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街に戻ってしばらくの間『安らかに眠れ』の文字を見かけない。
その代わり……といっては不謹慎だが、近くで人死にが相次ぐ。
まず社内で二人。
二人とも開発部の人間だったので深い付き合いはない。だが、その一方には取扱商品初期不良の件で世話になっている。もう一人は何故か朝のエレベーターで良く乗り合わせるという間柄。
その次はわたしが住んでいる高層アパートの同じ階の住人が死ぬ。こちらも深い付き合いはない。朝または晩に稀に顔を合わせるくらいだ。そういえば、昨年の終わりというか今年の初めに破魔矢を納めに行った近くの神社で会っている。こちらは一人、向こうは家族三人だ。
そこまでが不慮の事故死。いずれも車に跳ねられたことによる他界。死んだ時間も場所もまちまちで共通項はない。
けれども次の一人には吃驚する。
居合わせた駅ホームからの身投げだったからだ。知り合いではない。もっとも何度か同じ車両に乗り合わせたことはあったはずだ。フラフラと何かに誘われるように身投げする。男が線路に飛び込んだとき、近くにいた乗客が、しばらく大声で叫び続ける。時間は夜の九時過ぎか。その日は逡巡してから別経路で家に帰る。疲れていたので飯も食わずに寝てしまう。当然のように夢も見ない。




