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男に答えると行きにスーパーマーケットで買った妻への供物をポケットから出し、男が供した華の左横にそっと置く。
「つまらんモノと思うかもしれませんが妻は寒がりだったんです」
供物はカイロだ。使い捨てではない携帯用の銀製懐炉。火はタクシーの中でつけてある。今頃ようやく暖まり始めたようだ。
「線香は買い忘れました。まったく思いつきもしませんでしたよ。でも、あなたが供えてくれたので助かった。礼を言います」
男に頭を垂れた後、墓をじっと見る。
『安らかに眠れ』の文字は浮かんでいない。
墓をもう一度見つめてから一礼し、男を残し、その場を去る。
男の焚いた線香の匂いがツンと鼻を突き、クシャミが出そうになる。けれども何とか堪え、そのまま妻の墓を去る。