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46 レゾ

時間がかかると思っていた陶板画の人物の捜索だったが、探し人の情報は意外な所からすぐにやってくることになった。

数日後、仕事から帰宅して告げられた俺宛ての手紙。執事に差出人を確認すれば祖父からだった。


「お祖父様からか?」

「はい、何やら火急の用らしいですね」

渡された水色の封筒を眺めながら、俺は眉を顰める。

通常の手紙は真っ白い封筒を使用するのだけれども、うちでは火急の場合は色付の封筒を使用する事になっていたからだ。そうすれば中身を見ずとも急ぎかそうではないか把握できる。


「一体なんだろうな」

ペーパーナイフを受け取って封を切り中身だけを抜き取るとナイフと封筒を執事へと渡し、俺は便箋を持ったままソファへと腰を落とす。

ゆっくりと便箋に描かれた文字を追っていくうちに、この手紙の重要性が判明していき目を大きく見開いてしまう。


「これは……」

手にしている便箋に書かれていたのは、祖父に弟子入り志願者が現れたということ。しかも、その志願者がなんでも若かりし頃のセラフィの父である侯爵にそっくりらしい。

訝しく思った祖父は、俺からセラフィに知り合いかどうか尋ねて欲しいそうだ。

その名がなんとあの陶板画を渡した謎の女性の息子と同じレゾ。


――テルネ国のリフィス伯爵子息か。テネルは遠いけれども、行けなくはない距離だな。休暇申請して行ってみよう。


ずっと長期休暇取得をしていなかったため、団長に休むように急かされているので問題なく休暇取得も可能なはずだ。

早速、明日にでも申請してみるが、その前にレイン様にも連絡をしておこう。









「……いらっしゃっていたんですね」

休暇申請が無事におりテルネ国に滞在している祖父が待っているフォーマルハウト家の別邸へとやって来たのだが、そこで待っていたのは祖父だけでなくレイン様もだった。

いつも通りにこやかな笑みを浮かべ、俺を見ると軽く手を上げて見せている。

俺よりも早いってどういうことなのだろうか。


「……いつこちらに」

「前日」

穏やかに微笑んでいるベリル様を見て、だったら一声くらいかけてくれてもいいんじゃないか? というお小言をいいそうになったが口を噤む。


「レゾがもうすぐ来るのだが、まさかセラフィの異母兄の可能性があるとはな……」

祖父は深い溜息を零すと深くソファへと身を預ける。


「でも、彼なら僕達の計画を実行に移すことが出来る。まぁ、彼が望めばだけれどもね」

「確かにそうですね。侯爵家の血を継ぐ彼がカストゥール家を継承するとなれば、貴族院も納得するはずですし」

「まぁ、一応切り札を持ってきているから、彼が渋ったら使ってみるよ」

そう言ってクスクスと喉で笑ったレイン様に対して、俺と祖父は瞳を交わらせた。


――切り札?


台詞の真意を尋ねようとすれば、メイドが来客を告げたので中断されてしまう。

どうやら待ち人が来たようだ。


扉が開かれ飛び込んで来た青年の姿を捉えたが、俺は侯爵の若かりし頃の姿を見たことがなかったので首を傾げる。

だが、レイン様はセラフィと付き合いが長く肖像画などで見たことがあったのか、目を大きく見開いていた。


「本当に似ているね。侯爵に」

そのレイン様の言葉にレゾが顔を険しくさせ、悪い意味で顔を真っ赤に染めた。


「僕の父はリフィス伯爵だけです」

怒鳴る様に叫んだレゾに対して、ベリル様は「癪に障ったかな。ごめんね」と対応。

どうやらレイン様の発言は彼にとって不本意な台詞だったらしいということを理解したと同時に、侯爵のことをあまり好んでなさそうな印象を受けた。


「まぁ、とにかく座りなさい」

「……はい」

祖父の言葉に素直に従ったレゾは、空いているソファへと腰を落とす。


「それで単刀直入に聞くが、君は侯爵の血を引いているのか?」

「えぇ、最悪なことに入っています。母がリフィス伯爵と結婚した時には僕が物心ついている年齢でしたし、母に伴われ侯爵家に行ったことがあります」

「セラフィに会った時の話か?」

「ご存じなんですね。えぇ、そうです。その時に母から聞きました。彼女が僕の異母妹だと。王都を離れる前に母はセラフィに会わせたかったらしいです。セラフィは知っているんですか?」

「いや、知らない」

「……でしょうね。知らないままの方が良いのかもしれません。こんなに複雑な気分になるのは自分だけでいい」

自嘲気味笑ったレゾは、深くため息を零す。


「だから僕は復讐したいんです。僕と母を捨てたあの人に」

「なんで商人に弟子入りなんだ?」

「あいつらよりも金持ちになって見返してやりたかった。それに、伯爵家は本当の血の繋がりがある弟が継ぐべきだと思っていましたし……」

「そういうことか」

彼も色々葛藤があったのだろう。

苦痛に満ちた表情は長い年月でレゾもセラフィ同様に血に縛られてきたのを感じた。


「ねぇ。復讐ならちょっと侯爵家を継いでみない?」

「え」

まるで近所に散歩でも行かない? というように軽く唐突なベリル様の発言にレゾが固まった。いや、レゾだけではない。俺もお祖父様もこいつ何を言っているんだ? というよううな表情でレイン様を見ている。

単刀直入に伝え過ぎだし、もっと柔らかな言い方があると思うのだが……


「勿論、そうなると侯爵の血を継いでいるってことは公表しなきゃならないけどね」

「あの……侯爵家にはセラフィ達が……それにまだ侯爵夫妻は健在ですが……」

「セラフィは侯爵家に関することは放棄するって。それに、彼らはもうすぐこの世から抹消されるから大丈夫だよ」

にこにこと微笑みながらエグいことを言っているレイン様に対して、レゾは恐怖を覚えたのか仰け反った。


「まさか、殺害するんですか?」

「物騒なことを言わないで欲しいなぁ。ただ、彼らには表舞台から消えて貰うだけだよ。事故死としてね。ただ一生軟禁されるだけ。僕としてはセラフィにした仕打ちを考えると今すぐ消えて欲しいけどね」

「葬儀は大々的にあげるつもりだ。あいつらがもし逃走した時のことを考えて、世間では彼らの死を印象付けないとならないからな」

「セラフィはひっそりとあげようと考えるかもね。そのあたりは君に任せるよ。で、レゾ。こちらの条件を引き受けてくれるなら君の願いを叶えてあげてもいいけどどうする?」

そう言ってレイン様はソファ隣に置いていた封筒を取り出し差し出す。


「これは……?」

首を傾げながらレゾは封筒を開けて書類を取り出し眺め始めれば、顔を真っ赤にして口をぱくぱくとさせながらレイン様へと顔を向けた。

そんな反応を目にしながら、俺は封筒の中身が気になって仕方がなかった。


「な、なぜ知っているんですかっ!?」

「秘密。それより引き受けてくれるかな? その書類のご令嬢との縁談こっちで纏めてあげるよ。彼女家とは祖父が懇意にしていて伝手はある。それに、侯爵家を継ぐならば、君の思い人である彼女との身分差もなくなる」

「誰にも言ってないのに恐ろしいんですけど……」

両手で抱きしめるかのようにしてがくがくと震えているレゾの方を軽く叩いて励ましてやりたくなった。

どうやらさきほどの切り札というのは、レゾの好きな女性との縁談のことらしい。

ほんとうにこの方の情報源は一体どこなのだろうか。


「こんな好条件逃す術はないよ。君は好きな人を諦めずに済むし、引きずり落とされた侯爵はプライドをズタズタで君は復讐を遂げられる。軟禁された彼に会わせてあげるよ?」

「……」

レイン様は商人になっても成功すると思う。

駆け引きが上手というか、相手を手中に入れるための手札を持っているからだ。


「……やります」

「ほんとー? 嬉しいなぁ」

と、にこにこしているレイン様を見て絶対に敵に回したくないと思った。





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