26 追加で双子設定
――またお前らか。
いや、またって私が騒動を起こしているような言い方はやめて欲しい。
そんな事を思うと同時に、彼が来てくれたなら安心! という思いも湧いて出て来ている。
もしかしたら町の人が騎士を呼びに行ってくれの? とも考えたけれども、それにしては早すぎる。
なので見回りか何かの最中でちょうどその辺にいたのだろう。
声のした方向へと顔を向ければ、白の騎士服に身を包んでいる名義上の自分の夫の姿が。
彼は腕を組んで呆れかえった顔でこちらを見ていた。
「おい、なんでここにいるんだ?」
「えーと。セラフィ様のお使い?」
「はぁ?」
顔を顰めながら、ベリル様は声を上げた。
えぇ、確かにそうでしょうね。セラフィは私なので。
「はっ。なんだ、誰かと思えば成金野郎じゃねーか」
その一方のレグスはと言うと、ベリル様を見て鼻で笑った。
そんな態度を取られたベリル様の様子を窺えば、慣れているのか至って通常通り。
けれどもそんな彼と違って、私はぐっと眉間に皺が寄った。
――なんて感じが悪いやつ!!
「血筋目的でカストゥールのアバズレ女を金で買ったって、俺らのような元から高貴な貴族には敵わないっつうのに。いくら金を持ってようが、所詮お前らは庶民のままなんだよ」
「成金結構じゃないの! お金なんて無いよりあった方がいいわ。腐らないし、あると嬉しいし。大体、フォーマルハウト家って並大抵のお金持ちじゃないのよ? 伯爵家の本棚いくらなわけ?」
それには私が咆哮の如く叫んだ。
自分でも驚くほどの声量。アバズレなんて言われ慣れている。
勿論、事実ではないが、夜光蝶ならその通りのイメージを植え付けているので問題はない。
でも、ベリル様の事を言われるとこんなにも腸が煮えくり返りそうになる。
きっとこれは普段お世話になっているからだろう。
本当ならロロ様達が駆け落ちしたからこの結婚は白紙撤回出来る。
それでも屋敷を追い出さないでいてくれているのだ。その恩恵を受けている身な私。
ベリル様も初対面の時印象は最悪だった。我を忘れて胸ぐら掴んでブチ切れたぐらいに。
でも彼はちゃんとおばあさまの事を知り後で謝罪してくれた。
だから、この無礼なレグスとは違う。
「なんでお前がキレているんだ?」
ベリル様は庇われると思わなかったのか、首を傾げている。
「衣食住保証してくれているから! というか、今はそれどころじゃないでしょう! 屋敷の本棚はなんか珍しい木で出来ていて目玉飛び出るぐらいなのよっ!」
「なんか珍しい木じゃなくて、沈木。お前、覚えるつもりないだろ。それ以前に本棚関係ない」
「……えぇ、確かに旦那様の言う通り本棚関係ないと思いますよ。マリー」
「わかっているわ。つい、出ちゃったんだからしょうがないじゃないの。あれ、未だに引きずってんのよ」
「完全に話が逸れています。まぁ、いいでしょう。……というわけで、改めて自己紹介をさせて頂きます。レグス様。私達がその噂の金で買われたアバズレを主に持つ侍女です。以後お見知りおきを」
「……なっ」
青天の霹靂だったのだろう。
レグスは言葉を失ったらしく、魚のように口をぱくぱくとしている。
典型的な貴族様は爵位に弱いのだ。
カストゥール家は仮にも旧貴族で侯爵家。しかも、あのフォーマルハウト家との縁組により、金銭面の強力な後ろ盾がある。ただの伯爵家ごときが敵うはずがない。
「丁度私達、セラフィお嬢様のお使いの最中なんですよねぇ。急ぎって言われたのに~。途中で邪魔されてしまったのをお知りになられたら、きっとお怒りですよ。あぁ、怖い。でも、仕方ありませんよね。レグス様が私達を引き留めたので。ご安心を。ちゃんとアバズレ発言など報告しますので」
わざとらしい棒読み台詞のレダに、レグスは「ちっ」と舌打ちを残すと、早々と馬車へと乗り込んだ。
どうやらこの場が不利と判断し、逃走するらしい。賢明な判断だ。
レグスを乗せた馬車が道路の奥へと消えていくのを眺めながら、私は深い息を吐き出す。
「……何か悪い霊でも憑いているのかしら? やたらと最近絡まれるのよね」
しみじみと心の底からの声が漏れる。
「前回も今回もお嬢様のせいです」
「私っ!?」
「禍根はそうじゃないですか。お嬢様が厚化粧を取ったせいです。いい加減、自分の顔を理解して下さい。可愛いんですから。中身は残念だけど」
「残念って何よ! ……って、ちょっと待ちなさい。厚化粧じゃないってば。あれ、ナチュラルメイク!」
「嘘つけ。お前、顔を取り換えたように違うんだぞ。あの化粧スキルは神の領域だ」
ベリル様までレダを肯定するような発言をしてしまっている。
「神……まぁ、悪い気がしないわね。それぐらい私の腕が凄いって事だし」
「お嬢様はすぐ調子に乗る。それより、旦那様。どうしてこちらへ? 見回りですか?」
「あぁ、そうだ。見回りの途中に騒いでいる連中がいるなと来てみれば――……」
思いだしたかのように、ベリル様が唇を開けば、
「隊長!」
と、声を遮るように地面を蹴る音と共に第三者の声が飛び込んで来た。
そのため全員がそちらに気を取られ視線を後方へと向ける。
するとそこには、ベリル様と同じような騎士服に身を纏った青年が、右手を大きく掲げ左右に振りながら駆けて来ているのが窺えた。
何故だろうか。そんな彼に尻尾があるような幻覚が見えてしまうのは。
彼が飛ぶように走るたびに、短めに切り上げた茶色の髪が風により左右に跳ねさせている。
「あっ、ここにいらっしゃったんですか? 急に走っていくから心配しましたよ。……――って、ああっ!」
その青年は私の方を凝視すると、指をさして叫び出してしまう。
どうやら彼は自分の事を知っているようだ。
夜光蝶ならば不特定多数に知られているはず。でも、今はスッピン。
あれ? 誰だっけ? と小首を傾げながら、じっと観察するように眺めるが思い当たらず。
「前に酔っ払いに絡まれていましたよね?」
「あぁ、あの時の……お世話になりました」
「いえいえー。あっ、俺ルデンって言います。これもきっと何かの縁ですね。もし良かったら今度食事に……って、あれ? 今日はどうして侍女服なんですか?」
犬のような丸いつぶらな瞳を大きく見開きながら、ルデンは尋ねてきた。
「えっ」
それに私は言葉を詰まらせて、顔を引き攣らせてしまう。
まさか、白竜騎士団潜入の時も出会っていたなんて。
どうやって誤魔化せばいいのだろうか。
跳ね飛ぶ心臓を押さえ、睫毛を伏せた。すると、意外な人物が助け船を出してくれた。
「双子だ。この間のメイドはナリー。そして、こっちがセラフィの侍女をしている妹のマリー。この間酔っ払いに絡まれていたのはこっちだ」
そう告げたのは、ベリル様。
「そうなんですか! てっきりこの間城でメイドをしていたのは、マリーさんだと思っていました。僕、間違えちゃいましたよ。そっくりですね。一卵性ですか? お姉さんも可愛いですが、マリーさんも可愛いですね。しかも、あの夜光蝶の侍女なんて凄いです」
上司の言葉だからなのか、それとも根が純粋なのか、ルデンは顔を輝かせながら私へと視線を注いでいる。
「えぇ、一卵性です。よく似ていると言われます」
「羨ましい……っ! あのセラフィ様のお傍にいれるなんてっ! 是非俺も一度生でお会いしたいと、ベリル様にお願いしているんですよ。それなのに、全く取り合ってくれないんです。そりゃあ、確かに俺みたいな男じゃ会話もしてくれないと思いますけど」
「そんな事ないと思いますよ?」
「マリーさんは優しいですね。ですが、いいんです。俺もわかっていますから。高嶺の花ですもんね、あの方は。あの男達の願望を具現化したような容姿。俺、セラフィ様が掲載されている記事全て保存用と観賞用二部ずつ購入しているんですが、その紙面からも溢れ出る艶やかさ。俺、絶対にセラフィ様がお忍びで変装しても分かりますよ」
「……」
熱が入っているらしく、ルデンは頬を染め拳を握りながら、前のめりになり力説している。
その様子に、私はただ乾いた笑い声を上げた。
当の本人が目の前にいますよ?
……なんて言えるわけがない。あれは完全に雰囲気も全て作っている偽り。
今は素だ。だから、彼が気づかないのは無理もない。
以前ベリル様に男の夢壊すなと言っていたが、今は少しだけ実感した。




