プロローグ
唐突に感じた熱。それは少年の体の中から生まれたものだった。だんだんと大きくなるそれを抑えることができずに、少年は感ずるままに両手を前に突き出した。
その瞬間――。
目がくらむような光と爆音。少年の手から生み出された熱は光となり、身体の外へとはじき出される。
すると、少年の目の前にあったはずの机が、椅子が、隠してあった宝物の綺麗な石が、夕食に食べるはずだった大好きなシチューが、死んでしまった父と母の唯一の思い出である小さな玩具が、毎日遊んでいた森が、その先に住んでいた樵のおじさんの家が、崖を渡るための橋が、見渡す限りの風景全て、全てが。そう全てが消え去っていた。
一緒に暮らしていた祖母の姿さえも。
「な……なん……」
少年の想いは言葉にすらならず、ただ、何もなくなった荒野を見つめていた。涙だけは静かに流れ続けたが、それがどんな意味を持つのか、今の少年にはわからない。
『ほら、泣かないよ。強く生きなきゃならない。いつでも、ガイレス様は見守っていてくださるさ』
ふと祖母の声が聞こえた気がして少年はあたりを見回す。だが、やはり、視線の先には何もない。ただの地面。それだけが広がっている。
『今日の夕食はシチューにしようかねぇ。今日は肉をもらったからいつもよりは豪勢だよ』
記憶の中の優しい言葉が頭に響く。
「う……う……」
『神ガイレス様は我ら人類に三つの徳の力を授けたのさ。それは信仰、希望……そして愛。これだけは忘れちゃいけないよ』
「うぅ……あっ――」
『私はねぇ。大きくなっていくお前を見るのが好きなんだ。老い先短い私にとっては希望なんだよ……』
「ううっ、ぐっ、うぅ」
『愛しているさ、アクトス』
「ああああぁぁぁぁぁぁっ――――」
少年の叫びは、何もない荒野に響き渡る。その声は幾日も続いたが、叫びを聞き届けたものは誰一人としていない。
いつしか、荒野には静寂が訪れていた。