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【短編】ゆうやけ荘は今日も平和に   【シリーズ】

Merry Christmas☆~佐々木さんの場合~

作者: FRIDAY

 

「なあユーヤ」

「はい何でしょう」

「今日は何の日か知っとるかえ」

「えーっと……」読んでいた小説から視線を泳がせて、僕は考える。女性がこのように問いかけてきたらその答えはおよそ決まっているだろう。ソースは恋愛小説。では考察。記念日誕生日母の日クリスマス七五三元旦さてどれだ。


「今日はあれじゃ、くりすます、とかいうやつじゃ」あ、自分で答えを出しやがった。

「成程、それで?」

「くりすます、というのはあれじゃろう、日頃お世話になっている労働者の母に感謝して貢物をする日じゃろう」なんかいろいろ混ざってますよ佐々木さん。


「というか佐々木さんがクリスマスって、宗派違うでしょう」屋敷神がどこの宗派に属するのかわからないし、田中さんに訊けばわかるのかもしれないけど、まあ宗派というより民間信仰に入るのかもしれないけど、強いて言うなら神道系ではと思うわけで。

「いいんじゃいいんじゃ。細かいことは気にするでない。何かをタダでもらえるという日をするーしてたまるかや」大らかすぎます、佐々木さん。

「えーっと、それで?」

「うむ。何かくれ」さすが佐々木さん話が早い。


「何かと言いましても……」

 何だろう。僕は考える。佐々木さんって何が欲しいんだろう。

 ふむ。思えば、佐々木さんに端的に何かを要求されたのはこれが初めてかもしれない。……こうして思えば、佐々木さんって意外と物欲がないのかも、とすら思える。まあ確かに、ただ居るだけで仕事が成立する自宅警備員、もとい屋敷神の佐々木さんが、物欲に支配されるというのも、まあないか。何かとイベントに乗りたがったり騒ぎたがるのも、ただ今この瞬間を楽しみたいという、それだけなのだろうし。

「…………」

 子供か。


「漠然とし過ぎてちょっと困りますね。もうちょっと具体的に、何かないですか?」

「ない」

 きっぱり言いやがった。

「こういうのは実際に渡されるものがどうこうと言うよりも、ぷれぜんとするという気持ちが大事なことなのであろ?」

「……え、あ、まあ、はい、そう、ですね?」

 思わず疑問形になってしまった……な、なんだってここで佐々木さんがそんな美しいことを。

「だから取り立てて具体的な指定はせぬ。が……そうじゃな、そんなに困ると言うなれば、強いて言うなら……」

「あ、はい。何でしょう。何でも言ってみてください」

 理想が高いのは結構だけれども、卑俗に生きる僕としては具体性があった方が助かるのは確かだ。というわけで、


「強いて言うなら、この国が欲しい」

「…………」

 具体的なんだか曖昧なんだか。

 というか佐々木さん、スケール大きすぎます。


「いや……すみません佐々木さん、さすがに国をプレゼントするのは……」

 僕のお財布事情では果てしなく無理、というか誰のお財布なら可能なんだそれ。

 ある意味ぶっとんだプロポーズですよ、それ。

「そうか……残念じゃ」

 本気でしゅんとなっている佐々木さん。どんな反応されたって無理なものは無理だけれど、さすがに僕もちょっと申し訳なくなって、

「どうしてまた、国が欲しいだなんて」

「どうして、というか……の。まあ、あれじゃ。わっちは外に出たい」

「外に?」

 そう、と佐々木さんは頷く。……これは結構、重い話な。

「外ですか……え、でもそれでどうして国?」

「この国全土がゆうやけ荘の敷地になれば、わっちは自由に歩き回れる」

 スケールでけェ。


「うーん……国を買うのは、さすがに僕には難しいですし……」というか誰ならできるんだそんなことっていう「……佐々木さんの外出も、僕にどうにかできることではありませんが」

 言うと、佐々木さんはさらにしゅんとなった。

「そうじゃな……やはりユーヤでは無理よな。やはりユーヤでは……ユーヤごときでは」

「…………」ぼそっと毒を混ぜないでください。

「でもまあ、前島さんに訊いてみます」

「……前島に?」

「ええ。相談してみるだけなら何てことありませんから」実際にそれがもし実現するとなると、その際の支出はきっと僕の財布から出ていくことになるのだろうけれど……


「本当かユーヤ! さすがはユーヤじゃな、期待しとるぞ!!」

 佐々木さんの満面の笑顔を見て、まあそれでもいいかな、と思う僕なのだった。

 

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