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人はいない。
自宅のドアの前に立ったとき、一瞬それからも疎外されているような気がして落ち着かない。だから鍵を開けて中に入り、奥の部屋の電気を点ける直前に鳴った電話には心底吃驚してしまう。そんな心理的な遅れが仇となったか、送受機を取ったとき、もう電話は切れている。
ツーッという音だけが耳の奥に残る。
それから外でサイレンの音が聞こえる。人の集まるザワザワとした気配がする。ベランダに出て覗くと向かいの建物の中に小さな火が見える。
その中で女が焼死中だったらしい。
事件の全容を知ったのは、もちろん翌日のことだ。火事自体は大したことなく殆ど小火だったらしい。
女が死んだのは自殺意図があったからだ。少量の石油を被って自殺している。
知り合いの女ではないが新聞によるとずっとそこに住んでいたらしい。だから何度か見かけたことがあったかもしれない。
過去に……。




