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2Dのチーター  作者: 蒼穹乃風
第1章・《補給隊》と《〇〇》
5/7

《双剣士》と《滑空者》・1       10月25日→26日/141→142

今回はちょっと短いです。

【自己鍛練場内にて】


 ◆◇◆◇

 ――その日の夜。


 ――……493……494……495……。


 誰も居なくなった演習場で、1人黙々と、右、左と足を振ってしゃがんで一回とするタイプのスクワットをしていた。


 ――……496……497……498……。


 ここでこの時間、トレーニングをやっているのは日課になっている。今はスクワットだが、その前には腕立て、腹筋、背筋とそれぞれ500回ずつ済ませている。これをやっとかないと、()()が怒るのだ。


 ――……499…………ご、500!


 無事500回終わり、流石に疲れて座り込むのと、演習場の扉が開いたのはほぼ同時だった。入ってきた相手が、こちらの疲労困憊ぶりに呆れた表情を見せ、ヤレヤレと額に手を当てながら首を振る。


「また筋トレの量を増やしたのかよ? よく持つな体」


 入ってきたその男性――髪の色、瞳の色共に黒(ちなみに肩にかかるかかからないか程度の短髪)で、顔は良い方、体つきはほっそりしているものの鍛えられた肉体を持っている――は、持っていた身の丈(170㎝弱)よりも大きい大剣を近くの壁に立て掛け、いまだに立ち上がれずに居る自分に先刻の表情のまま続ける。


「……って言うか、いつから筋トレ始めたんだ? 結構前だろ?」

「11時、くらいから……慣れれば、やっておかないと……寝れなくなる……」

「今12時15分くらいか……本当によく持つな、筋トレ5種目()()()回ずつだろ? ……1回3秒かよ!? 休憩時間無しでそれだろ、もっと時間かかるだろ普通……」


 その人の言葉にそのまま流れで首肯しかけて、寸前で止めて訂正する。


「……()()……それ、()()()までの話……今筋トレ、5種目500回……」

「……もう、何にも突っ込まねーよ……筋トレの鬼かよ……」


 ……何か呆れられたし。しかも微妙な顔してストレッチ始められたし。


 口元をへの字にしている自分の数歩前辺りで、毎度の事ながら惚れ惚れする程綺麗な姿勢で柔軟をするその人。自分にとって先輩に当たるその人は、立った状態での前屈、アキレス腱、開脚と簡易的な柔軟をやりつつ、顔だけ此方に向けて問うた。


「……俺も自己鍛練の鬼って呼ばれてるから人の事言えないけどよ……それにお前筋トレの前に5キロとか走ってなかったかいっつも?」

「ああ……確かに走って……る。ハ~……えっと、それも最近増やして、今7.5キロくらいは――」

「走りすぎだろっ!? それも含めてこの時間か!? どんだけのペースでやったんだよお前!?」

「……まあ最初5キロは普通に走って、2.5キロはインターバル有りにしてるし、『筋トレを始めた』のが『11時』であってここに来たのはもうちょっと前だけど」

「……だよな、そうだよな、若干お前がおかしな事言い出したのかと思ったぞ……」

「あの、……それはちょっと酷い……」


 頭を抱えて唸るその人に、流石においと突っ込みたくなったが自重する。


 と言うのも……本当なら、タメ口で話せない様な人なのだ、相手は。

 その人こと、(ソウル)滑空者(ソアラー)先輩。第2等官であり、18歳ながらに《調査隊》のリーダーでもある、MSPでも四聖獣に次いで超の付く程の有名人だ。第7等官になりたてである自分が、そうおいそれと会話出来る相手でもない――の、筈なんだけどなぁ。


 なのに、自分が滑空者(ソアラー)先輩とタメ口なんてきいている理由は、


「最近、ここ1週間ほど来てませんでしたよ――」

「はいそこ、敬語禁止」


 と言った感じで、滑空者(ソアラー)先輩の方が敬語使うなと言ってくるからだ。本人曰く、夜の間くらい序列を忘れていたいとか。


「……来てなかったけど、何かあったの?」

「んーまぁ、任務の方が忙しかったからな……お前は毎日来てたんだろ?」

「……まぁ。鍛練って毎日やらないと意味無いし……」


 ちなみに、知り合った経緯的には、自分が夜な夜なここで鍛練をしていた所に、滑空者(ソアラー)先輩が来て、丁度良いからと鍛練の練習相手になっているからだ。成り行き的なものだしここでしか会わない(と言うか会えない)ので、滑空者(ソアラー)先輩の方は自分の名前すら知らない筈だ。


 ……多分。


「……よしっ」


 準備体操兼柔軟を終えた滑空者(ソアラー)先輩が、勢いよく立ち上がりつつ大剣を手に取る。その姿は元気そのもので、いつもの事ながら首を傾げる。


「んじゃ、今日もやろうぜ」

「……眠くないの? こんな時間なのに」

「……いやそれ、2時間以上も早く来てトレーニングやってるお前には言われたくないぞ……まあ、昨日も殆ど寝てないけど、今はそんなに感じないなぁ……」

「へぇ、そうなん……先輩、今日来たのちなみに10時です……あーと、今日の『ルール』は?」

「ん~……出来るだけ『逆転ルール』だけど、『通常ルール』の決着もありって事で――おいちょっと待て、7.5キロ30分弱で終わらしたのか!?」

「? そうですけ「敬語禁止!」ど……そんなに驚く事かな……」

「いやおかしい、インターバル状態を2.5キロ挟んでるにも関わらず30分で終わるのはおかしいぞ!」

「……?」


 ……おかしいのか……? 師匠が絡むともっとスパルタなんだけど……。


 ◆◇◆◇

 で、1分後。

 無音無言状態の演習場内で、お互いの武器を構えて睨み合う。


「「…………」」


 向かい合ったまま、室内の時間だけが停止したように動かない。唯単に動かないんじゃなく、相手の動きが互いを牽制してるだけで、何かきっかけがあれば――。


「……へっ……」


 薄く笑い、滑空者(ソアラー)先輩の大剣を注視しつつその行動1つ1つに警戒する。この真夜中の手合せははや2ヶ月近くも経っているが、最近剣技は相手の行動が予測出来なくなってきた。


 ――……成長してんのかね、ちゃんと……。


 微笑が苦笑に変わったか、滑空者(ソアラー)先輩が首を傾げる。その隙に手の中の武器――双剣を握り直し、数回スーハ―……と息を整え、もう一度吸い、グッと止め――、


 ザッ……!


 飛び出した。滑空者(ソアラー)先輩も半秒だけ遅れて同様に。


 双剣で右、左、右――連撃で大剣を封じつつ、右足で相手の膝あたりを蹴る。失敗。難なく避けられ、逆にバランスを崩された。仕方なく右手をつき、左足で大剣の柄を蹴り上げ吹き飛ばし――きれず、跳ね上げるだけに留まる。


 ――重すぎるんだよこの大剣っ!


 叫びつつ(勿論脳内で)、側転しその反動で斬り付ける。唸りを上げて飛んでくる大剣に勢いを全てぶつける――が、重さを相殺し切れず左後方へ吹っ飛んだ。クッと歯を食いしばり、空中で1回転、目前にまで迫った壁を思いっきり蹴り返し、背後に回って逆手に握り返した右手の剣で斬りかかって――、


 ――またっ……。


 それも予想されていた。双剣が(自分から見て)右下方向からの切り上げと噛み合い、連撃を加えるものの、微動だにしない滑空者(ソアラー)先輩と睨み合う形に。()()()()、少々切り札を切った。

 いきなり発生した圧力に、さっきまで全く動かなかった滑空者(ソアラー)先輩が斜め上方に吹っ飛んで壁に叩きつけられる。


「グッ……!」


 そこから一気に畳み掛ける。丁度落下してきた滑空者(ソアラー)先輩の腹部に双剣の柄で殴打を加える。そのまま斬撃を――、


「…………な、」


 いきなり視点が180度回転した。ドン、と押し倒され、双剣が手から吹っ飛ぶ。手の上から膝が乗せられ、動きを封じられる。ギロチンの様に大剣が首元に迫って――、ピタ、と止まった。


「…………」

「……これで終わりだな? ……『逆転ルール』の判定じゃなかったが……」


 無言で溜息を吐いた。滑空者(ソアラー)先輩もそれで認めたらしく、大剣が首元から引く。遠くにまで転がっていってしまっている双剣を拾って背中の吊っている鞘にキン、と収め、忍び寄ってきた眠気をブンブン首を振る事で追い出す。滑空者(ソアラー)先輩も腰の鞘に収めて、


「ふ、ああぁぁぁー……」


 欠伸を連発。あれ? 眠くないんじゃなかったの? と思ったが、緊張が解ければ疲労も感じるか。


 滑空者(ソアラー)先輩はそのまま片手を振り、フラフラ上体を揺らしつつ出口に向かう。


「ン……じゃ、ま……今回は通常の俺の勝利って事で……また、昨日ぐらいにな…………」


 言い終わると、(そういえば昨日もほぼ完徹だと言っていた影響か)扉に頭をガン、とぶつけつつ出て行った。先刻のあの強さは欠片も無い。


 呆れて見送り、服をパンパン叩いてから、慌てて演習場に備え付けの時計を見上げた。午前1時8分。そろそろ戻らないと本当に寝る時間が無くなる。自覚した途端、頭の芯が鈍く痛んだ。


 扉を引き開けて出て行こうとして――、


「?」


 変な光景が一瞬頭をよぎって見えた。


 ここじゃない。けれど先刻と同様に双剣使いと大剣使いが激しく打ち合っている。大剣使いは苦悶の表情、双剣使いは無表情、しかしその頬には涙を伝わせている、そんな光景が――。


「……無い」


 妙だった。さっきの光景が本当にあるとしても、一瞬見えたあの双剣は、多分、背中に吊っている物と同じ物。そして、あの大剣使いは、――先刻まで試合をしていた、あの――?


「…………無い、余計に」


 呟いた。そうしないと、本当にその状況に陥ってしまいそうな気がしたから。

 自分に予知能力があるのか、と問われれば、違うと答える。でも、似た様な現象なら――よく起こるのだ。自分の()()的に。


 頭からその考えを追い払い、演習場を後にしたのだった。




以上です。

Thirdに比べて、大分短い気が……しないでもない様な。うん、大分短いです。半分以下だし。

今回は (ソウル)滑空者(ソアラー)と言う男性が出てきます。

彼は、今後――と言ってもかなり後ですが――よく風と一緒に行動する事になり、話の流れ的にも重要人物になる人です。

とはいえ、 (ソウル)君がよく出てくる様になるにはまだまだ時間かかるんですけどね……。

そういえば、滑空者(ソアラー)って名前、どこから持ってきたんだったかな……?

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