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そのショットバーから歩いて数分の位置に昔妻が死んだ場所があったからだ。
殆ど人と擦れ違わなかったのは夜が遅かったからか。
あくまでわたしの推測だが、妻がそのビルの下を通ったのは古書店に寄るためだ。事故後に見つかった妻のバッグに、ある古書名と、その取扱店の名を記したメモが残される。
ある種の稀覯本を読むことが当時の妻の唯一の趣味だったと思う。あのときは以前から探していた明治中期の幽霊譚をその古書店で見つけ、目をつけていたらしい。
まさか、その行為が死に繋がったのか。
まるで関係なかったのか。
いずれにしろ妻の死は避けられないことだったのだろうか。




