《補給隊》と《開発隊》・2 10月25日/141
ちょっと、長めになってしまいました……。
【《開発隊》にて】
◆◇◆◇
「ああ、風君? 分類が終わったなら、血液の溜まった箱持って来てくれる?」
その声にハッとして、いつの間にか外れかけていた心の錠前をしっかりとかけ直してから意識を戻すと、目の前の4色の箱はどれも満杯になっており、魔物を入れていた白い箱は、血以外何も残っていなかった。
――……ちなみに、魔物の血は赤とは限らないと言う事を《補給隊》に入った後で知った。今の状況も例に漏れず、赤(戦闘時に怪我をして出た人の血)以外に青やら黄やら緑やら橙やら紫やら白やら黒やら金やら銀やら透明(他の色に混じってもう分からないが)やら、ありとあらゆる色が混じって凄い色になっている。ふと片方の白い箱を見て、明らかにもう一方よりも赤色が勝っている事に気付いた――と、言う事は、
「……先輩、」
「ん~?」
「……邀撃先輩、結構な怪我してるんじゃ無いですか……? 此処のSRって、赤色の血を出す魔物、少なく無かったですっけ」
恐る恐る、そう匣先輩に進言してみる。匣先輩は第一戦闘に出ていないし、自分も怪我は余りしていない。消去法で邀撃先輩が怪我をしている、と言う事になるはずなのだが――言われて振り返った先輩は一瞬キョトンとした顔をした後、すぐクスクスと笑いだした。
「大丈夫よ。邀撃君は結構《血晶》を多く持って来てるから。怪我しても、少なくとも出血死する事は無いわ」
「……強引な方法ですね……」
匣先輩の元へ、血液を片方の白い箱へまとめて入れた物を引きずって行きつつ感想を言う。
匣先輩が先刻言った《血晶》とは、MSPでよく使うアイテムで――要するに、輸血剤である。人や魔物等の血液を固めて結晶化させ、怪我した時にその結晶を飲み血の足しにする、と言うのが主な使い方。
勿論血液型の所為で血液の凝固反応が発生したり、別の生物からの輸血で拒絶反応が出たり等の問題があるので、殆どの人は《血晶》を更に分解してから生理食塩水として使ったり、塩分、水分等々にまで分解してしまって調味料等に使う人の方が多いのだが、邀撃先輩はめんどくさがりなのだろうか。
「……でも、輸血して血は足りてるとはいえ、怪我の方を塞がないと意味無いのでは……?」
「だから今やってるんじゃない? 邀撃君、怪我を治療してる所、見せないもの」
「……成る程」
荷物を運び拠点に着くまで一緒にいた邀撃先輩がいつの間にかいなくなってるのはそう言う事か。
《補給隊》第8班に配属されてまだ1週間も経っていないが、邀撃先輩と2人で物資集め、匣先輩は拠点でお留守番し、物資の分担は匣先輩と分担してやる、と言う役回りが確定したのは結構早かった気がする。他の2人より仕事量が多い感が否めないが、匣先輩と分別している間、行方をくらましている、と言うか何処かに行っているなとは思っていたが、怪我の治癒ですか。
「さ、早く《血晶》化させてしまいましょう? 時間が勿体無いわ」
「……そうですね……」
ズリズリと匣先輩の前まで引っ張っていった白い箱2つ(1つに1000リットルは入る。血の量は1.5杯分)の中に砂っぽい物を投下すると、たちまち《血晶》がピシピシ固まり浮かんでくるので、すかさず掬う→布で拭く→色から分別して瓶の中に入れる……を繰り返していく。黙々を作業する中、沈黙に耐え切れず、ふと思った事をボソッと言ってみた。
「……にしても、毎回見ても凄いスピードですね結晶化するの。どうやってるんですかね」
「……《晶化砂》がどんな原理で出来てるかなんて《開発隊》のメンバーに聞いて」
――それもそうか。
さっき匣先輩が言った《晶化砂》とは、白い箱の中に入れた砂の事だ。《開発隊》しか作れず、製造方法は《開発隊》の上層部にしか伝わっておらず、噂では材料がもの凄くグロイ物だとか。《補給隊》からしてみれば、《血晶》化させた方が重量も体積も減る(凝縮して圧縮して水分を飛ばしているらしい)ので、よく使うお馴染みのアイテム。
……暫く無言で手を動かす。そして、
「……そろそろ終わりそうかい?」
ヒョコ、と邀撃先輩が顔を覗かせた15分後には、あれだけあった血液が全て《血晶》化していた。
「おサボりさんのお帰りよ、全く。堕落ちゃんだった時はもっと正義感の溢れる子だったのに。ああ、私の1番の弄り相手だった堕落ちゃんはもういないのねぇ……」
芝居くさった仕草でよよよ、と悲しんでるふりをする匣先輩の相手をするのが鬱陶しくなりつつある(毎回この件をやられれば誰だってそうなる。しかも弄り相手て……)ので、今しがた入ってきたばかりのもう1人の先輩へ振ってみた。
「……言われてますよ、先輩」
「……それは前世の私であって、僕じゃないんだけどなあ」
邀撃先輩の同意が得られたところで2人で冷たい視線を照射してみると、みるまに匣先輩は慌て出した。
「ち、ちなみに言っとくと、堕落、なんて当て字を使ってるけど堕落ちゃんは《諜報隊》で結構有数なメンバーだったから、決して私1人が独り占めしてた訳じゃないから、ご、誤解しないでね風君。ただ、相手を裏切ったふりをして情報を探るからそんな名前にしていただけであって、その感性に私が大いに刺激されただけであって……」
「……前にも聞きましたよそれ」
「全くこの人はぶれないよ、ずっと……100年前に初めて会った時もこんなノリだったし……」
「……あ~ら、その人が心配で転生する度にMSPに戻ってくる邀撃君に言われたくありませんーっだ」
「……それを言うならその毎回戻ってくる人を待って……」
毎度毎度繰り返されてきたのであろう息の合った掛け合いをしている2人の先輩の近くで、コッソリと溜め息を吐く。
匣先輩は少なくとも100年は生きているし、邀撃先輩は何回も転生しているらしい、と言う事が分かったのは初めて一緒に任務に出た時だったが、その時は驚きを隠すのに苦労した。一体どれだけの時間を此処で過ごして来たのだろうか、この2人は。
「……ねえ、Fuはどう思う?」
「……は、はい?」
急に声をかけられ、些かすっとんきょうな声を上げる。で、目の前にまで近付けられた先輩方の顔に面食らう。
「聞いてなかったわね? 全くもう。別に転生して戻ってくるまで待ってても別に良いと思わないって聞いたの!」
「……は?」
「だから、毎回毎回死んでも戻って来るって分かってるんだから、戻って来るまでMSPの正門前で待ったって良いよね? って事!」
「……でも、戻ってくるのに最低でも5年はかかるんだから、その間ずっと待ってるのはおかしいって!」
そのままヒートアップしてギャアギャア言い合い、最終的に、
「「Fu(風君)もそう思うだろう(でしょ)!?」」
とにじり寄ってくる2人は相当に仲が良いんだろうなぁ、と(現実逃避気味に)思って、取り合えず意見を出す。
「……別に人それぞれなんじゃないんですか。先輩方で話し合われれば良いのでは……自分的にはそんな事をしている暇があるのなら本を読んでたいですけど……あと近いです、お2人とも」
途端にパッと離れる2人に溜め息を吐いて、箱を持ち上げつつ忘れているのであろう事を言う。
「ちなみに、もうそろそろ戻らないといけないんじゃないですか? 邀撃先輩も匣先輩もその事でもめるのは良いですけど、せめて任務が終わってからにしましょうよ?」
「……うん、そうだね……」
「……はしゃいですみませんでした……」
◆◇◆◇
荷物を全て持ち、人がいた痕跡を全て消してから、3人供に拠点の真下の地面に描かれていた円陣(不可視化効果の陣)の中に立った。この陣内ならこのSRの人には見えなくなるからである。
邀撃先輩は班員2人が体の何処かに触れている事を確認してから、手に持っている緑色の五角柱の2つの底面に五角錐がくっ付いた様な形(双五角錐柱と言う形らしい)の鉱石を足元に落としつつ、口を開いた。
「転位・MSP北棟召喚陣」
起句を唱えた途端、双五角錐柱、通称《セル》が光を発し、――すぐにその光が消えて、硬い合成音の様な声が聞こえた。
『規定サレタ場所ニ結界ガ張ラレテイマス。「コード」ヲ入力シテ下サイ』
「あ、忘れてた。えー、『 』」
邀撃先輩が『コード』を(傍受されない様に)特殊な言葉で言うと、今度こそ《セル》が強い光を放って弾けた。その破片が粉砕され砂程の大きさにまでなると、丁度三人が中に入るように円となって広がる。
直後、視界がホワイト→ブラック→ホワイトの順に明滅(?)した。
「……う」
何度やっても慣れない物だ。クラクラする。
次に視界に入ったのは見慣れた――と言ってもまだ1週間程度しか経っていないが――MSP北棟4F召喚陣部屋の中。今まで行っていたSR直通の回廊(さっきのブラックの間が丁度回廊を通っていた時になる)の出口(これは《ポータル》と言う)から出てきつつ、手に抱えた4色の箱を一旦足元に落とし、ちょっとした個室状態になっている《ポータル》の出入口を閉じる(と言うか扉を閉める)。これを忘れると大変な事になる。
「おーいFu? 早く来なよ、邪魔になるよ~?」
「あ、今行きます……うっ、」
入口から出て行きかけていた邀撃先輩について行こうとして、持ち上げた箱の重さによろめいた。重い。まあ結局的に今日狩った魔物(血液分を除く約100㎏)を全て持っているのだから当たり前だが。
少なくとも部屋の中にいると邪魔なのは明確なので、先に出て行ってしまっていた先輩の下へ4色の箱を抱え上げて持っていく。たった10mでもう腕が痛いってこれ如何に。
「んじゃ、僕は任務の報告と食糧部分を食堂に渡しに行ってくるけど、2人はどうする?」
「私は《血晶》を病棟に持って行くけど……ついでに皆の武器のメンテナンスをお願いしてくるわ。そろそろ耐久値(ゲームとかとは違いリアルな方での損傷具合の事)回復しとかないとやばいでしょう?」
邀撃先輩の質問に対し、匣先輩がすぐ答える=逃げた。重い荷物を持ちたくがない為に。顔を背けてあからさまに溜め息を吐いてみた途端、2人の視線が突き刺さる。別に目論見を見抜かれた程度でその態度は如何なのだ、ともう一度溜め息を吐く。
後輩とは時に理不尽な事を強いられる者だ。諦めるしかないだろう、この場合。
「……はぁ。…………もういいですよどうせ先輩方持つ気無いんでしょ自分が行きゃいいんでしょ行きますよもう……」
「「有り難うFu(風君)!」」
満面の笑みでそういってくる先輩方にもう一度溜め息を吐き出し、邀撃先輩が持っていく赤箱以外の箱を持ち上げるのだった。
◆◇◆◇
匣先輩と一緒に《鍛冶隊》本部――東棟6Fで黄箱と緑箱を渡した後匣先輩と別れ、同じ棟3Fの《開発隊》本部の戸を叩き、青箱を渡した頃には両腕がパンパンになっていた。
「痛つつ……あ~重かった」
「お疲れ、風君」
近くにいたルームメイト(MSPでは第7等官~第準3等官までは何人か一緒に相部屋となる)の因幡・黒小人が苦笑しつつ水を持ってきてくれたので有り難くいただく。一息で飲み干し、コップを返していると、ふと誰かが近付いてきた。その人の格好が目に写り――危うく吹き出すところだった。水を飲み込んでて良かった、とその人に文句を言う。
「……白・青龍様――何でそんな格好なんですか」
「ん~? 普段着だよ?」
「何が普段着ですかそれどう見たってドレスだししかもワザワザそのドレスを選ぶ必要ありますか!?」
声をちょっと荒らげながら目を手で塞いでそっぽを向く。
……勘違いしないで欲しい。その、白・青龍様(東棟の管理者で《4聖獣》の1人。つまりメッチャ偉い。階級は第2等官)の服装は本当に、本っっっっ当に必要最低限の隠さなければいけない所をを繋がった一枚の布で隠しているだけにしか見えない(例に挙げるなら、名探偵コナン8巻ナイトバロン事件で出てくる上条秀子さんが着ていた様な)ドレス姿で、目のやり場に困るのだけ、それだけである。
「……あ~風君、何言っても無駄だよぉ~……。青龍様、いっつも《開発隊》内じゃこんな感じだし……正直、私でも目を覆いたくなるから止めて欲しいんだけどね」
「……いっつもって。……んじゃ最初に会った時に来てたのは」
「そりゃ新入官が《開発隊》に来る時は自重してるわよ。んでも新しく《開発隊》に入った奴も慣れてきてるし、風君に至っては研修棟だった頃から知り合いでしょ? もう良いかなぁ、ってね。ハッキリ言ってあれ動きにくいのよ」
……成る程、初めて会った時(=研修棟でSクラスになった数日後ぐらい)から前回此処に来た(=3日前)まで着てたあの如何にも上司です、的な支給服の着方は外客用だったと。つまりこの人はこれがデフォルトな訳か。うん注意しよう。
因幡がもたらしてくれた新事実をしっかり脳内メモに書き加えてから、(言いたくは無いが)気になっていた事を口にする。
「……んで、何の用ですか。いっつも奥に引っ込んでる青龍様が出てくるなんて、何かあるからでしょう……て言うか推定じゃなくて断定でしょう?」
「おっ、鋭いね~。私は鋭い子が好きだよぉ~、なんならこのまま部屋に「行きませんから」……ちぇ、つまんないの」
ちょい容認できない言葉が漏れかけたので即刻却下すると、青龍様はブーと頬を膨らませたものの、幸い何時の間にか伸ばしてきていた右手(……何やろうとしてんだかこの人)を止めた。そのまま手を収めるのかと思いきや、本当に左手首を掴んで、
「……ま、どっちにしろ要件はこっちに行かないと出来ないから取り敢えず来て」
と言いつつ引っ張られて危うくこける所。
「え、ええちょ、どこ行くんです?」
「ん、《開発隊》2F第1実験室」
「……いや、言いたくないですけど、……また、」
「実験」
「…………」
青龍様の発言に無言になって、(引き摺られつつ?)歩く事僅か1分。何故かついて来ている因幡と共に階段を降り、北棟寄りの部屋に入る。その部屋は、人が考え、見ている物をリアルタイムで見る事が出来る頬・脳内翻訳さん――《諜報隊》メンバーだが殆ど《開発隊》にいて開発を手伝っているので青龍様にも「こっち来ればいいじゃない」……と言われている程の人。《補給隊》此処に来る時によく会い、研修棟Sクラスの時の同級生で、さん付けなのは本人の希望――と、座った人が暴れだしても逃げない様に(?!)縛り付ける為の拘束具付きの椅子が2脚。それに(確か)《諜報隊》のブルーマウスと言う班のメンバーの、藍・鼠先輩が居た。
「……何ですかこれ」
またか、と入った入口で立ち止まっていると、後ろから因幡が諦め――もとい、実験動物を見る様な満面の笑みで言ってくる。で、青龍様が因幡と同じ笑顔で振り返り言う。
「さーて風君、宜しくね!」
「……」
2人の笑顔に悪寒が走る。こういう顔をすると言う事は大抵――、
「……まさか、まぁさぁかぁ、幾らなんでもまた説明無しの本人の理解と同意無しに何かやるつもりじゃ無いですよねぇ……?」
前も感じた嫌な予感に口の端をひきつりながら逃げ出そうと後ろを向くも、目の前には敏捷力全開で回り込んだ青龍様がいて仁王立ちでジリジリ此方へ歩み寄ってくる。それに気圧される様に後退りしているうちに誘導されたのか、足が何かに引っ掛かった、
「な、」
と思った瞬間には椅子に縛り付けられていた。しかも拘束具が食い込んで痛い。すぐさま外そうと試みて、
「い、痛っ!?」
途端ビリビリと電流が走って目の前が一瞬チカチカした。なにげに痛い。
「ゴメンね風君……全てはMSPの為――私達にその身を捧げて欲しいなぁ!」
「い、いやいやちょい待て! お前そんなキャラだったか? お前までそっち側になったのか? しかも滅茶苦茶悪者の台詞だろ!」
目の前で手をワキワキさせる因幡にゾワッとする。どう見たってマッドサイエンティスト――だ。うん。
「大丈夫風君……屍は拾ってあげる……それに贄はもう1人いるしねぇ……」
「……贄って生け贄かよ……それに自分以外にも巻き込むのかよ、自分だけならともかく、誰を?」
いつも戦闘時に感じている悪寒とは別の危機感を感じるんですが、ともう諦め気味に脳内で呟いた所で、
「はーい、2人目入りまーす」
と言う声と共に誰かが入ってきた。声の主はもう1人の目を塞いでいる様で――
「……て、心読?」
「そ、その声は風かい? って言うか見てるならこの手を外してくれる様に言ってくれよ、任務終えて帰ってきた所を捕まってこのままなんだよさっきから」
「……いや、悪い、自分も捕まってんだわ」
入ってきた(塞いでる方)天華・付与先輩(コアやセルなどに術式を追加して特定の状況下で使える様にする加工技術持ち。ちなみに男)は、(塞がれてる方)心読・銃士(頬と同じく研修棟Sクラス時代の同級生で当時次席という強者。デフォルトで人の心が読める)を2人羽織り状態で隣の席に上手く誘導し座らせると、拘束具をたった2秒で捲き終えた。それと同時に目の覆いを外されて、
「え、ちょ、風、どういう事になってんのこれ!?」
と驚きの声を上げる心読。いや普通、拘束具捲かれた時点で気づけよ……。
「……どう見たって、見たまんまだろ……」
「いや見たまんまって、何達観してんの風!? いやな予感しかしないんだけど!?」
そう言って、体を捩らせるものの、ビリッときたのか、
「痛う!?」
と言って悶絶する。デジャウが……。
「……心読、お前何やってんだよ……」
「痛てて……風、これどう言う状況なのさ、何で逃げようとしてないんだよ?」
「……あれ見てもそれ言えるかお前?」
顎で正面を指す。そこにいるのは、自分達の状況を見て顔を青くしている藍先輩と、その前で明らかに正気じゃ無いだろと言える顔をした《開発隊》の数人。
「……いや、言えないわ……」
「……だろうなぁ……正直言ってあの顔トラウマなんだけど」
「……トラウマ? 風にトラウマなんて物あるの?」
「誰だってあるだろう、それぐらい……さて、何されるのやら……」
動けない2人で因幡達の方を見る。頬さんや藍先輩に何やら言っていた青龍様がこちらの方を見てニヤッと笑う。
「ああ、心配しなくていいわよ。貴方達はちょっと寝ててくれるだけでいいんだから」
「へ? 寝ておくだけでいい……?」
心読が首を傾げる。心読は《開発隊》でこういうメンドクサイ頼まれ事をされた事が無いから想像がついていないのだろうと思うが、研修棟時代から散々やられまくった経験から、何がやりたいのかが分かってしまうのがマジで嫌だ。
「……ハァ…………」
「? どうしたの風?」
「あらら、風君は分かっちゃったのかしら?」
「………………どーせ」
青龍様のニヤニヤした顔から逃れる様に横を見ながら、溜め息混じりに答えを言う。
「新作幻術のテストやれ、でしょう……もう『寝てろ』の前に青龍様に腕掴まれた時点で嫌な予感してんだからなチクショウめ」
「あら、正解じゃない。流石15回以上似た様な事やらせてれば気づくかしらやっぱり」
「……え、え、え? な、なぁ風、新作幻術のテストも何でやらされなきゃいけないのかって言うのも気になるけど、お前『15回以上も似た様な事』って、」
心読が隣で食いつく。ん? と首を傾げて彼を見ると、驚きの表情の本人と目が合う。
「ん? そんな食いつく事か?」
「食いつく事でしょ! ……ちなみに聞くけど、どんな事をやらされたのさ?」
「……えーと、今回みたく幻術のテストとか最新開発した銃の射的相手になってくれとかプロトタイプの武器とか術とかの効能確認の相手とか? 大半が新作の術のテストだけど殆ど死にかけて無いのは無いんだよなぁ……今日のもどーせ似た様な事になるんだと思うし、大した事無いだろうと思うよ~……」
「ちょ、風、目! 目死んでるよ!?」
だって抵抗しても青龍様に止められるし。
諦めの境地に入っていると、因幡が頬さんと藍先輩を連れて近づいてくる。その目がマッドサイエンティストみたくなっているのに、さっきもそうだったが因幡も堕ちたのか、と溜め息を吐く。因幡は《開発隊》内でもこれに参加していなかった側だったのだが、(青龍様に説得されたのか知らないが)手を染める気になったらしい。
「んじゃ、藍さん宜しくね!」
「は、ハイ! 精一杯やらせて頂きます!」
少々因幡に対して恐怖がある様に見える(脅されでもしたか?)藍先輩が、同じ階級の筈の因幡に敬語で答えて――よくよく考えたら自分も因幡に敬語使わないといけないのか――持っていた真新しい杖を振り上げる。どうやら、あれが今回のテスト試験物らしい。
「え、ちょ藍先輩待って――――」
「心読、もう諦めろ、もう遅いって」
「風達観してどうするんだよ~~!?」
「では始めます! 【バグカオス】発動!」
――……虫の混沌ってどう言うネーミングセンスだよ……中身が想像できる名前はどうなんだと思うんだが………。
幻術をかけられる寸前、思ったのはそんなずれた物だった。
以上です。
本当は、この後の【バグカオス】内での会話も入る予定でしたが、余りにも長くなり過ぎるので止めました。出来るだけ早く次のThirdで投稿しますので、お待ちください。
……にしても、風君のスペックが書いてて異常になっていきつつある……。しかもよく頼まれ事(その中身はメンドクサイ事の押し付け)されて断れないと言う苦労気質。よくこんなキャラで書こうと思ったな自分……書いてて不憫になってきた。
まあ次の投稿まで、気長に待っていて下さい。