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神さまのいうとおり  作者: なかむー
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1/1

青年は目覚める

この、平和な世界から、逃げ出したかった。嫌気がさしていた。

漫画やアニメのように、非現実的なことが起こらないかいつも考えていた。

例えば、ずっと親友だと思っていた奴が、実はこの世界のものではなく、異世界から来た魔法使いで、逃げてきたという。それに巻き込まれて、自分も異世界へ行くことになり、魔法を使って空を飛んだり、敵を倒したり。

はたまた、飼っていた猫が人間の言葉を話し、自分には世界を救う役目があるのだと言ってくれる、そんなことを、ずっと、夢見ていた。

 実際にはそんなことは起こりもしないまま、20の年が流れてしまった。今日も、大学に行って講義を聴いて友達と何気ない会話をして、バイトに行く。そして課題をして就寝する。まるで最初からそうあるべきと決まっていたかのように、平凡で、退屈な日々。だから


「刺激が欲しい」


と思ってしまうのは、仕方の無いことなのかもしれない。



-――――――――誰か、俺に、使命を。








「トオル!」


呼ばれた声に振り返ると、予想通りの人物がこちらに向かって手を振っていた。時刻は16時。ちょうど講義が終わって、帰ろうとしていた時だった。トオルは、声をかけてきた相手に軽く手を上げた。


「うっす、アキラ。どうした」


言い終わるタイミングで、大学でできた親しい友達のアキラが、こちらへ向けて動かしていた足を止めた。


「いやさ、今の講義のノート貸してくれないかなあって、」


そろそろ試験期間だからさ、と笑うアキラに、またかとため息が出そうになる。


「りょーかい。これ、来週までには返せよ」


と言って、アキラに今まで開いていたノートを手渡す。その途端、アキラは目を輝かせて喜ぶ。


「ありがとう、トオル!これで単位落とさなくて済む、じゃあねー!」


小躍りしそうな勢いのアキラは、そのままの勢いで、講義室を出ていってしまった。どうやら、このあとサークルがあるらしい。その後ろ姿を見送って、トオルも講義室をあとにした。 

外に出ると、雨が降っていた。天気予報されていなかったのか、周りの学生は、傘を持ってきていない様子で、薄暗い灰色の雲に悪態をついていた。同じく傘を持ってきていない自分だったが、雨を気にせずに、そのまま帰宅することにした。最初は小降りだったためあまり気にしていなかったが、アパートに着く頃には全身がずぶ濡れになるほど雨足は強くなっていた。


「最悪」


ぽたぽたと垂れる水を煩わしく感じながら、早くシャワーを浴びようと、ドアに鍵を差し込んだ。その時だった。小さな、小さな声が聞こえたのは。


「マジかよ」


それを見つけてからの行動ははやかった。部屋に入り、部屋が濡れるのも構わずに、タオルを持って、アパートの脇の草むらに横たわるそいつ―――子猫を優しく持ち上げると、部屋に入れた。だいぶ弱っている子猫は、今にも息が止まりそうである。タオルであらかた水分を拭き取ると、体を温めてやった。


「もう大丈夫だからな」


その声に反応するように、子猫は、小さく、にゃあ、とひと鳴きした。



***



その日は、バイトもなく、講義も早めに終わったため、近くのスーパーに買い物に来ていた。あの雨の日以来、元気になり、トオルになついた子猫は、トオルのアパートの部屋に住み着いてしまった。今日は、子猫の分の食料を買いに来ていた。


「あれー、トオルだ」


声をかけてきたのはアキラだった。アキラのアパートもこの近くのため、このスーパーで遭遇することは少なくない。アキラは、トオルが持っているものを見て首をかしげた。


「トオルって猫飼ってたっけ」

「いや、最近飼い始めたんだ」


今頃我が物顔で、自分のベッドに横になっているだろう子猫を思い出して、苦笑いしながら答える。するとアキラは、目を輝かせた。


「まじで!見たい見たい!」


ここがスーパーであることを忘れてはしゃぐアキラに視線が集まるが、本人は気づいていない。そういえば、アキラは、猫好きだったということを思い出す。どんな猫なの?名前は?と聞いてくるアキラが部屋に来ることは決定事項らしい。


「わかったから、声でかい」


ため息をつきながらそういうと、アキラは周りが見えなくなっていたことに気がついたのか、顔をほんのりと赤らめて、ごめんと言った。



***



「にゃんこ、にゃんこ」


そう言ってアキラは我先にと部屋へと入っていく。その後を苦笑いしながら、ついていく。


「アキラ、ここ俺んち」


先にリビングに行ってしまったアキラにそう声をかけて、買ってきたものを片付ける。子猫と遊ぶのに夢中になっているのかアキラからの返答はない。しばらくすると、アキラが子猫を腕に抱いてキッチンにやってきた。


「トオルーこの子猫名前なんていうのー」

「あー、いや、名前はつけてないんだ」


え!とアキラは驚いている。その姿にまた苦笑いしてみせると、子猫の頭を撫でながらこう続けた。


「コイツ拾った時から首輪つけててさ、たぶん飼い猫だったんだと思う。人に慣れてるし」


その言葉に納得したのかアキラは、なるほどと頷いた。そして、子猫の首につけている青い首輪を見つめた。


「お前はどこから来たのかなあ」


アキラが子猫を持ち上げて、首をかしげた。子猫は、少し目線をあちこちにむけて、アキラと目線を合わせると、首をかしげて、にゃあとひと鳴きした。



――――ピンポーン


「トオルー誰か来たよー」


アキラが子猫と戯れながら、言った。家主は自分であるはずが、気にせずに子猫とゴロゴロするその図々しさに苦笑しか出ない。


――――ピンポーン


なかなか出てこないからか、もう一度チャイムが鳴った。


「はーい。今行きます。……ったく、誰だよ」


めんどくさいと思いながらも、玄関を開けるとそこには。


「…遅い」


ひとりの少女がいた。

急な訪問に、驚く。それも無理はない。だって彼女は。


「…君、誰?」


そう、トオルは彼女のことを知らないのだ。全くの赤の他人。彼女の顔は記憶にない。一体いつこんな子と知り合ったのか。恐らく高校の制服に身を包んだと思われる彼女と関わりがあるとは思えない。トオルは、男子校出身である。


「…………」


お互いに見つめ合うこと数秒。痺れを切らした少女がこういった。


「返してくれない?」

「え?」


何を?という疑問を口にしようとすると、苛立ったように少女はもう一度トオルに問いかけた。


「だから、返してくれない?」


トオルは困惑していた。会ったこともない彼女から何か返さなくてはいけないものを借りたりしただろうか。


「えーと、何か勘違いしてないか?君からなにか借りた覚えがないんだけど」


相手を刺激しないように優しく言ったつもりだったが、逆効果だったらしく、少女はカッと顔を赤くさせて叫んだ。


「とぼけないで!あなたが、持っていることは知っているんだから!!早く返して!!」


今にも飛びかかってきそうな勢いに驚き目を丸くする。そんなトオルに気づいたのか、少女は一度気まずそうに咳払いをした。


「まあいいわ。次来るときは返してもらうから」


そう言うと少女は踵を返し、曲がり角へと姿を消した。


「何なんだ、一体」


トオルは首を傾げるしかなかった。その背中に静かにしていたアキラがリビングのドアからひょっこり顔を出し、声をかける。


「新聞勧誘?」

「いや、人違いだと思う」


ふーんとアキラは興味を既に無くしたのか子猫と遊び始めた。


***



スタスタと帰ってきた少女に、待っていた男は声をかけた。


「おかえり。あれ、返してもらわなかったの?」


少女が何も手にしていないことに気がついた男はそう口にした。その言葉に少女の肩がピクっと動く。そして男とすれ違いざまに足を止めた。


「少し貸してあげることにしただけよ」


自分の失態を思い出してか、少女はその顔を歪めた。言い終わると、男の返答など待たずにさっさと路地へと姿を消した。


「大分お立腹だなあ、レイナちゃんは」


少女が去った路地をしばらく眺めていたが、男も少女の後を追うように姿を消した。



***



トオルが小さな音に気がついて起きたのは、深夜2時のことだった。カリカリという何かを引っ掻くような音と、子猫の鳴き声である。


音のする方を見ると子猫が窓に向かって、鳴いていた。前足で窓の桟を引っ掻いている。まるでここから出して欲しいとでもいうかのように。


「どうした、外になんかいんのか?」


子猫の後ろから窓の外を見る。特にいつもと変わりない、アパートの二階から見える昼間より落ち着いた雰囲気の街の様子だった。


「何にもないぞ、子猫」


子猫にそう言ってみたが、伝わるはずもなく、ミーミーという子猫特有の高い鳴き声は止まらない。仕切りに外に向かって鳴いている。

鳴き止まない子猫に困ったのはトオルである。ここは安いアパートであって、壁は薄い。こんな夜更けに猫が鳴いていたら、ご近所には筒抜けである。このままでは苦情が来るか、無断で猫を飼って(保護して)いることがばれて、アパートから追い出されてしまう。ここはペット不可なのである。

未だに鳴き続ける子猫を見つめて、10秒。

トオルは意を決して、子猫に提案した。


「散歩、行くか?」


子猫は早くと急かすように、にゃあ!と鳴いた。



***



「おい、こら、勝手に行くな!」


玄関を開けると、子猫が一目散に飛び出していく。

トオルは、その小さな姿を逃さないように慌てて、追いかけた。

しかし、不思議なことに子猫はトオルの視界から消えることなく、まるで、トオルについてこいと言わんばかりに、先を駆けて行く。

トオルは必死で追いかけた。疲れは感じなかった。羽が生えたように、体が軽い。いつまでも走っていられる気がした。

そんなことふつうではありえない。いつもの自分ならそう冷静に今の状況を判断しているはずであったが、トオルの思考は熱に犯されたように、ぼんやりとしていた。「子猫を追いかけなくてはいけない」ただそれだけがトオルの頭の中を占めていた。





きっと、トオルはこの日のことを忘れることはないだろう。

自分の人生が大きく変化するきっかけとなったこの日の出来事を。





密集した住宅街を抜けると、街を横断する大きな川に出る。子猫は、河原へと続く土手に迷いなく進んでいく。トオルもその後に続く。しかし、


「ーーーーえ?」


トオルが土手を上ると、あれだけ追いかけていた子猫の姿は、消えていた。

猫を見失うと同時に、どっと疲れがトオルに襲い掛かった。いままでのツケを払っているように、ひどい疲労感を感じた。全身に鉛でもつけているようだ。

トオルは膝に手をついて深く息を吐きながら、辺りを見回すが、子猫は見つからない。


「・・・っ、どこ行った・・・?」


土手から見下ろした深夜の河原は、外灯はあるものの子猫どころか人一人見当たらない。あたりは深夜独特のお雰囲気に包まれており、静寂に支配されていた。

聞こえるのはトオルの荒々しい息遣いだけであった。


「くそっ」


子猫を探すために、トオルは土手を下ろうと重い体を引きずって河原へと続く階段に足を進めた。

その一歩を踏み出した、その瞬間のことである。


一瞬にして視界が黒に染まった。

一面の黒、黒、黒。



それはトオルが今まで見てきた中で一番く黒い、真っ暗闇、だった。




吸い込まれそうなほど真っ暗闇の中、あまりの出来事にトオルは声も出なかった。

驚きすぎると人は何も反応できなくなるというのは本当だったと、なぜかそんなことを思った。

そして、まるで夢のようだと。

驚きに硬直するトオル。頭が混乱している。

なんだこれは、いったいどうなっている?



ーーーーーードゴオォォォォオオオンンン!!!!



次いで聞こえてきた、何かが爆発した音。それと同時に爆風に砂が巻き上がる。

とっさに腕で目をかばう。爆風に体が飛ばされそうになるが、何とか踏ん張る。

いったい何が起きたのか。

トオルは確認しようと、目を開けた。


「お、おんなのこ・・・・?」


目の前には、女の子の後姿があった。

トオルをなにかから守るように、かばうように立っていた。



―――――—フリフリの服を着て。


「どうして一般人がっ!」


少女はイライラした様子でこちらをちらりと見た。

その横顔にトオルは見覚えがあった。


『とぼけないで!あなたが、持っていることは知っているんだから!!早く返して!!』


そうだあの時の、女の子だ。

トオルが少女に気づくと同時に、少女もトオルのことに気が付いたのか、「あんた、この間の」と呟くと、連れてきたであろう元凶を見つけ出す。


「リタ!どうして連れてきたの!?」


鋭い目つきで睨みつけた視線の先にいたのは、子猫だった。

トオルが追いかけていたあの子猫である。

子猫は少女の問いかけにきらきらとした視線を返すと、こういった、、、。


「可能性があるからさ」


子猫は、凛とした声でそういった。少年のような澄んだ声であった。

そう、子猫がしゃべったのである。

猫がしゃべった?!とトオルが驚くのを尻目に少女は疑問に思った様子もなく、こう返した。


「可能性って、あるわけないでしょうが!!」

「レイナは、可能性感じないの?」


子猫は首を傾げた。

少女は、顔を真っ赤にした。


「感じるわけないでしょうが!!男でしょ?!」


バカにされたと思ったのか、少女(レイナという名前らしい)はトオルを指差していった。

指を差されたトオルもわけがわからずに、子猫と一緒に首をかしげた。

それを見た少女は嫌そうな顔をした。まるで、「こんな男が?!」といいそうな顔である。


「とりあえず、連れてきちゃったものはしょうがないから、あんたはそこで大人しくしてて」


レイナはそう言うと、怪物に向かって駆けていく。

しかし、おとなしくしていろと言われても、全く状況が理解できていない。おとなしくする事しか出来なかった。

それにしても、少女が戦っている怪物だが、随分と大きい。少女の10倍はあるように思う。振り下ろす拳も相当の大きさである。もし、トオルが戦ってもすぐに潰されてしまうだろうということは容易に想像出来た。

それを少女は簡単に去なすとカウンターを決める。

流れるような動作だった。

それにしても、一体あの怪物はなんなのだろうか。


「あれはアルプトラオム」


トオルは声のした方を見た。子猫が話しかけてきたようだ。


「アルプトラオム?」


聞きなれない言葉に、トオルは首を傾げた。


「そうさ。夜な夜な人々の夢の中からやってきては、大暴れしてこの世界を壊そうとする怪物」


何の感情も乗せずに子猫は言う。


「奴らの目的はわからない。でも、あいつらをそのままにしておくわけにはいかない」

「だから、お前たちは戦っているのか?」

「そうだよ」


子猫は即答した。


「世界のために、か」

「それは違うよ。トオル。私たちは世界のために戦うわけじゃない。選ばれたから、使命だから戦っているんだよ」

「使命…」

「そう、使命。トオル。君も選ばれた。だからココにいる」

「選ばれたって、誰に…」

「さあ、誰だろうね」


トオルにはこの時子猫が寂しげに笑ったように見えた。そんなことありえないのに。子猫の表情などわかるはずもないのに。


ーーーードガーンンンンン!!!!!


激しい爆発音がなったかとおもうと、土埃が盛大に広がった。

少女が怪物に勝ったのだろうか。辺りがシンと静まった。

しかし、土埃の中で見えた陰は、怪物のものだった。


「なっ?!」


確かにさっきは少女が優勢だったはず。一体どうして。

少女は攻撃を受けて、地面に四肢を投げ出すように倒れていた。


「まずい、このままだと、アルプトラオムにやられてしまう」


子猫が焦ったように言う。

それからは、一方的だった。少女は手も足も出ずに怪物になされるがままである。


トオルは、悔しい思いをしていた。自分は選ばれたという。だからココにいるという。しかし、トオルにはなにも出来ない。ここで少女が負けていくのを見ているしか出来ない。

この瞬間にも、少女は怪物から一発食らっていく。少女の華奢な身体が地面へと叩きつけられ二、三回バウンドした。少女はボロボロだった。満身創痍という言葉が似合うくらいには、髪はボサボサであったし、服も端の方は切れ、土埃をかぶって茶色になっていた。



なんとかしなくては、このままでは少女は、と思うよりも先に、トオルは駆け出していた。視界の中には、怪物が少女に向かって腕を振り下ろそうとしていた。


間に合え、間に合え!

トオルは願う。

自分に何が出来る?

トオルは思う。

出来なくたってやるしかない。

トオルは笑う。

運命だって、使命だって、なんだっていい!あの子を、


「あの子を助けたいんだ」


無我夢中だった。

すべての音がすり抜けていく。

周りの景色が流れていく。

ふと拾った声は、一体誰のものだったのか。



「【 神 降 臨 】」




***




凄まじい光が少女の視力を奪う、とっさに目をかばうように腕で目を覆う。

薄目を開けてみた光景は。


「そんなだって、あれは、女の子じゃなきゃいけないって・・・」


少女は呆然とつぶやいた。

いつの間にか光は止まっていた。

少女の視線の先には、トオルがいた。



フリフリの服を着て、手にはステッキを持ったトオルが。





きっと、トオルはこの日のことを忘れることはないだろう。

自分の人生が大きく変化するきっかけとなったこの日の出来事を。




「って、なんじゃこりゃぁあああああ!!!!??」






***



その後、トオルは見事怪物を倒し、少女を救い出した。そして、少女と猫と一緒に世界の平和を守っていくことになったのであった。





『ならば、きみにちからをあたえよう』


お読みいただきありがとうございました。


以下、プロフィールです。


トオル(20)

175cm 短髪 バスケをしていたためガタイが少しばかり良い 当たり障りのない性格 普通の大学生


リタ

猫。妖精?のような存在


レイナ(17)

156cm 黒髪セミロング 少しつり目 気が強い 女子高生


アキラ

トオルの友達 少しチャラい


男

レイナの知り合い?



続きが思いつけば、かきます。その時はよろしくお願いします。

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