登校
「まったく!制服ってなんでスカートなの?」
雨上がり、草の萌えるような香りを胸に吸い込みながら私は、私は通学路を歩いている。
「なんでー?いいじゃん!!うちの制服かわいいと思うよ」
えんじ色にチェックの入ったスカートをひらひらさせながら、隣を歩く彼女は嬉しそうにくるりと回る。
彼女にとっては待ちに待った制服なのだから仕方ないのだが、スカートをひらひらさせるのはどうかと思う。
「四葉!パンツ見えてる!!」
「へへー!」
四葉はへラッと笑いながらスカートを押さえた。
ま・・・・・・仕方ない。
幼なじみである四葉にとっては生まれて初めてのスカートなんだからはしゃいで当然か。
華奢な肩に艶やかな髪。
先ほどスカートから覘いた下着は、女の私ですらドキッとするくらい似合っていたのだから。
四葉は眩しいくらいの笑顔で私に近寄ったり離れたり、雨上がりの歩道をくるくる回っている。
「しかし、なんでスカートかねぇ」
「なんで未来はそんな事言うの?スカートかわいいじゃん。未来も似合っているよ」
「似合っているとか似合っていないの話じゃなくて、パンツの上に布一枚じゃん。防御力なさすぎだよ」
そう。私は昔からスカートが好きじゃない。
RPGで言ったら初期装備どころか、ぬののふくを下回る防御力だ。
もし、スライムが現実世界に現れたら、上目遣いの視線に、私は戦う前から戦意喪失だろう。
「でも私はこの学校好きだな~」
「好きだな~って、学校説明会以来、通うのはお互い今日が初めてでしょ」
四葉が言ってる意味は誰よりも分かっていながら、私はわざと意地悪な発言をしてしまう。
「だってさ~」
「四葉!2歩後ろに下がんな!」
私の声を聞いた四葉は迷うことなく、後ろに2歩下がる。
その数秒後、脇を抜けていく自動車が、水しぶきをはじきながら駆け抜けていった。
「さすが~!!」
「いやいや!尊敬したかったらしてもいいよ!」
私は鼻を鳴らしながら胸を反らせた。
「でも、何度も言うけどこの力は私と、四葉だけの秘密だからね。わかってる?」
四葉も分かっているだろう。
この約束は、私が何度も四葉に言い続けていた約束なのだから。
そう。
私には未来が見える。
それは、私が望む望まないに限らず、映像として私の脳に直接飛び込んでくるのだ。
でも、それはとても不安定なもので、何月何日に何が起こるという予言めいたものではなく、見えたとしても数日先の未来までなのだが。
そう。
この力には力がない。
もしこうなると分かっていても、私には何月何日何時に○○が起きるという細部までは分からないとても不安定なものなのだ。
それに・・・・・・こんな力を持ってしまったからこそ、子供の頃はとても嫌な思いをした。
正直、こんな力なんて無くなってしまえばいいと思っていたし、今でもそう思っている。
未来が見えるって気持ちの悪いものだし、未来が見えるって事は、人の運命が決まっているようで人知の及ばぬ力が働いているようにしか思えないのだ。
両親の事は愛しているが、未来なんて名前だから未来が見えてしまうのだと、子供の頃は自分の名前すら好きになれなかった。
周りの人間が私を見る目は、畏怖か恐怖でしかなかった。
でも四葉だけは違う。
四葉も人と違ったせいか、私の事を色眼鏡で見る事はなかった。
ただ、いるのが当たり前のように振る舞ってくれる。
今もそうだ。
少数派同士の周波数が私たちを深く深く結びつけてくれた。
だからこそ、四葉は私の友達なのだし、私は四葉の友達なんだ。