《補給隊》と《開発隊》・3 10月25日/141
うわお……。7000文字だって7000文字……予想以上に長くなっちゃった……。
【バグカオス内にて】
◆◇◆◇
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「五月蝿い、ちょっと黙ってろよ心読……。」
「黙ってられるかああああぁぁぁぁぁ?! 落ちてるんだぞ!? パラシュート無しのスカイダイビングだぞ!? 術の効果で増幅されてるって分かるぐらい不自然に怖いけど、それ抜いても怖いんだよおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」
「とりあえず口調が変わってるのどうにかしろ」
うんまあ、落ちてるのは事実なんだけど。
幻術かけられて、最初に見えたのは山。次いで空。んで風が体に吹き付けているのを確認して、どうやら上空から落っこちているらしいと見当をつける。隣で心読が五月蝿いのに突っ込みつつ、さて着地どうしよう。
切り札を切ってもいいが、心読がいるし現実サイドで《補給隊》の人達も見ている筈なので断念。どうにかして衝撃を逃さなければならないが、落ちているスピードと地面との距離を見て、
「ああこれ、無理だわ」(←オイ!)
と諦める事にした。そこでいまだ絶叫している心読に目をやって、全然着地体勢に入っていない事に溜め息を吐いて、
「――ああああああああぁぁぁぁぁ「心読こっち来い」……え?」(←ん? 風君何するつもりかな?)
心読の腕を掴んで引き寄せ、地面との間に自分が入る様にして。
「――――――――がっ!? ……あ~」(←……あ)
「う、わああ!? ふ、風大丈夫か!?」(←あ、あれ、風君大丈夫かなぁ!?)
「……。大丈夫な訳ないだろ………」(←大丈夫そうですね)
心読のクッションになった。何気に痛いっすね……。挟まれた所為でダメージが体に全て吸収されてしまい、数秒悶える。まぁ、数秒我慢すれば何とかなりそ、
「いや1000m以上上から落ちたのに数秒で回復するってどうなのさ!?」(←あれ、心読君って鷹みたく心、読めたっけ?)
「口調戻すのかよ……こう言うの毎回やってるし、いっつもはお前を庇わなかった分ダメージ逃がすのは簡単なんだけど。今回は庇った分ダメージ残っちまったんだよなぁ――――あ~、左腕使えなくなりやがった」(←ええ、その筈です)
ダメージが抜けてから立ち上がって、ふと左腕が動かなくなっている事に気づいて舌打ち。剣振れないなこれじゃあ……。まぁ右腕で振ればいい話か。……って、
「ご、ゴメン風「謝るのは後、何か来るぞ」……え?」(←お? 気が付いたかな?)
右手で背中に吊られている剣を抜いて構えると、心読も慌てて腰の銃を抜いた。
地面に伝わる微妙な震動を頼りに、敵が来る方向――右後方辺りに振り向いて、
「「……な、」」(←ふはは、さあ、【バグカオス】の恐怖を味わえぇぇぇ!)
2人で絶句。何故なら、落下地点の丘から見える位置に来たのは――(←青龍様、その発言はアウト)
「……あれ、」
「……ゴキ〇リだよな……デカ過ぎるけど」
俗にGと呼ばれる黒い虫が、周囲にわらわらと寄ってきていた――ただし、身長を遥かに超える高さの。
「……うわあ、嫌だね……これ、全部倒さなくちゃならないの?」(←あ、あれ? そんなに嫌がってない?)
「…………どーだか。術の解除方法が分からないと――っておいおい、毛虫とか蜘蛛まで来るのかよ……」
目線の先のGに隠れる様に出てきた毛虫や蜘蛛、百足や蟻などのキモイ系昆虫に2人でゲンナリとするものの、そんなに精神的に来たと言う感覚は無い。心読は元々苦手ではないし(研修棟Sクラス時代に教室で百足が大量に発生した事があったが、心読は普通に駆除していた)、自分は《補給隊》での活動で似た様なモンスターを日頃狩っている所為で慣れてしまっている。
とそこで、もう虫共に埋め尽くされて見えにくいが、地面に巨大な魔法陣が描かれていて、そこからモンスター達が出現しているのに気づく。(←……彼等、《パトロール隊》に《補給隊》の1員ですよ? これくらい慣れてるんじゃないですか?)
「……あー心読、多分それだわ。あと、魔法陣を――どこまでか分からないけどぶっ壊せばこの術止まるかもなぁ。ただ虫が増えるのが止まるだけかも知れないけど」(←じゃあ、もっとグロい虫を投下した方が良かったのかな?)
「うんじゃあ、とりあえずこいつ等を倒していけば良いんだね?」(←でももう組み込めませんよ?)
「多分」(←そこは後で微調整だね)
「……そこは断言しようよ」
そう言って心読が虫の群れに突っ込んだ。それに続いて行こうとして、ふと気づいた事を数秒で済ませてから、改めて群れの中に飛び込んだのだった。
◆◇◆◇
約20分後。
「おー……い……心読ぃ……生きて、るかぁ~……?」
「……」
「……返事が、ない、ただの……屍の様「……殺さ、ない、でよ」だ……ああ、生き、てるか」
粗方のモンスターを掃除したと思われる術の中で、自分達が倒した虫の亡骸に寄りかかりながら、相手に声をかける。息を荒らげながら、掠れた声で返事を返してくる心読に、結構やられたらしいな、と検討をつける。大方、虫に四肢のどこかを喰い千切られでもしたのだろう。
まぁ、そういう自分も似た様なものだが。
元々着地の時点でおかしかった左腕は、Gの1体に喰い千切られて肩から下が無いし、右脇腹も確か――百足か何かに喰われて出血多量。
幻なんだから痛覚も無くして欲しいものだが、これを使うのが藍先輩達《諜報隊》なら用途は敵に襲われた時の足止め用か弱体用の筈なので、痛覚を無くす訳にもいかないんだろうなぁ。
おかげでものすごく痛い――訳でもない。心読はともかく。
「どこ……喰われ、た?」
「両……足……膝から」
「お~……そうですかぁ……まぁ、似たり寄ったりか」
「一……応……魔法使っ、て……止血……は、した……けど……よ、40分、弱もぶっ続けは……キツい、し、痛いなあ」
「……いいなそれ、自分は魔法使えないからなぁ」
会話しながらも術自体を弄くって、痛覚を与える部分を無効化しているからだったりする。見た目酷いし出血している(と錯覚させられている)ので頭もよく回らないが、痛くないのは大分マシだ。乱れまくっていた息を会話しながら整え、チラリと自分にのみ見える術式を見やる。
「さて、心読、戻れる様になったみたいだから行こう。お前の前のそれに飛び込めば戻れる」
「どこ――って、これ? あの、いか……にも、出口です、……みたいなこれ?」
言葉と裏腹に動かないまま、術に介入していた右手を動かして心読の前にゲートを開けた。
「んじゃ、先に……行くよ。風も……すぐ」
「行くから行けって。お前が入らないと自分も行けないだろうが」
心読が息も絶え絶えにゲートに飛び込んだ直後、そのゲートが跡形もなく消滅する。
「……やっぱり2人通すのは無理か」
まあ当然か、と剣を杖にして立ち上がり、痛覚は無くても出血の所為でフラフラする(と認識させられている)頭を押さえる。
さっき心読が通ったゲートは無理矢理作ったものであり、バグの様なもの。藍先輩が気づいて修復される前に心読を通す事は出来たが、やっぱりちゃんとした解除方法で終わらせないといけないようだ。
念を押しとくか、と頭上を見上げる。で、誰もいないのを分かっていながら口を開く。
「おーい、見てんでしょ? 青龍様」
(←あら、気づいてたの?)
途端、降ってくる声。青龍様の声。
「……そりゃ完全にリアルの方の体との接続をぶっち切ってる訳じゃないんだから、リアルサイドの声も聞こえるのは自明の理でしょうに」
(←ふふ、心読君は完全に聞こえてなかったみたいだけど?)
「心読はこーゆー幻術苦手だからなぁ」
笑い声が降ってくるが、とりあえず無視して剣についたゴミを落とす。これをしとかないと切れ味が悪くなるのだ――って、幻術の中じゃ必要無いのか。
(←それにしても、やっぱり風君は術式に介入したわね。藍君が慌ててたわ。あのゲートもそうだけど、風君、時間と痛覚に関する術式を無効化したでしょ?)
「……まぁ、魔法とか術とか、使えない代わりに介入は出来る様に頑張りましたからね。研修棟時代に、どこかの誰かさんにやられまくりましたから」
(←……それ、暗に私達の事責めてる?)
「アアナンダ、自覚アルンデスカー、青龍様ニモ罪悪感ッテ言ウ物アルンデスカ驚キデスー」
(←……イラ)
「……へっ」
青龍様を言葉で攻めるの楽しいわぁ、とニヤニヤ笑いながら、剣を新たに出現した虫に向ける。
(←で? ワザワザ声かけてくるって言うのは何かあるんでしょ?)
めんどくさそうな声が降ってくる。頬杖でもついてそうだな~、と想像しながら、目の前からは視線をずらさずに言う。
「多分心読にフィードバックがあると思うから、ちゃんと《医療隊》の所に運んでやってください。こんな《開発隊》のお遊びで、彼奴に後遺症が残ったら洒落にならないでしょ」
(←お遊びって何よお遊びって! って……え、そんなに酷くないじゃない風君)
「自分を基準で考えないで下さいよ……心読はこう言うの初なんですからね?」
(←ああ、そう言えばそうだったわね)
オイオイ、と目を閉じて頭を振る。感覚がおかしいだろ感覚が。
「……ま、サクッと終わらせて自分も戻るかな……」
ちらりと地面に刻まれている術式を見やる。大分壊したのだが、見ている傍から修復されていってしまっていて――。
――あ~、これは虫を駆逐している場合じゃないかもなぁ……一緒に地面壊すくらいの威力でやらないと無理な気が――……うーん。もう、切り札使うかなぁ、心読いなくなったし。
と使った後の状況を思い浮かべ、溜め息を吐きたくなる。事後処理がメンドクサイんだよなぁアレ……。
もう一度目を閉じ溜め息を吐いてから、脳裏でその切り札を使用するのに必要な事に意識を集中させる。地響きが――大方モンスター共の突進してくる際の副産物――足を通して伝わってくるが、今は無視。
(←あら、どうやって? あと30匹はいるわよ?)
青龍様の不満げな声は、目を閉じている所為か。頬さんの能力は、対象の人物がリアルタイムで感じている・見ている物をスクリーン等に映し出す事が出来ると言うタイプの物なので、こちらが目を閉じてしまうと青龍様達も見えなくなるのだ。
まぁ、分かってやってるんだけど。
――よし。
「……どうやってって、」
ボソッと呟きつつ、目を開いて――
「こうやって?」
目の前の状況を、自分の目を通して現実サイドの《開発隊》に見せつける。
絶句しているのか、上から降ってくる筈の声が沈黙している。
まぁ、端的に言うなら――
その場にいる虫全てが、バラバラになっていた。
(←…………な、なにやったの!?)
漸くそう驚きも露に言った青龍様や、あの場にいた《開発隊》の面々の顔を思い浮かべて、薄く笑う。これで少しはいつもの仕返しが出来た。
フワリ、と、やけに澄んだ風が、自分の頬を撫でた。
◆◇◆◇
「……あ~……疲れた…………」
鈍く痛む頭を押さえつつ、《開発隊》から逃げてきた後。
現実サイドに戻ってくると、予想通りに最後のをどうやったのか質問攻めにされた。ものの、説明したらしたでメンドクサそうな事になりそうだったので幻術の改善点のみ言い、自分は情報・技術・備蓄集約棟――通称図書棟と言う建物の6Fまで逃げ出してきたのだった。
東棟の更に東側にあって、《調査隊》が集めた《原書》のコピーやら、《開発隊》が開発した魔法や術の教本(余りに難しかったり機密性の高い物は閲覧に許可が必要だが)やら、自分も所属する《補給隊》が狩ったり買ったりして集めてきた物資が保管されている。《原書》のコピーは5~6F、魔法や術の教本は3~4F、《補給隊》が集めてきた物資は1~2Fと言った所。
「……いまだに左腕がぎこちないってどうなんだよ……」
本のページをめくりつつ、グッパッと力を入れたり抜いたりして見る。それでもまだ変な感じがする。フィードバックって怖いっすね。
切り札の後遺症による頭痛をなだめ賺しながら、尋常じゃ無いペース(速読より速いぜww)で本の内容を叩きこんでいく。何しろここにある蔵書5万冊全てを――まあ無理でもせめて今調査が完了しているSRの《原書》位は――覚えてしまおうと言うのだ、普通のスピードで読んでたんじゃ何十年とかかってしまう。
しばらく無心で手を動かす。
……カラーン……コローン……。
「……あ?」
突如遠くで、でもある程度の大きさで鳴り響いた鐘の音に、慌てて近くの時計を見る。表示されている時刻は19:50。
「は~い、あと10分で閉めますよ~出て下さいね~」
ここの司書さんである、原本・司書さんがこのフロアにいる人に対して呼びかける。本を持ち出しは出来ないので、全て戻して帰らなければならない。
――……読みすぎたかなぁ……。
目の前に視線を落とすと、本の山。ざっと数えると、
「……いや、どんだけ読んでるんだよ……50冊とか…………」
自分が出した結果にちょっと引いてしまう。ここに来たのは17時前だった筈だが……2時間で、ハリー・ポッ〇ー――いや、今例で挙げたけど、ハリー・ポッ〇ーのSRの《原書》もあったぞ……それ並みの厚さの本を50冊だぞ? おかしくね?
「――あれ、風さんじゃないですか」
「あ、司書さん、どうもです」
若干自分の所業に唖然としていた自分に、司書さんが話しかけてきて頭を下げる。よく利用するので、顔見知りになってしまっていたり……。こう言う知り合いが、MSPに入って増えている気がするんだけど――まぁ、いいとして。
彼女は積まれている本に気が付くと、目を丸くした。
「え、風さん、これ全部読んだんですか?」
「へ? あ、まぁ……」
「……ちなみに、どれ位で?」
「え、っと、2時間弱って所かと……」
ポカン、と口を開ける司書さん。よほど驚いたのか、口が開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。
「……えっと、司書さん?」
「――す、凄いですね! 2時間で50冊も本を読むなんて!」
「……い、いや、大した事じゃ無いですよ……って言うか、本直さなくちゃならないんで……」
「あっ、そうでしたね。私も手伝いますよ」
「い、いや、自分が出したヤツですし」
「2人でやった方が速いですって♪ んじゃ、これ直してきますね~♪」
「あっ、ちょっ……持ってっちゃったし」
何かはんばなし崩し的に本の半分以上を持って行かれてしまった。自分が読んだ本なのだから自分で直すべきだと思うのに……まぁ楽になるからいいか。
残った20冊を持ち上げて、ふと一番上の本の題名が目に入る。
『多重時空警察の法則』
「……」
この本は、《補給隊》の任務中にも思い出した、あの『身内であればWIPを壊さない限り何しても良いよ』が全て載っている物である。何回も読んだ筈だが、また持ち出してきていたらしい。
「…………」
それを見て、建物の外へ視線を向ける。ここは最東の建物で更に南側の端なので、周辺遮る物が殆んど無い。建物の周囲には少し背の高い植物が大量に生えていて、その先には――何も、ない。建物はおろか、地面すら消失し、先にあるのは虚無の様な無空間のみ。あそこ――境界――を超えた人は、戻ってこなかったとか言われている。
それはおかしいのに。
「………………だって、MSPの――」
「……あれ? 風さん直さないんですか? 閉めちゃいますよって言うか貴方で最後ですよ」
沈みかけていた思考が司書さんの声で現実に引き戻される。出しかけていた声は霧散し、疑問に首を傾げる司書さんに愛想笑いを浮かべたのだった。
◆◇◆◇
司書さんに急かされる様に本を片付けて、図書棟を出たものの、すぐに帰る気にはなれなかった。
外が見える窓の近くで、誰もいないのを確認してから、先刻の続きを呟く。
「――MSP関係者以外がいないなんて、おかしいのに」
そう、おかしいのだ。《異考者》とは、小説の中に出てこないのに存在していて、他の作品にも出てくる様な『表』側――つまり、登場人物以外の人々の事だ。更に、モブキャラと呼ばれる、主人公達と全く関わらない人々――『裏』側の人――とも違う。本当に、そのSRに必要とされていない人々の事なのだ、《異考者》とは。
自分達《異考者》は、世界を借りている側であり、世界を作る側ではない。例えるなら、勝手に家に巣食っている蜘蛛の様な者。
だから、住人を差し置いて、蜘蛛が家を占拠している状況があってはいけないのだ。
そう、今のMSPのここの様に。
「ここは、どこかおかしい」
最近の口癖になりつつあるこの言葉。ここに来る前に培った感性が、常に異常を訴え続けている。他の人は気が付いていないのかな本当に。
ブツブツと呟きながら、自分の与えられた部屋へと戻っていくのだった。
以上です。
戦闘シーンが書けない……会話書いてる方が楽だ……。
ってな訳で今回も殆ど戦闘シーンカットしてしまってます……スイマセン、次から善処します。
……しかし自分、今これ投稿した時、テスト真っ最中なのに……何やってるんだか(アハハ)。