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45あの家から解放させてあげたいんですよ

「レイン様、どうやってこちらに? 玄関の施錠はしっかりとしたはずですが」

突然現れた彼の登場に、俺は眉を顰めた。

廊下を歩いてくる足音も気配もなく、ぬっと幽霊のように現れるとは本当にこの人は何者なのだろうか。


「鍵? この家の合鍵は僕も所有しているからね」

そう言って彼は胸ポケットから鍵を取り出して見せる。

もしかしたら、両家が懇意にしていて合鍵を渡す仲なのだろうと一瞬頭に過ぎったが、この人のことだから勝手に作ったんだろうなぁと推測し、あまり深入りをするのを避けるために口を結んだ。


「へー。珍しいね。レダも一緒だなんて」

にっこりと微笑んだレイン様に対し、レダは忌々しそうに唇を歪ませている。セラフィとレイン様が旧知の仲なので、勝手にレダもそうだと思っていたがどうやら違っていたらしい……


「今日は大丈夫なんだろうね? セラフィの事一人にして」

「アトリア様の所でお茶会に参加中。それに必ず誰か傍にいるように言ってあるから心配ないわ」

「そう。僕は心配で仕方ないんだよ。この間のようにどっかの誰かさんがしくじったせいで可愛い幼馴染の身に危険が迫ってしまうのが……ねぇ、レダ。君は忘れてないよね? 君が生かされている理由を」

目を鋭くさせ腕を組んだレイン様がレダを見下ろした。


「私はあんたに言われているからお嬢様を守っているんじゃない。私にとってお嬢様が大事だから」

「君がどう思おうが心底どうでもいい。あの時処刑台に立つはずだった君が生きている理由は、セラフィにとって役に立つか立たないか。ただそれだけなんだよ?」

「ちょっと待ってくれ。処刑台ってなんだ?」

人には合う合わないとあるから仲が悪くても別に不思議ではないが、処刑台という聞き逃せないフレーズのせいでつい口を挟んでしまう。

うちで雇う時に一応、職歴を確認するために書類を見たが、セラフィに仕える以前が全て不明だった。そのため、雇うのをためらったがセラフィに責任は取ると言われ現在に至る。


「まぁ、君とセラフィは長い付き合いになりそうだし。レダの件を知っておいた方がいいかもしれないね。前侯爵。つまり僕の祖父が数年前に襲撃されたのは知っているかい?」

「えぇ。犯人未だに捕まっていない未解決事件ですよね」

「その犯人。この子」

「はぁ!?」

弾かれたようにレダを見れば肩をすくまれてしまう。


「でも、見逃してあげたんだ。セラフィのために。一応護衛として使えそうなレベルだし、あの時はマリー様も亡くなって間もなかったからセラフィの精神状況良くなかったからね。あぁ、そうそう。上の連中は知っているよ」

訳ありとは思っていたが、まさかそんな深い話だったとは。


「おい、レダ。言えよ!」

「過去より未来の方が大事だと思いませんか? それに前職が暗殺者ですって素直に書類に書いたら雇わないじゃないですか」

「確かにそうだな。いや、でもな……重要案件だと思うんだが」

「それで? 何か見つかったのかい?」

ベリル様の問いに、俺は当初の予定を思い出した。

レダの正体で若干消えかかってしまっていたが、ここへやって来た目的を。


「いえ、まだ。ただ気になる事が一つ。この置物をセラフィに渡した瑠璃色の髪を持つ貴族をご存じですか?」

俺はレイン様に見つけた例の物を手渡した。

どうしてその女性はセラフィにこのレゾの置物を贈ったのか気になる。きっと何かしら理由があるはずだ。

もしかしたら些細な理由なのかもしれないが、引っかかるなら調べるべきだろう。


「レゾの作品だね。知らないなぁ……というか、その件報告受けてないんだけど?」

じっとレイン様はレダへと視線を向けるが、レダはぐっと眉間に皺を寄せ口を開く。


「すぐに侯爵に奪われましたので。それにその方は一度だけしかここへ訪ねて来ていませんし」

「これが気になるの?」

「えぇ。侯爵ではなくセラフィに渡したという事です。どうしてセラフィに? まだこういう芸術品の価値がわからない年頃ですよ。贈物ならもっと適したものがあるはず」

「まぁ、確かにそうだね。わかった。念のためにその貴族を調べて置くよ」

「お願いします」

「僕はそろそろ戻ることにするよ。お茶会にお邪魔して、アトリアとセラフィの顔もみてこなきゃならないし」

レイン様はにっこりと微笑むと、「じゃあね」と言い残して廊下へと通じる扉へと消えていく。

それを見届けたレダは、「はぁ~」と深い息を吐き出した。視線を向ければ、彼女は行儀悪く執務机に腰を落としながら、腕を組んで苦々しい顔をしている。


「苦手なのか? レイン様が」

「苦手じゃないですよ。ただ、嫌いなんです。何でもかんでも自分の思うままに物事進むと思っていそうで。私はあいつの命令でお嬢様の傍にいるわけじゃない。私が居たいからいるだけ。それより、もし仮に侯爵の血を引く者が見つかったとしてどうするんですか? 代替えをしようにも侯爵は絶対にその地位を譲りませんよ」

「わかっている。だから、侯爵達には死んで貰うつもりだ」

「あぁ、私の出番ですか」

「暗殺しろなんて言ってないだろ。侯爵達を死んだことにして相続で代替わりと考えている。国葬級の葬儀をおこなって、世間に亡くなった印象を持たせるつもりだ。上の連中もその案なら侯爵家が続くからと納得した……まぁ、侯爵の血を引く者がいてそいつも納得すればの話だがな」

トントン拍子にうまくいって欲しかったが、なかなか状況はうまくいかないようだ。

セラフィの話を聞いて、一人か二人はいるような気がしたんだが……


「侯爵達を世間から死んだことって、監禁でもするつもりですか?」

「いや、そこはレヌー家次第だ。そこに侯爵達の身を預けるつもりだからな」

処遇をどうするか一番迷ったが、侯爵夫人の生家に任せようと思っている。

勿論、圧力をかけるのも忘れない。もし万が一に見つかった場合、レヌー家は廃止するという脅しつき。

今まで娘の暴走を見て見ぬふりしていたのだから、レヌー家には最後は責任を取って貰う。



「なるほど、そういう考えだったんですか。なら、さっさと続き捜索しましょう」

「急にやる気に満ち溢れたな」

執務机から降りたレダは、先ほどと違いちょっとした変化を見落とさないように周辺を見回し始める。瞳も顔つきも先ほどとは違い真剣そのもの。


「当然です。状況がわかったんですから。それに私は、早くお嬢様をあの家から解放させてあげたいんですよ――」



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