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妻との間に子供はない。
それは、どちらも望んでいなかったからか、それとも単に恵まれなかったからなのか。
だが元不倫相手との間に子供ができるとは思えない。彼女が望んで、いつも避妊処理をしていたからだ。
それなのに『安らかに眠れ』の文字が瞳の中に顕れたという。
rest in peace
『安らかに眠れ』yasuraka ni nemure
両方の文字で共通する部分を頭から消してみる。
restinpeace
yasurakaninemure
estinpeace
yasuakaninemure
stinpeace
yasuakaninmure
tinpeace
yauakaninmure
tnpeace
yauakannmure
tpeace
yauakanmure
tpace
yauakanmur
tpce
yuakanmur
最後に残った文字 yuakanmur を日本語として読むために、三文字目のaをrの後につける。
yukanmura
ゆかんむら
パソコンの辞書にそれを変換させる。
現れた言葉は『湯灌斑』。
『ゆかん』には『油間』『湯間』、『むら』には『村』『群』『屯』『邑』『邨』という文字も合致する。
もちろん字の切り方は他にいくつも考えられるだろう。
解釈に意味があるわけでもない。
近くにあった辞書で確認してみると『湯灌』とは『仏葬で棺に納める前に遺体を湯で清めること』とある。
司法解剖後、できるだけ復元/縫合された妻の遺体を棺に納めるとき、湯――といってもぬるま湯だったが――で死体を拭いた憶えがある。
確か死斑もあったはずだ。
しかし、だから何だというのか。
答えなど無論あろうはずもない。




