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「まさか、本当にいらっしゃるとは思っていませんでしたわ」
次の週の水曜日の夜、潰れずにまだ営業していたかつての行きつけのショット・バーで杯と半券を重ねていると、ゆらりとした風とともに彼女が現れる。
「一度だけだと思われますか。それとも二度、三度……」
「わかりかねます。記憶が定かではないんです」
「わたしの方は憶えています」
そのとき彼女が浮かべた妖艶な表情には憶えがある。
「残念なのは当時あなたにその認識がなかったことです。そして結局は妹の戸惑いがもたらした短か過ぎる関係」
「それをもたらしたのは、あなたの方だったのかもしれませんよ」
「その通りかもしれません」




