだったみたいですよ。先輩」

 そんな、恥ずかしい言葉ともに。

 

ページはここで途切れている。


ここから先は、あらかじめ先書きしたものらしい。

データは分割されており、展開が飛ばされている。

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